「わからない」 最上司独白
西木留衣を愛したかと言われれば私はこう答えよう。
“わからない”と。
西木留衣に会ったのまだ彼女が高校三年の時。
偶々彼女の学校に講師しに行くことがありその時私の案内役として当たったのが当時生徒会長だった西木留衣だ。
夜色の髪と瞳が特徴的な彼女は始終にこやかで穏やかな少女だったのを覚えている。
何をするにも全てこなせて人並み以上の成果をあげる彼女は“万能”と言われていた。
私はそんな彼女を気に入ってしまい彼女を手に入れようとした。
幸いにも彼女は遺伝子工学の分野に興味を持っており時々私の論文を見るために自宅にやってくることもあった。
彼女は研究に理解を示してくれたし時折手伝ってくれた。
そんな関係が心地よく彼女が25歳になるまで続くことになる。
西木留衣が25歳になった年、彼女は突然もうここには来ないと言い出した。
私は愕然としそして怒りのあまり彼女の肩を揺さぶり問いただす。
何故そんなことを言うのかと。
すると彼女はポツポツと語りだした。
「この間私の年子の兄と私の親友の間に赤ちゃんが産まれました
音嶺って名付けられたのですが彼女は天使のような笑みで兄夫婦を幸せにしていました
私思ったのです
確かに遺伝子操作をすれば望んだ子供を手に入れれます
ですが遺伝子操作をしなくても親を幸せに出来る子供はいます
むしろそちらの方が子供の成長を見守る親にとっては嬉しいことかもしれません
……単純かもしれませんがそう思いました」
ですからもうここには来ません。
そう言った彼女は美しく気高かった。
彼女が正しいのは明らかだったが私には受け入れることは出来ない。
何よりも彼女と離れることを恐れた私は気づいた時にはデザインチャイルドの双子が産まれていた。
それからおよそ6年間、私は彼女の暖かな笑みを見ることはなく彼女の心を壊していた。
双子の姉“梢”は驚異的な頭脳を持っていて私を越える天才だった。
容姿も西木留衣にそっくりで私は知らず知らずのうちに梢に執着していた。
双子の弟“桐”は驚異的な身体能力と物事の全てをこなす才能を持っていた。
梢は桐の勉強のできなさは私が要因だと考えているようだが全くの偶然だったりする。
私には笑いかけなくなった西木留衣だが子供たちにはよく笑いかけておりそのことに安堵した。
だけど6年後、彼女は双子を連れて私の前を去った時は深い絶望しかなかった。
西木留衣を見つけたとき彼女はもうとっくに亡き者になっており私は深い絶望と後悔に見回れた。
結局、私は彼女に謝ることすら出来ず、更には双子を連れ去り彼女に顔向けなんてできないことも。
西木留衣を愛したかと言われれば私はこう答えよう。
“わからない”と。
だけど少なくとも彼女の隣が居心地が良く嫌いではなかったのは覚えている。
こちらは最上司の西木留衣に対する思いとかです。




