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異世界が転生する話

作者: 相戯陽大

しがない高校生の主人公がある日突然神様に会い、異世界転生して欲しいと言われる話です。異世界転生するとは言ってません。

「これで良し、と。」


いつもの部屋で寝ている感覚だった。しかしそれはちょっとした非日常の始まりで、俺はそれにうすうす感づいていた。こういうときは一番面倒くさくない方法で行けば大抵なんとかなるものなのだ。


「目が覚めたかい。」


うっすら意識があった俺は、その言葉を聞いて意識を完全に取り戻した。目を見開くとそこは俺の馴染み深い世界と全く知らない世界の中間のような場所だった。窓や扉の場所、天井の高さ、俺の寝ていた布団の位置、どれも俺の部屋と同じだったけれど、そこに置いてある家具は位置はそのままに色だけが変わっている。そこにさっきの声の主、白髪と白髭を蓄えた老人が立っていた。


「ここはどこですか…?いや、あなたは誰なんですか!?」


「そう質問を一度にするでない。時間は無限にある。そうだな、ここは天国、私は神とでも言おうか。お前さんは死んだからここへ来たのだよ。」


そんな馬鹿な、ここはどう考えても俺の部屋だ。まるで俺が寝ている間に模様替えをしてしまったかのようで、俺が死んだなんて微塵も感じない。


「そうだ、俺は今日3時に寝た。昨日買ったFPSに夢中で時計を見たとき驚いたのを覚えてるぞ。家の鍵もかけた。扉の向こうで物音がしたから心配になって戸締り確認したのも覚えてる。これだけの証拠があるんです、死んでるわけがありませんよ!」


「誰もお前さんが殺されたとは言ってなかろう。心不全だ、突然の心臓発作で死んだんだ。この部屋は死んだ者が死を実感して狂わないよう配慮したものだ。」


そこまで言われてしまうと太刀打ちできない。これから俺は閻魔の裁判にかけられるか、最後の審判を待つかするのだろうか。


「ここでお前さんは黄泉の国へ行ってもらう。」


「神道ですか。」


とっさに思ったことが口から漏れてしまった。


「神道…?ああ、神道…お前さんは潜在的に神道を信仰しているらしいからな。それはそうとお前さんは黄泉の国へ送るにはあまりにも惜しい。お前さんに一度生きるチャンスを与えたいのだ。」


「チャンス…の前に『惜しい』の方から説明してほしいですね。」


「お前さんは人間界で生きていたにしてはあまりにも大きすぎるほどの魔力を持っている。それを発揮すれば神の私も恐れるほどのな。」


魔力、字面だけ見れば魔法の力ということだろう。問題は、なぜ神様ともあろう者がいきなり魔法なんてものを口に出したのかだ。西洋では魔女とか悪魔とか魔法と神様は関係しているのかもしれないが、日本人の俺にとっては魔法と神様は無関係のものだ。


「そういうわけで、お前さんにはこれから異世界に転生して悪魔を殲滅してきてほしい。さすればもう一度人間界で生きられるようにしてやるわい。」


「悪魔っていうのは厄介なんですか。」


「そりゃ、厄介じゃ。隙あるごとに黄泉の国を襲い、死人たちの生活を壊そうとしておる。私も悪魔を制裁する努力はしておるが、もう大分疲れての。」


神様も大変なんだろうな。


「それで、行ってくれるかの、異世界。そうすれば大変助かるんじゃが。」


「…わかりました。」


「おお、そうかそうか、行ってくれるか。なら、この窓から飛び降りなさい。この先は異世界へと繋がっておる。」


「ここ、アパートの3階ですよ?」


神様は少し驚いた様子を見せたが、なんとか持ちこたえ俺にとってこう言い放った。


「何を言う、ここは天国じゃ。お主の気が狂わないように配慮したと何度言わせるつもりじゃ。わしゃ神様じゃぞ。」


「『お主』とか『わし』とかさっき言ってませんでしたよね。しゃべり方も最初と随分変わりましたよ?」


「違う、違うぞ。わし…私は神様じゃ…神だ。いくつの言語を操ると思っておるのじゃ…だ。しゃべり方なんて小さな話だ!早く、時間がない!早く窓から飛び降りるんじゃ!」


「さっき時間は無限にあるって言ったでしょう!」


神様も大分ボロが出てきた。畳み掛けるように俺はこう言った。


「じゃあこの窓から飛び降りてくださいよ、神様?」


「私は異世界なんぞ行きとうない。疲れたと言っておろう!」


「早くしないと俺の幼馴染が迎えに来ますよ、合鍵持ってるから不審者いるのを警察に通報されちゃいますって。」


ここで神様が反撃をするように言う。


「合い鍵?さっきお前さん『戸締りはした』と言っておったな?幼馴染に合い鍵を渡しておったら戸締りなんぞ役に立たんだろう?」


「演技ですよ、死んだっていう事実を受けつけない人の。しかも戸締りしてなかったでしょう?…天国ごっこ、もう飽きたんです。」


ついに神様は俺を前に屈服した。神様を言葉だけで屈服させる経験なんて二度とできないだろう。


「くそ…いつから気づいていた?」


「『これで良し、と。』の所からです。家具に絵の具塗り終わったんだなと思いました。」


「最初からじゃないか!」


幼馴染が迎えに来るというのも口から出まかせだったが、その後俺がすぐ警察に通報して神様はあえなく御用となった。本当にちょっとした非日常だったが、もう二度と非日常なんて面倒なことに巻き込まれたくない。平和が一番だ。

王道ラノベを読んだことがありません。王道ラノベを書こうとも思っていませんでした。


期待を裏切る作品や笑いの要素を盛り込んだ作品を書きたいと思っていたのですが、いつの間にかその二つが混ざってこんな作品になりました。今思うと異世界ものをひと作品でも読んでおけばよかったなと思います。

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