0. さいしょに。
いつまで、彼女の事が嫌いなのだろうか?
彼女はすでに忘れてしまっているってのに、まだ、嫌いなのだろうか?
あの時の彼女。
僕が好きであったくらいには、僕の事を好きであってほしいと切に願う。
好きだった事を大切にしたいという気持ちは、それはもちろん、今更な話で、放置されたミルクティーみたいに、香りはかすれて、エグみが浮き上がり、とてもきれいな思い出なんかじゃないんだけれども、だからこそ、だからこそ今更でもいいから、僕がとっても好きだった女の子の事を話しておきたいんだ。
だってさ、歳を取ると、記憶は否応なしに、気づかないうちに少しづつ薄れていく。
冷たく甘い恋愛も、溶けてしまったかき氷と同じに、いつかきっと、微かに残った甘いシミすら、日々の生活の中で流されて消えてしまう。
それって、すごくあたりまえなのに、寂しいし悲しいと思うんだ。
彼女が通り過ぎたその後、視線が追いかけて、染み入るように触れた指先から、恋の熱がだんだんと、胸を焦がして、耳を火照らし、光を押し曲げ、見るものすべてをキラびやかに、鼓動が強く、しびれたように背骨から、かかとへと全身に何かが、軽やかに、しなやかにほとばしる。
そんな僕が味わった事が、どんどんとこぼれおちて、気が付かないうちに、遠くない未来には、きっと失ってしまうのだろう。僕が忘れてしまったら、この地球上のどこでもそれを拾い上げて、思い出す人がいなくなるんだ。
彼女はもう忘れている。神様だって、覚えていない。
だから、ちょっとだけ、ちょっとだけだけど、僕のこのツタナイ言葉でもどこかに残したいと考えたんだ。
誰のためでもない、僕の物語を書かせてもらう。