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廻り逢うそのときに  作者: 夕露
■我こそがレヴィカル
49/50

49.もう振り返らない

 






「ジョナリス・フォーレン、ユキ。仕合だ」




ダッカートに促がされて席を立つ。ダッカートを先頭にリングに上がれば先ほどの仕合に心奪われていた人たちが次の仕合にも期待して声を上げた。もう仕合はいつ始まってもおかしくないのについ周りを眺めてしまう。やっぱりリングで、ヘルゲートの中心で見る景色は圧巻だ。

……レイシアさんの挑発のせいで?頭に流れる映像のせいで?観客のせいで?

分からないけれどとにかく気持ちがこれまでにないほど高揚していた。早くこの身体を動かしたい。めいっぱい動きたい。右手にタルワール、腰にチャクラム。いつでもできる。ジョナリスさんはタルワールよりも湾曲した剣を持っていた。ショテル、かな。ギラリと光る刀身を見ていたらジョナリスさんと目が合う。落ち着いた表情でもうお互いに戦闘準備が出来ているのが分かった。


「──皆さんお静まりください!今年のレヴィカルは波乱万丈!新しい力を持つ戦士が続々と現れてレヴィカルに風を吹き込もうと しています!!レイシアは風となってこのヘルゲートに嵐を呼び込 みましたが次なる戦士、ユキはどうでしょう!!?新たな風となるのか?新しき風を追うことはできるのかっ!?対するは去年2位を飾ったジョナリス・フォーレーンーーーー!!!!!!」


ジョナリスさんの名前を叫ぶ声が渦を巻いてリングを覆う。

ジョナリスさんはカナルでよく知られた人、強い人なんだ。嬉しいなあ。私はレヴィカルに出場してから頬が緩みっぱなしだ。楽しくてしょうがない。傍から見たらちょっと気持ち悪いだろうなってぐらいずっとニヤニヤしてる。現にジョナリスさんは眉を寄せたあと、ぐっとシワを深くしながら睨んできた。レイシアさんと話したときから強くなっていたジョナリスさんの敵意はもう気のせいじゃ済まないほど私に向けられている。前の世界じゃとてもできなかった全力の戦いが出来るんだ。嬉しい意外なにを思うだろう。

ダッカートが司会者席を見て、私たちを見た。そして、


「始めぇぇっ!!!!」


開始の合図と同時に首を刈るように振り払われた剣を受ける。驚きに目を見開くジョナリスさんにもっと近づきたくてそのまま流せば剣が悲鳴を上げた。隣に並ぶと睨みあげてくる瞳が憎悪も感じれるほど歪んでいく。逃げられる前にチャクラムを殴りつけるように振るったけど、浅い。


「サルのような女だな!」


体勢を立て直してショテルを振るってきたジョナリスさんの攻撃をかわせば褒められた。チャクラムを直して微笑めばジョナリスさんは舌打ちする。折角だからこの手でいこう。 日ごろのストレッチのお陰で体は柔らかい。撹乱させるのは私の得意分野だ。丁度風が吹き始めたのに合わせてショールを解けば、ヒ ラヒラ揺れて私の姿を隠していく。


「っぁぁあああ!!!小賢しいっ!!!!」


ショールのなか構わずに踏み込んできたジョナリスさんの攻撃を避ければ視界の端に鈍く光るものを見つけた──カルドだ。避け損ねて腕が斬られる。一瞬力の抜けた手を握り締めてタルワールを離さないようにしたけどジョナリスさんは見逃さず、長いショールに覆われたなかここぞとばかりに攻め込んでくる。左にカルド、右にショテルを持ち振るう様子は手馴れたものだ。近距離戦が得意なんだろう。退く様子はない。タルワールとチャクラムで応戦しながら落ちてくるショールを見る。

──まだ時間はある。

満身の力を込めてチャクラムをショテルにぶつける。そのまま手を離せばジョナリスさんは半回転しながらカルドを振るってきた。 大振りだったから簡単だった。タルワールですくってジョナリスさんの腹を蹴りとばす。呻き声が上がったけどすぐに消えて代わりにジョナリスさんは堪えるように歯を見せながら笑う。

この瞬間が、たまらない……っ!

腹の底からゾクゾクする喜びに口元が歪に歪んでいくのが分かる。


「まだっ!まだだぁっっ!!!」


気迫十分のジョナリスさんに止めを刺そうと踏み込む──外したっ。刀身を蹴られてバランスが崩れる。迫った剣をすんでのところで避けた。そのまま間をとってお互い見合う。

ベールはまだふわりと落ちてくる。私たちを覆うようにゆっくり、ゆっくり。大きな息遣いが消えていく。もうそろそろだった。一秒一秒がゆっくりと流れていく。肌を伝う汗が時間は経過しているのだと教えてくれる唯一のものだった。頬を伝った汗はリングに落ちて、また額からゆっくり汗が流れてくる。

ベールの一部がリングに落ちる。ゆっくり、ゆっくり、落ちていく。目を閉じて一瞬後、迫る気配を感じてすぐに私も走った。


「「あ゛ああああっ!!!!!!!!」」


すぐ近くで風を切る音が聞こえて──倒れていく姿を見届ける。

血しぶきがとんで顔を濡らしたけどジョナリスさんがリングに沈むまで剣は離さなかった。もしかしたら、だけど──ジョナリスさんは動かない。

勝った。


「覇者2位を破り勝利を得たのはユキだぁぁっ!新たな覇者がここに誕生したぁっっ!!ユキ選手、見事新しい風をヘルゲートに巻き起こしました!いったい誰が予想したでしょうかっ!?ヘルゲートが揺れています!木霊するのはユキ選手への声援!!!!その力は歯止めを知らないっっ!!!」


フィラルさんの声が聞こえて、そういえばいた観客の声や音楽が聞こえてきた。割れんばかりの歓声と拍手を背に、タルワールについた血を拭いながらリングを後にする。


「待てっ……!」


音の洪水のなか小さな叫び声が耳に飛び込んできて振り返った。治癒師を突き飛ばしお腹から血を流し続けるジョナリスさんだ。剣は手を離れてリングに転がったままだ。ジョナリスさんは片手で血どころか内臓まで出そうな深い傷を抑えながら震えながら立ち上がる。仕合はもう終わったのにどうしたんだろう?

じっと見ていたらジョナリスさんは怯えたように眉を寄せたあと、悔しそうに歯を噛む。獣のような声だった。


「追いついてやる……!いつかアンタに!」


それは知ってる感情だった。でもまさか自分に向けられるとは思わなくて面食らう。

でも……


「私はその先を行きます」


嬉しく感じた。それに凄く鼓舞される。

笑って返せばジョナリスさんも笑って、倒れた。今度こそ治癒師たちがジョナリスさんに治癒魔法をかけていく。




「早く戦いたい。レイシアさん」








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