飛び降りる
夕刻。
死にたい・・・。
俺はそう思って、眼下を見下ろした。緑の草が見える。きっとそこへダイブしたら、地面は俺の血でぐしゃぐしゃになるのだろう。
死にたい・・・生きていることに何の意味がある。
俺は、これから先のことを考えた。
が、何もない。
未来は空っぽだ。
だから、いい加減死にたい!
俺の感情が沸き起こってきた。足が震える。窓の端に手を掛ける。地面を見る。吸い込まれそうになる。
俺に価値など無い・・・俺は・・・・もう・・・・死ぬんだ!
と、雲が空を包み込み、雷鳴が轟いた。やがて轟々と雨が降り注いできた。雨粒が俺の顔面を濡らす。閃光が空を引き裂き、怒号のような雷鳴が大気を震わせた。
「でやああああああああああああああああああああ!」
俺は飛んだ。
五十センチ下へ。
無事自宅の庭に着地。
「死んだ・・・」
俺が呟くと、雨がやんだ。
見上げれば、青い空が広がっている。虹が見える。
「あー、死んだ死んだ。死線を越えて、これで生まれ変わったわ」
そして俺が振り返ると、そこに、怒りの形相で震える奥さんが仁王立ちしていた。
「ちょっと! あんた何してんの!? 服ぼとぼとやないの! 足もどろどろやし!」
「ちょっと今、俺飛び降りて死んだんだ」
「ガキか! 一生そこで死んどけ! あほ!」
奥さんは窓をぴしゃり!と閉めると、鍵を掛けた。
十分後、許しを得て家の中に戻った俺は、シャワーをして服を着替えると、奥さんの作った温かい味噌汁を飲んでいた。
「飛び降りたくなる時もあるやろ。気持ちだけでも」
「あんた見とったらこっちが飛び降りたなるわ!」
「この味噌汁滅茶苦茶うまいわ。生き返るわ」
「あ、そ。さっき毒入れといてん」
俺は奥さんの顔を見て笑った。
「やっぱり? その毒、きっと愛っていう名前の毒じゃない?」
「何が愛やねん! 愛で飯が食えるか!」
心なしか、奥さんの声が緩んでいるように聞こえたのは、俺の願望かも知れない。
まさかこんなおちになるとは・・・・