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皇国の盾  作者: 小早川
第一章
7/12

第1章 第6話

 再び空中に上がるときには敵の第二波攻撃が押し寄せようとしていた。

 沖縄の嘉手納や九州から来援した空軍のF-15J四一式制空戦闘機の編隊がそれを食い止めるべく、艦隊の上空をパスしていく。敵編隊は北から西にかけて広がりつつ、広範囲からミサイルを撃ち込んできていた。

 外周の艦艇はすでに近接防空火器(CIWS)まで使用して迎撃を行っていて、RAM迎撃ミサイルが五月雨に放たれ、海面付近で火球がいくつか現れて消え、白い筋が漂った。

 月島は艦隊の上空を旋回しながら上昇し、敵艦隊に向かう。

 東海艦隊の防空能力は海軍の想定以上に高く、また東シナ海は大陸棚の影響で水深が浅いため、帝国海軍が誇る高性能潜水艦隊の作戦には不利な環境だ。航空攻撃の成功が不可欠だった。


『なんて数だ』


 後席の麻木が珍しく呻いた。レーダースコープ上には多数のブリップが表示され、第二機動艦隊に迫っていた。それは先ほどの画面よりもはるかに賑やかだ。


「これ全部、ミサイルですか」


『敵も勝負に出たな。いくつかは無人機やデコイも混じっているだろうが。北側からは攻撃機が接近しているな』


「対処は直掩だけで足りるんでしょうか……攻撃よりも防御を優先すべきでは?」


『空軍が支援してくれている。それに、高い金を出してアメリカからイージスシステムを買ってるんだ、イージス艦が税金分の仕事をしてくれることを祈ろう。お前は敵の艦隊防空機に集中しろ』


 月島にとって空母は自分達の家であり、家族がいる。空軍がどれだけ本気で海軍の艦艇を守ってくれるか、月島には不安があったが、今は任務に集中するしかない。


『こちらダイバー21、ボマー二機を撃墜。一度アウェイしてCMに対処する』


『クローバー08、こちらソーサラー02。ボギー・ホット。ブレイク、ブレイク』


『ネガティブ、ボマーを攻撃する。クローバー09、援護しろ』


『ダイバー06、ロスト。レスキューを要請する。座標は……』


 二波傍受可能な無線は編隊内と指揮系に設定されているが、指揮系の周波数を変えると空軍のやり取りが聞こえて来た。空軍も激しい空戦を繰り広げていた。


『クーガー12、こちらフルーレ03。貴隊の後方、八マイルに位置する。宜しく頼む』


 攻撃隊を務めるFA-1のパイロットが呼びかける。同じ第二艦上航空隊に所属し、同じ空母に乗り込む仲間だ。声だけで名前も分かるし、顔も浮かぶ。

 編成された攻撃隊の第202飛行隊のFA-1は全部で十二機。四機ずつ三個編隊を組み、全機が空対艦ミサイルを二発ずつ抱えていた。彼らに敵戦闘機を近寄せないことが今回の任務だ。攻撃隊内のFA-1のうち電子戦ポッドを備えているのは二機だ。日本海軍は本格的な電子戦機が退役してからは電子戦ポッドの追加だけの応急的な対応しかとってこなかった。


『こちらクーガー12。了解。露払いは任せろ』


 麻木が答え、編隊内の周波数へ戻す。


『クーガー13、こちらクーガー12編隊長(リード)。13は当初、フルーレ03の直掩。12が先行し、長距離ミサイルで先制する』


『クーガー13、ラジャー』


15了解(ワン・ファイブ)


18了解(ワン・エイト)


 各機からの無線を聞きながら月島は周囲を見渡す。雲の流れは速く、低気圧の接近により、海も荒れている。中国軍の戦闘機の姿は見えない。


『フェンス・インまで二十マイル』


 艦隊防空を担当する早期警戒機から攻撃隊を指揮する早期警戒機へバトンタッチされる空域にもう間もなく到着する。艦隊防空機からの支援はもう受けられない。


『間もなく、戦闘空域に入る(フェンス・イン)……ナウ』


「ラジャー。ソーサラー03、こちらクーガー12、フェンス・イン」


 安全な艦隊の防空エリアを離れ、月島は管制灯火を消した。


『ソーサラー03、ラジャー。針路そのまま。高度(アルト)二万九千フィート(29)へ上昇』


「ラジャー」


 続いて麻木が編隊指揮系の周波数で呼びかける。


18(ワン・エイト)、ロースト。並列隊形(ラインアブレスト)、間隔一マイル』


『ラジャー』


 笠井のF-14Jが翼を立てて離れていき、横並びに間隔を取った。


『クーガー12リーダーより各機。自由戦闘を許可。EWに備えろ。ARM(アーモ)・HOT』


 麻木の声を聞きながら月島はマスターアームをHOTにし、武器を即応状態にした。後席の麻木もまた電子戦に備えた機器を立ち上げている。


『クーガー12、こちらソーサラー03。ターゲット、ノースイースト、ベクター018から二機接近。アルト27。60マイル』


 機上兵器管制官が月島達に接近する目標を知らせる。


『レーダーコンタクト。IFFはホスタイル。敵機(ボギー)だ』


 麻木が目標をレーダーで捕捉し、敵味方識別装置(IFF)による問い合わせを行うが、相手機からのトランスポンダの応答はない。麻木は即座に目標の類別指定を行いながら敵機(ボギー)として攻撃準備を行う。レーダー上に表示される二機編隊の輝点(ブリップ)は敵機となり、こちらに向かって接近しつつあった。


「ラジャー。……艦隊から離れて何をしているんでしょうか?」


『さあな。爆撃機の護衛か、こちらの攻撃隊を叩こうとして進出していたのか。どちらにせよ攻撃隊の障害だ、排除しろ』


 ──冷徹な指示だこと……。

 月島は操縦桿を倒して機首方位を接近する敵機に向け、兵装選択装置のアクティブレーダーミサイルのFOX3に配置されたAIM-54Eを選択する。それらの操作は後席の麻木にもモニターされている。


「五十マイルで攻撃します」


『了解。あと五マイルだ。レーダーでロックオンする』


 ミサイルの最大射程に敵機がいても敵機はその最大射程の半径を脱すればミサイルを回避できる。確実に命中する距離は無いが、敵に回避動作の猶予を与えない距離まで接近しなくてはならない。

 麻木が火器管制(FC)レーダーでターゲットを追尾、捕捉する。目標の敵機のRWRが鳴り、こちらが攻撃を仕掛けようとしていることに気付いた。

 月島機のRWRも鳴る。


『ネイルズ。J-(ジュリエット)16だ』


 敵機からのレーダー照射で敵機の機種が殲撃J-16戦闘攻撃機だと判明する。Su-27の無断コピーの殲撃J-11B戦闘機をベースに、ロシアの多用途戦闘機であるSu-30MKK等に相当する対地・対艦攻撃能力を備えている。

 麻木が即座に電子戦を開始。敵のレーダー波を妨害する。


『ターゲットまで五十マイル』


「FOX3、2シップス」


 AIM-54E二発が胴体のハードポイントを離れ、ロケットモーターに加速して飛翔する。


『ターゲット、回避機動を取った。このまま敵艦隊に向かえ』


「了解」


 先制を受けた敵は回避に専念せざるを得ず、こちらへの攻撃機会を失う。戦闘は敵に自由意志があるため、いかに主導を取るかが重要だ。戦略的には敵に主導を取られているが、戦術的に敵を自由にはさせない。


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