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皇国の盾  作者: 小早川
第一章
11/12

第1章 第10話

 日本海軍航空隊のFA-1ラファールの編隊から発射されたASM-2空対艦ミサイルのミサイル群はロケットモーターによる加速を終え、巡航用主推進エンジン(サステナー)のターボジェットエンジンによってマッハ0・98の速度で中国人民解放軍海軍東海艦隊の西側より迫っていた。第二機動艦隊の各艦が発射した巡航ミサイル群に追いつき、東側からは空軍の攻撃隊が発射した対艦ミサイル群と共にほぼ同時に東海艦隊に殺到した。

 それに反応したのは052C型駆逐艦《済南》だった。中華版イージス等と呼ばれ、アクティブフェイズドアレイレーダーを艦橋構造物などに配置し、イージス艦を模した防空駆逐艦である052C型駆逐艦のレーダーは公表されているスペック以上の能力を有していた。


「超低空、多数の高速飛翔目標探知。日帝の対艦ミサイルです」


《済南》発令所において水上低空担当の索敵士官が報告する。


「くそ、小日本め。性懲りもなくまた一つ覚えの攻撃か。数は?」


「八十、いえ、百以上!シークラッターにより捉えきれません。目標のほとんどを失探」


 報告を聞いて艦長は眉を吊り上げた。とんでもない数だ。


「直ちに迎撃。空母に向かうミサイルを優先しろ」


 052C型駆逐艦は中国人民解放軍海軍が運用する艦対空ミサイルで最大射程のロシア製S-300FMに次ぐ国産のHHQ-9A艦対空ミサイルを搭載しており、セル六基を円形に配置したVLSよりHHQ-9Aを発射する。

 VLS内でミサイルのロケットモーターを点火させる日米を中心としたVLSとは異なり、セル下部から高圧ガスでミサイルを二十メートルほど打ち上げた後にミサイルのロケットモーターが点火するコールドガス発射方式を採用しており、五秒ほどの発射間隔で六基を発射した。

 しかしながら東海艦隊の四艦の052C型駆逐艦のうち《長春》は第一波攻撃で艦橋に対艦ミサイルの直撃を受けて大破して戦列を落伍し、《西安》は艦尾のヘリコプター格納庫を全損、周辺の武器システムを喪失して中破しており、《済南》と《鄭州》の二艦の052C型駆逐艦で対処しなくてはならなかった。

《済南》と《鄭州》の発射したHHQ-9Aは艦隊の百二十キロラインでの迎撃を開始する。

 HHQ-9Aは中間誘導が指令更新付慣性、セミアクティブ、終末誘導ではセミアクティブ・レーダー誘導が使用される。052C型駆逐艦は同時に十二発のHHQ-9Aを誘導し、六目標を同時対処できる。

 さらにソブレメンヌイ級駆逐艦《泰州》もまた迎撃を開始しようとしていた。


「小日本の対艦ミサイルが艦隊に接近中」


 人民解放軍海軍航空隊のJ-15パイロットは機上レーダーで捉えた多数の低空目標を母艦である《山東》に報告していた。


『外周防御は何をやってるんだ、敵の戦闘機の接近を許してるぞ!』


「低空に降下して迎撃するぞ。味方の対空砲火に巻き込まれるなよ」


 僚機の声に編隊長は呼び掛け、操縦桿を前に押し出し機首を下げた。


『あれを落とさないと俺達は帰れなくなる……!』


 編隊の各機は空中哨戒のため搭載燃料を増加するため搭載兵装を減らしていた。空対空ミサイルによる迎撃を開始するが中距離空対空ミサイルPL-12二基を発射すると巡航ミサイルに接近しなくてはならなかった。味方の対空砲火に巻き込まれる危険性は増すが、勇敢なパイロット達は母艦を守るため自らの危険を厭わず接近した。


「敵対艦ミサイル、方位245から急速接近中」


「駆逐艦が東側に偏っているところを狙ってくるとは姑息な日帝め」


《泰州》発令所、艦長の横に立つ政治将校が毒づく。すでに航空隊の情報を受けて艦隊の東側に配置された《泰州》は旗艦である空母《山東》の指示を受け、西側の防御に加わるべく面舵を切って転舵していた。

《泰州》は中距離艦対空ミサイルのSA-N-12グリズリーこと9M38M2シュチーリ1中距離対空ミサイルを発射する。最大射程五十キロのシュチーリ1艦対空ミサイルは誘導方式にセミアクティブ・レーダー誘導に加えて慣性誘導方式を採用し、マッハ四クラスの高速目標に対する迎撃能力も向上している。ソブレメンヌイ級は艦の前後に二基の単装発射機を装備しており、次々に対空ミサイルを発射した。

 迫る対艦ミサイル群はターボジェットエンジンで巡航し、敵のレーダー探知を避けるため、低高度を超低空海面飛行(シースキミング)で飛翔する。レーダー波は水平線上を直進するため、超低空を飛行する目標の探知距離は至近に限られ、またシークラッターと呼ばれる海面の波や波頭等によって起きるレーダーのエコー等がさらに探知を困難にする。

 まず対艦ミサイル群に殺到したHHQ-9Aだったが、低空目標への対処能力は同世代のS-300FMに劣っていた。

 発射されたHHQ-9A二十四基の内、命中したのは六基に留まった。続いてグリズリー艦対空ミサイルがHHQ-9Aの迎撃をすり抜けた対艦ミサイル群にたどり着く。

 艦隊に迫る対艦ミサイルの数は百四十基にもなる。しかしながら日本の対艦ミサイルの多くは亜音速で、東海艦隊の決死の迎撃によってその二十パーセント近くは艦隊から三十キロ以遠で迎撃された。

 残った対艦ミサイルは東海艦隊の防空網が薄い方向に多くが占められていた。しかしながら敵艦隊の陣形を拘束するため、ほぼ四周から同時弾着で対艦ミサイルが殺到しており、ソブレメンヌイ級《泰州》一隻が対応するために大きく転舵し、残りの艦はそれぞれに空母を守る陣形を保ち、空母と共に回避機動を取り続けていた。

 艦隊はミサイルによる迎撃を行いつつ、すでに咆哮火器の射程に迫る対艦ミサイルへの対応も開始していた。《泰州》はAK-130五四口径130mm連装砲による対空射撃を行う。毎分八六発以上の発射速度を誇るAK-130連装砲の猛烈な射撃とその他の艦艇の130mm単装砲や100mm連装砲の砲火により、低空を飛翔する対艦ミサイルを数発迎撃できたが、シークラッター等でミサイルを捉えきれず、砲で対応できる時間はわずかだった。

 目標まで五キロに迫り、シースキミングしていた対艦ミサイルは終末誘導のアクティブレーダーホーミングに切り替わり、一斉に上昇(ポップアップ)する。

 これに対して中国艦隊は猛烈なECMが実施されるが、ECCM能力を強化された最新型の対艦ミサイルはほとんどそれに惑わされることなく目標へ向けてまっしぐらに突っ込む。

 一方でマッハ0・8で対艦ミサイル同様シースキミングで飛翔する六六式巡航誘導弾はパッシブ・アクティブ・レーダー及びデータリンクによってポップアップすることなくシースキミングを保って目標へ突き進み、中国艦は高度差のある脅威に同時対処しなくてはならない。

 ポップアップした対艦ミサイルに対し、AK-630M 30mm機関砲や中国国産の730型30mm機関砲等の近接防空火器が火を噴く。AK-630Mは毎分三千発の発射速度で、730型は毎分四千二百発以上の発射速度で30mm砲弾を対艦ミサイル群に浴びせかける。

 その綿密な弾幕によりここまでたどり着いた対艦ミサイルの三割が空中で破壊された。

 さらに一部は海面すれすれを這うようにして迫る巡航ミサイルに対しても向けられ、海面が湧き立ったように無数の水柱が上がり、その中心で射抜かれた巡航ミサイルが爆発し、衝撃波が走る。

 ポップアップし、迎撃を免れた対艦ミサイルは約十五秒で目標の艦艇の最も効果的な位置に着弾する。

 艦隊外縁、西側にいた053型フリゲート艦がまず被弾。その後方にいた054型フリゲートもほぼ同時に火を噴き、さらに東側の053H2G型フリゲートもミサイルを受ける。

 艦の何処に着弾するかも設定できる高精度なASM-2は武器システムの集中する艦橋構造物と喫水線を正確に命中する。艦橋構造物にASM-2の直撃を受けた054型フリゲートは武器システムの機能を喪失。ほぼ無力化されたところに喫水線を照準したASM-2の直撃を受け、船体を引き裂かれて轟沈した。


「外縁のフリゲートが被弾しています!」


「狼狽えるな。本艦の防空能力の真価を見せてやれ」


 052C型駆逐艦《鄭州》の艦長は落ち着いていた。艦長には中国の技術の粋を結集して開発された052C型駆逐艦に対する自信があった。


「こ、これは?」


 低空担当の索敵レーダー士官が艦長の声を聞いてなお狼狽した。一直線に052C型駆逐艦《鄭州》に向かって伸びるレーダー上の輝点の距離は一瞬にして緊迫している。その速度はマッハ4を越えていた。

 その士官が報告する前に輝点はレーダー上の中心である自艦に到達していた。空母に向かう対艦ミサイルを優先し、自艦に迫る対艦ミサイルの迎撃には近距離対空ミサイルと近接防空火器を使用していた《鄭州》だったが、唐突にマッハ4で飛ぶ飛翔体の直撃を受けた。

 飛翔体の正体は帝国空軍が開発した最新型対艦ミサイル、ASM-3Aだった。射程二百五十キロの超音速ミサイルで防空能力の高い艦艇を狙い撃ちにしたのだ。

 音速の四倍という運動エネルギーを持った対艦ミサイルの直撃で艦には激震が走った。多くの乗員がその場から投げ出され、あるいは壁や操作卓(コンソール)に頭を打ち付けた。続いて弾頭が炸裂し、艦の底から突き上げられるような衝撃に襲われ、艦内を爆風が吹き荒れて艦体を引き裂く。《鄭州》は華々しい閃光を光らせた後、炎と黒い煙に包まれ、沈んでいった。


「《鄭州》被弾!」


「くそ、この代償は必ず日帝どもに払わせてやる」


 ソブレメンヌイ級駆逐艦《泰州》は001A型航空母艦《山東》を守るため、《山東》の前方を横切る形で対空防御を続け、30mm機関砲による弾幕を張り続けていた。しかしながら空母だけでなく自艦にも対艦ミサイルは複数迫り、《泰州》の艦長はその対処を命じた。


「ECM、チャフ効果なし!」


「接近するミサイル、二基撃墜!さらに三基、突っ込んでくる!」


「艦長、空母は守らなければならない!」


 艦長の真横に立つ政治将校が叫ぶ。


「今それどころではない!」


 艦長が叫び返す。艦長の焦りは、その怒声に続いて報告された730型30mm近接防空火器が装填された弾薬を全弾射耗したことで絶望に変わった。毎分四千発以上で発射し続けるため、弾幕を張れる時間はわずかだ。ポップアップした対艦ミサイルがソブレメンヌイ級駆逐艦《泰州》の艦橋構造物を直撃し、右舷に眩い閃光が走り、その後衝撃波を周囲の海面に伝えて炸裂した。


「発令所がやられた!」


「電源喪失、排水ポンプが動かない!」


 指揮系統を寸断された《泰州》はダメージコントロールが追いつかず、右舷側に向かって傾き始めていた。


「《泰州》被弾!」


「小日本のミサイルが来ます!」


 空母《山東》の艦橋は騒然としていた。乗組員達は次々に護衛艦艇が被弾していく様子を聞かされ、明らかに浮き足立っている。艦長は状況に焦り、乗員達の様子に苛立ち、平静さを失いつつあった。自身の能力ではもはやどうしようもない状況に追いやられている。


「近接防空火器で迎撃しろ!なんとしても叩き落とせ!」


 空母を守る護衛艦はもはや自艦に迫る対艦ミサイル迎撃に追われ、空母《山東》は自艦に搭載する火器だけで防空火網を張らなくてはならなかった。《山東》の30mm機関砲は射線上にいた052C型駆逐艦《済南》ごと巡航ミサイルに弾幕を張ったが、すでに《済南》は対艦ミサイルを受けて艦尾から黒煙を吹いて傾きつつあり、総員退艦命令が発令されていた。

 ポップアップした対艦ミサイルにロックオンした30mm機関砲の一門が砲身を連動させて持ち上げ、空中に30mm砲弾を打ち上げ、曳光弾の火線がむちのようにしなって伸びる。一瞬の掃射で数百発の砲弾をばら撒くが、今や機関砲は休む暇なく弾幕を張り続けなくてはならなかった。

 二発の対艦ミサイルが空中で撃墜され、弾頭の高性能爆薬を炸裂させた。それとほぼ同時に対艦ミサイルが前部右舷に直撃し、艦内部で爆発が起きた。飛行甲板がめくれあがって甲板に残っていた艦載機が吹き飛ばされて艦載機同士で激突し、飛行甲板上で炎上を始める。爆発の衝撃はすさまじかったが、満載排水量七万トンの航空母艦は多少の被弾では沈まないという確信が乗員達にはあった。未だに近接防空火器は弾幕を張り続け、戦闘は終わっていない。すぐさま甲板要員が消火作業を始めようとした時、さらに右舷の前部喫水線付近に巡航ミサイルが直撃し、船体内部に突入して炸裂した。

 それを皮切りにさらに一発の対艦ミサイルが艦橋構造物の根元付近に直撃し、続いて艦尾にも一発の対艦ミサイルが直撃する。途中で迎撃されなければさらに三発の対艦ミサイルないし巡航ミサイルが《山東》に振り分けられていた。

 合計四発もの対艦ミサイルの直撃を受けた《山東》は艦体をずたずたに引き裂かれていた。最初の爆発の威力の大部分は飛行甲板下の格納庫甲板に分散され、艦体に本来のダメージを伝えきれていなかったが、格納庫甲板の機能を完全に喪失させるのには十分だった。

 格納庫甲板内で戦闘機を準備していた乗員達は戦闘艦艇を一撃で無力化する対艦ミサイルの高性能爆薬の起爆によって生み出された衝撃波を伴う爆風を浴びて、着弾した衝撃を感じた後には即死していた。

 次に艦首の喫水線に命中した巡航ミサイルはその爆発エネルギーを余すことなく艦内部に伝え、着弾で生じた穴を内側からさらに広げ、大量の海水を艦内に流入させた。致命的な被害によって電源が失われ、排水ポンプが一時機能しなくなったが、すぐさまダメージコントロールが開始される。しかし艦橋構造物付近に着弾した対艦ミサイルは的確に発令所を破壊して指揮系統を喪失させ、艦尾に命中した対艦ミサイルは艦尾にも浸水を呼び込み、《山東》は急速に右舷側に向かって傾き、沈み始めた。



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