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皇国の盾  作者: 小早川
第一章
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第1章 第11話

 攻撃の効果判定は空軍が戦闘機から発射するタイプの小型のステルス無人偵察機で実施されていた。空母一隻、駆逐艦二隻、フリゲート艦九隻が大破もしくは撃沈、駆逐艦一隻、フリゲート艦二隻が中破、残存艦艇フリゲート一隻、及び後方の揚陸艦隊七隻という判定がすぐさまに第二機動艦隊にはもたらされた。


「第二次攻撃隊は帰艦を開始しました」


「艦隊に接近しつつあった敵爆撃機編隊、ゴルフ、ホテルグループが変針。方位168から275へ。ほぼ反転した模様」


《赤城》の戦闘情報指揮所(CIC)で腕組みをしてその戦果を聞いた艦長の葛西正昭大佐は頷いた。CICの要員達は自らがもたらした破壊に言葉を失っていた。間接的にしろ、攻撃は敵機動艦隊をほぼ壊滅させた。何人の将兵の命が失われたのかはまだ分からないが、同じ船乗りの多くが命を散らしたのは間違いなかった。

 戦争が始まる以前、まだ平和外交や融和政策が優先されていた頃は中国海軍との交流も少なからずあった。双方の観艦式にお互いが艦艇を派遣し、太平洋では様々な合同訓練も行われていた。国は敵対していても、シーマンシップという絆で結ばれた仲間でもあった。お互いが本気で、真剣を取って切り合い、戦った結果こちらが生き残ったというだけであって、未だに戦闘自体は終わっていない。

 訓練で目標を撃破した時の高揚感はなく、虚しさや悲しさといった重たい空気にCICが包まれていた。


「CICは海が見えなくて息が詰まる」


 葛西は重苦しい空気に思わずそう呟いた。

 数百キロ先の海上での出来事はまるで他人事のようで、現実味が無かった。偵察機の撮影する映像がCICの端のディスプレイにも表示されている。海面に流出した燃料や油が燃え、海の一部は燃えていた。その中心で大型の戦闘艦艇が大きく傾き、艦首から没しつつあった。その燃え上がった海面ではまだ何人もの乗員が漂っていて、炎上する艦艇のそばで二重反転式ローターのKa-28対潜ヘリがホバリングし、ホイストを垂らして救助活動を行っている。海上には救命ボートがいくつも投じられ、Z-9対潜ヘリが旋回していた。

 被弾して傾き、排水ポンプを回す駆逐艦が負傷者の救出のため、空母のいた位置へ向かっている。


「本艦に近づく目標無し」


 艦隊に接近していた巡航ミサイル群を艦隊防空機が撃墜してからすでに五分以上経っている。《赤城》のレーダーとデータリンクによって共有される各防空艦の情報、そして航空隊の早期警戒機や戦闘機の情報からは第二機動艦隊にこれ以上接近しようとする目標がないことを示していた。


「敵上陸部隊の状況は?」


「現在確認中」


 ドック型揚陸艦等で編成された揚陸艦隊は東海艦隊の後方十キロほどの位置を進んでいた。これが変針しなければ第三次攻撃を行う必要がある。しかしながら空軍の支援をこれ以上受けるのは困難だ。

 台湾は初撃の巡航ミサイルと弾道ミサイル攻撃で機能を失った空軍基地も多く、現在敵の空挺作戦と揚陸作戦が進行中でそちらへの対処が最優先だ。沖縄の基地も巡航ミサイル攻撃の迎撃に成功したが、無傷では済んでいない。宮古島のレーダーサイトは破壊され、九州の基地も巡航ミサイル攻撃を受けていた。

 日本のインフラに対する攻撃も行われている。サイバー攻撃により電車や新幹線、航空路線の一部は運行を停止、市民生活にも経済的にも大きな影響が出始めていた。

 敵が定める第一列島線への攻撃を打破した今、この戦果はリアルタイムで軍令部及び市ヶ谷の国防省に送られており、第二機動艦隊は再び変針し、台湾防衛に当たることになるはずだ。

 艦隊は駆逐艦一艦が落伍し、未帰艦機が数機出たが、その戦力はほぼ健在だ。幸先は良いが、連戦になるのは間違いなかった。


「まだ始まったばかりに過ぎないのか」




 生き残った。月島はF-14Jを空母に向けて飛ばしながらそう実感していた。空戦を繰り返したことにより燃料が間もなく八百リットルを切ろうとしている。空中給油機を麻木が要請し、編隊を組み直していた。

 残る武装は機関砲弾のみ。激戦だった。


『スコーチャー。先ほどはすまない。私の確認ミスだ』


 麻木が突然謝り、月島は心当たりがなく一瞬沈黙した。そうしてようやく戦闘中、麻木が三原中尉に攻撃させようと月島の判断を優先しなかったことに気付いた。


「いえ……あれはヘイズのせいではありません。それにこうして生き残りましたよ」


『だが、貴様をみすみす危険に晒したのは事実だ。謝罪する、すまなかった』


「いえ……はい」


 麻木に逆らっても仕方がないと月島は折れた。麻木は多機数編隊長(マスリーダー)資格を持つ飛行隊内で片手の内に入るレベルのパイロットだ。操縦や戦闘よりも列機の動きを把握し、指揮に専念するため、今は後席に就いている。麻木のプライドが今回の失敗は許せないのだろう。

 しかし、あの時のレーダーディスプレイ上の情報から三原中尉が回避機動を取ろうとしていることを知るのは困難だ。目視出来ない位置にいて、ちょうど月島機を追う敵機の後背に居たのだ。ここで非があるとすれば照準されたことを報せなかった三原達だろう。


『貴様も二機編隊長(エレメントリーダー)になる身だ。私の失敗も覚えておけ』


 少ししおらしくなったと思ったらもう説教モードだ。月島は内心苦笑する。

 月島は今、飛行隊に配属された当初のTR(トレーニングレディ)と呼ばれる段階から対領空侵犯措置に対応できるAR(アラートレディ)、そして実戦が可能な空戦技量を持つCR(コンバットレディ)へと各段階の資格を上げて来た。麻木の指導もあり、その早さは同期の中でトップだ。すでにEL(エレメントリーダー)となるため、麻木から指導を受けている。

 麻木の指導は苛烈で、自信を無くすこともあった。思い悩む日々が続いていたが、戦争が始まった今、CRに実戦証明(コンバットプロープン)がついたが、戦いは始まったばかりでその教育もどうなるのか分からない。それでも麻木はまだ月島をELにするつもりなのだ。

 ELにするつもりということはまだまだお互い、死ぬわけにはいかない。


「ヘイズの失敗を見れたのは貴重ですね」


『貴様も言うようになったな……失速するまで旋回する愚か者に一本取られるとは嘆かわしいものだ……』


 麻木の目が釣り上がる気配を後席から感じ、月島は震えあがった。


『機体が揺れているぞ』


「す、すみません!」


 運動能力向上技術《CCV》とフライバイワイヤ化によって圧力感応(フォース)式になった操縦桿は月島の動揺を容易く機体に伝えた。


「……エレメントリーダー、いつ取れるか分かりませんが、必ず取ります」


『当たり前だ、エレメントリーダーになって初めて一人前だ。フライトリーダーになるまでお前から目を離さないからな、覚悟しろ』


「それまでずっとヘイズが自分のスキッパーですか?」


『当たり前だ。腑抜けた貴様の根性を叩きなおすのは私しかいないからな』


「勘弁してください……」


 月島は先行きに暗雲が立ち込めているように思えてならなかった。





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