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皇国の盾  作者: 小早川
第一章
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第1章 第3話

 月島たちが《赤城》に戻る道中、艦隊外周の駆逐艦から黒煙が上がり、行き足が落ちて艦隊を離れようと面舵を切っていた。被弾したらしく、黒煙を上げる艦尾の甲板では排水作業が行われているのが見えた。


「あれは……」


『《峯風》だ。左舷にミサイルを食らったな』


 その駆逐艦が開けた穴をカバーするために防空駆逐艦が第五戦速を越えた最大戦速で陣形を横切る様に進んでいる。秋月型防空駆逐艦《水無月》だ。《水無月》の艦首垂直発射装置(VLS)より艦対空ミサイルが発射され、低空より接近していた敵の巡航ミサイルを撃ち落としていく。

 海面すれすれでいくつもの爆発閃光が上がり、海面に爆発の衝撃波が伝わって白く沸き立った。


『監視を怠るな。防空網をすり抜けた対艦ミサイルがあれば通報しろ』


「了解。AAM-5Bに二十ミリガン五百発。二発くらいなら撃ち落せますね」


『低空に降りれば防空艦の火砲の餌食だ。この場で我々にできることは無い』


 艦隊防空には艦隊を中心に三つの防空ゾーンが設けられており、イージス艦などの防空艦が低空を飛ぶ目標に対応できる最大射程の約百二十キロより外をアウターディフェンスゾーン、百二十キロから内側をエリアディフェンスゾーン、そしてさらに内側、約三十キロが個艦で対応するポイントディフェンスゾーンとなっている。

 艦隊は接近する対艦ミサイルや攻撃機を艦対空ミサイルで迎撃しながらも巡航ミサイルを発射して敵艦隊を攻撃していた。敵艦隊の防空能力も帝国軍の予想以上の精度を持っており、亜音速の対艦ミサイルや巡航ミサイルではかなりの確率で撃墜されており、なかなか有効打を与えられていない。航空隊と連携した同時弾着射撃(TOT)で一気呵成に攻撃しなければなかなか敵艦まで届かないが、攻撃を行い、敵に回避行動等をとらせ続けなければこちらは一方的に攻撃を受け続けることになる。

《赤城》の航空管制センター(CATCC)に接近中であることを麻木が通告する。艦隊からは敵味方識別装置(IFF)による呼びかけが行われ、二次レーダーでも月島達の編隊は捉えられている。このIFFに応答しない戦闘機は問答無用で撃ち落されない緊張感が艦隊には漂っている。

 ナイアッドこと《赤城》からは空母より方位一七〇度、距離二十一マイル、高度六千フィートのマーシャルエリアと呼ばれる待機空域で周回飛行するよう指示された。

《赤城》は今、攻撃隊を全機発艦させ、逐次艦隊防空機を収容するため、今は着艦作業に専念していた。次々に空対空ミサイルを撃ち尽くしたF-14やFA-1、F-2が着艦していく。

 月島たちは指定されたポイントに着くと、アプローチ許可が出るまで指定の待機飛行方法ホールディングパターンで周回飛行を続ける。普段ならオートパイロットにしておくが、今は時折機体をバンクさせて海面を目視で睨んでいた。

 着艦を行なう前に麻木と連携して機体総重量をチェックし、F-14Jの最大着艦(トラップ)重量より重くないか一応確認しておく。発進前にすでに計算してあるが、一応だ。

 もしオーバーしている場合は余分な武装や燃料を投棄しておくことになる。しかし《赤城》は蒼龍型空母に続き、F-14のような重量級の戦闘機を着艦させるための飛行甲板を整備しており、可変翼の主翼を持って低速での安定性の高いF-14Jは着艦進入速度をより低速に出来るため、ほぼそのまま持ち帰ることが出来る。そもそも今はミサイルをほとんど撃ち落し、燃料もかなり消費しており、身軽だった。

 着艦というのは陸上の基地に着陸するよりもはるかに高度な技術が必要だ。

 わずか三平方メートルの短い着艦用飛行甲板上に着艦するため、機体には頑丈なフックが装備されている。これを甲板上のアレスティング・ワイヤーに引っ掛けて半ば強引に機体を停止させるのだ。

 また陸上機がソフトランディングするため接地の寸前に機首を起こし(フレアー)降下率を抑えるのに対し、着艦では確実にワイヤーを捉えるためにアプローチ時の姿勢のまま機体を甲板に打ち付けるようにして接地を行う。そのため艦上機の(ランディングギア)は陸上機のそれよりも頑丈に出来ていた。ただしランディングギアや甲板側の強度にも限界があるので、 着艦時の機体総重量は厳しく制限されているのだ。

 現代の航空母艦の多くにはアングルドデッキが装備されていた。これは艦のセンターラインに対して角度を付けられたもう一つのデッキで着艦はそのアングルドデッキで行なわれる。

 そのためアプローチは艦の真後ろからではなく、角度が付いている分右側から進入することになる。

 赤城型を含む日本の航空母艦の場合は約九度のアングルが付いているので、艦首が真北〇度を向いているときは、進入は真後ろ一八〇度からではなく、一七〇度から行なうことになり、機体は三五〇度を向いてアプローチすることになる。さらに留意すべき点は空母が前進しているとアングルドデッキは常に右へ右へとずれて行くので、アプローチも接地の直前まではデッキよりやや右側を目指すようにしなくてはならない。

 自動着艦システム(ACLS)を使えば着艦は手放しでも出来るが、戦闘中は電波管制を実施しており、ACLSは使用できない。艦載機パイロットはマニュアルによる着艦技術を修得し、着艦資格を保持し続けなくてはならなかった。

 赤城型航空母艦は同型艦が三隻存在するが、長期間の任務に就く艦は一隻で、もう一隻は長期整備、もう一隻は整備を受けながらの任務待機状態で、着艦資格取得訓練や各種装備の試験などを行うことになる。

 ドイツで政変が起き、ヨーロッパ地上戦が開始されると待機中のもう一隻もローテーションを繰り上げて整備を終え、艦上航空隊を乗せて第一機動艦隊に合流しており、中国と開戦した今は東シナ海を目指して突き進んでいた。


『クーガー12編隊、こちらナイアッド。レーダーで識別。ゲート北三〇マイル、九〇〇〇フィート。有視界気象状態(VMC)。ハードポート、着艦経路(ダウンウィンド)への進入を許可する。ベース到達後、報告せよ』


「クーガー12、ラジャー。アプローチを開始、ベース到達後、報告する」


 月島たちは数分待機してからようやく進入の指示を受け、《赤城》へアプローチを開始した。

 空母までの距離が十ノーチカルマイルになるまでに、高度を千二百フィート、速度を二百五十ノットにまで下げておく。タッチアンドゴーに備えて月島は藍田に手信号を送って編隊を解散する。


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