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廻り逢うそのときに  作者: 夕露
■我こそがレヴィカル
47/50

47.答えを探しましょう




最近不安からか足元がぐらぐらしているように感じる。震えはいつか地面自体を消してしまいそうだ。きっとそのときは呆気ないんだろうな。

そんなことを考えていたからだ──変な夢を見た。






青色の服を着た治癒師が病室から抜け出していた患者さんに声をかけている。それ以外は業務連絡をしている治癒師の人たちや元気な患者さんたちの楽しそうな笑い声が聞こえてきてほのぼのとした雰囲気だ。

ここはレヴィカル開催時期に臨時で病院として使われる王族の私有地らしく、そのせいか茶色を基調としている内装の色んなところに目を楽しませる飾りがあった。よく見てみればひとつひとつ凝った造りで面白い。

そんな廊下を進んでようやく部屋の札に見覚えのある名前を見つけた。気持ちを落ち着けるために深呼吸したあとノックをすれば「どうぞ」と返事があった。


「お邪魔しま、す」

「ん?ああ、アンタか」


──ディアルカさん。

人づてに昨日の仕合のあとディアルカさんは病院に運ばれて集中治療を受けたと話を聞いた。容態は良いそうだけど決して立ち上がってどこかに出かけられるようなものじゃないらしい。

なのに病室のドアを開けて見えたのは帯剣していままさに外に出ようとしていたディアルカさんの姿だった。 ディアルカさんは尋ね人の私を見て目をパチクリさせたけど、ニカッと歯を見せて笑う。


「負けちまったね。アンタとの仕合楽しかったよ。私はディアルカ。よろしく」


伸びてきた手に驚いて顔を上げる。そして見えた顔に手はすぐに伸びた。


「ありがとうございます。私も楽しくて楽しくてしょうがなかったっ。あなたと出逢えてよかったです。あなたのお陰で私は大切なことを思い出せました……ディアルカさん。私はユキです。よろしくお願いします」


ぎゅっと手を握れば握り返してくれて、喜びに心臓が震える。


「ははは!かたっくるしいのはなしだよユキ!この私をあともう少しで斬り殺せそうだったんだ!胸を張りなっ」


ディアルカさんは好戦的でありながら凄く気さくな性格らしい。肩に手をまわしてきたディアルカさんはご機嫌で逆に私が心配してしまう。


「ディ、ディアルカさん。そんなに動いたら傷が」

「あんなもんもう問題ないさ」


なんてことないようにディアルカさんは服をめくる。お腹を半分にするように一線の大きな傷があった。私が斬って重体を負わせたことは少なからず気に病むけれど、それはそれだ。魅入ってしまう。


「うわー」

「見事なもんさね。でももう血は出てないし十分だろ。あとは五月蝿い治癒師が来ないうちに」

「来ましたよディアルカ。文句を言わず治療を受けなさい!」


ディアルカさんが最後まで言い切らないうちに背後から厳しい声が聞こえた。振り返れば治癒師の人がいて声色と等しい表情をしていたから私はすぐに無罪を主張するべく離れておく。一瞬ディアルカさんが「あ、くそ」と呟いて私に手を伸ばしたのに気がついたけれど見なかったことにした。


「ああもう十分じゃないか。ほら見ろよ」

「もうあなたって人は……跡は?消さなくていいの?」

「別にいいさ」

「はあ……」

「よく分かってるだろ。じゃあまたね、治療助かったよ」

「はいはいさっさと退院なさい」

「ははは。さ、行こうかユキ」


カラカラと笑って病室を去るディアルカさんのあとを追う。途中で、どうやらディアルカさんと知り合いらしい治癒師の人と目が合った。……予想と違って親しげな笑みを浮かべて手を振ってくれる。私も手を振ったあと前を歩く人を追いかけて揺れる茶色の髪を眺めた。歩調に合わせて背中で鳴る大剣はダラクのといい勝負の大きさだ。


「なあユキ。折角だし体動かさないか」


少しゆっくりになる足に早足で追いつく。歩幅が並んでニヤリと笑う顔が見えた。


「うん。思い切り体動かしたい」

「いいところがあるよ」


そう言うだろうと思ってたと笑うディアルカさんの言動に口元が緩んで仕方がない。

『まるで友達になりたいって言ってるみたいね』

晩御飯を食べてデザートタイムのときシリアに力説していたら呆れたようにそう言われた。そのときは首をひねってしまったけれど今こうやってディアルカさんと話していて納得した。私、ディアルカさんと友達になりたいんだ。


「私は獲物で好きなのは大剣だねえ。でも実戦にはメイスとかの打撃系かね」

「いいなあ。そういう大きな獲物を振り回して戦うのって凄く憧れるんですけどこの貧弱な体じゃ出来ないんですよね。ちょこまか 動くのも好きなんですけどやっぱり一度は、こう」

「ははは!分かる分かる。岩割ったときの快感ったらないね!」

「憧れる……っ!!って、あ」


楽しすぎてしょうがない会話に花を咲かせていたらなんともいえない顔をしているダラク達を見つけた。皆勢ぞろいだ。ディアルカさんは私の視線の先にいるダラク達を見つけて首を傾げた。


「なんだい、知り合いかい?」

「そうなんです。私いま旅してるんですけどその仲間です」

「へえいいじゃないか。あいつらも連れて行こうか」

「いいんですか?ね、こっちこっち!」


手招きに応じてこっちに来るダラク達は全員微妙な表情をしたままだ。


「どうしたの?皆してお出かけ?」

「あー、まあ」

「な」

「今からディアルカさんオススメの場所に行くんだけど折角だからどうぞって」

「えっと」

「行かせてもらうわ。初めまして、私はシリアというわ」

「よろしくシリア。ディアルカだ。じゃあ行こうか。男共もついてきな」

「あ、はい」


ダラクに続いて晃もリオもザートも言葉を濁すなかシリアが前に進み出てディアルカさんに笑う。ザートはたまにシリアに話すときみたいに敬語で笑ってしまった。

カナルの街にはレヴィカルで見た選手も普通に歩いていて、その人の仕合を見ていただろう観客の楽しそうな声があちらこちらから聞こえてきて賑やかなものだ。私の名前も呼ばれてちょっと恥ずかしかったけど手を振ってみれば歓声があがった。


「あんなの放っておけばいいじゃないか」

「あー、はは」


ここは日本人の感性といっていいんだろうか。挨拶しなきゃ落ち着かない。話を逸らそうとしたら遠巻きにいた野次馬の一人がディアルカさんを指差して隣のつれに話しかけるのが見えた。


「おい。ディアルカだぞ。あの怪力「なんだい?」


聞こえてすぐに反応したディアルカさんは鞘から抜いてはいないものの大剣を背中から取ろうとしている。既に野次馬の六割がこの場を離れて行った。慌てて剣を持ったディアルカさんを止める。


「ディ!ディアルカさんここ街中!せめて人がいないところで!」

「ですって。丁度今からそんな場所に向かうんだけどあなたも来たら?」


シリアが助け舟を出してくれて件の男に話しかければ男はこの世の終わりみたいな顔をする。


「あの……そろそろ、ね?その人放って置いてオススメスポットに行きませんか?あ、嫌なら別にいいんです」


ザートが小さく手を上げて恐る恐るした発言を聞いてディアルカさんは「そうだねえ」と頷いた。


「ああいう輩は丁度いい実験になるから何人か連れて行きたかったんだが……」

「さあ行きましょう!」

「あらじゃあ丁度いいのが既にいるわよ」

「っ!!?」


早いザートの返事にシリアが止めを刺す微笑ましい話に和む。それからはいかに相手にダメージを与えるか無駄な力をなくしていけるかの話で盛り上がった。 ディアルカさんのオススメの場所に着いたときには声を上げてしまうぐらい私のテンションはだだのぼりだ。広い空き地はところどころに瓦礫が並んでいて人気はまったくない。

ガシャ、と音がして振り返ればディアルカさんが剣を抜いていた。


「さあ、早速実戦というこうじゃないか」


手に汗が出てる。

しかもいま気がついたけど震えてる。



「ユキ、やっぱりアンタは私と同類だね」



笑い出しそうになっていた口元に注がれた視線に、ついに笑ってしまった。

タルワールを取り出す。


「じゃあ頑張ってちょうだい。私はゆっくりさせてもらうわ……ああそうだ、最後に。合図よ」


シリアが落ちていた瓦礫を掴んで私たちの間に投げる。ディアルカさんは視線を逸らさない。私もディアルカさんから視線を逸らさない。

ゴッ、と鈍い音がした。ようやくの瞬間だった。





「──不思議な娘だね」


一線交えたあと近くの瓦礫を椅子代わりにしてお茶をするシリアに合流して女子会。旅のことやレヴィカルのことを話していたらディアルカさんがふとそんなことを言う。


「……そうですか?」

「ああ。アンタはもう少し胸を張ればいい」

「それは私もそう思うわ。あんだけ力があったってのになんでああも怖いって言ってたのかよく分からないのよね」

「怖い?ああ、確かに様子はおかしかったね」


二人からの指摘に穴があったら入りたいような気持になる。気まずい気持ちをごまかすようにお茶を飲んだ。


「それはもうシリアやディアルカさんたちのお陰で乗り越えることが出来たので……はい」

「おいユキ。さっきから思ってたんだが私のことはディアルカでいいよ。さん付けなんてされたら悲しいね」

「そうよユキ。失礼じゃない」

「え?え!」


突然の話に慌てたけど思い出したのはダッカートが話していた礼儀の考え方だ。


「ユキってカナル国出身じゃないんだったかしら。それにしてはねえ」

「それにしてはってなに?」

「それだけユキの言動はカナル国民そっくりってことさ。あれだね……強いが正義!強さを求めるっ!弱けりゃなにもできない、なら強くなれ!!ってね」


ううん、そう言われるとやっぱり私はカナル国民の考えに似てる。

もしかして──そう思ったときシリアが疑問を口にした。


「ユキはどこ出身なの」


話の流れから出てもおかしくない質問にうまく反応できなかったのはなぜだろう。


「……遠い島国」

「へえ、どこ?」

「もう帰り方も分からないぐらい遠くの小さな島国だよ。今は飛び出してきたばかり」

「……捨てたのかしら」


突然の厳しい声に驚いたけど、シリアの言う通りだったから頷いた。


「シリアは?」

「カナルの辺境にある小さな村よ。ザートも一緒」

「うわあ、幼馴染なんだ。私たちと同じですね」

「あら、ということは晃ね?」

「はい」

「なんだいなんだいアンタら私には聞かないのかい?」

「「カナルでしょ」」

「その通りさ!」


誇らしげに笑うディアルカさん──ディアルカに頬が緩む。ディアルカは私を見るとウィンクしてみせて話を終わらせてくれたのだと分かった。本当にいい人だ。


「そうだユキ、アンタここに住まないか?そしたらいつでも手合わせできるだろ」

「え?」

「あらまあ」


ディアルカからの嬉しいお誘いに心がグラグラ揺れる。自分と合っているカナル国で地に足つけた生活をしながらオルヴェンを探検する毎日、ディアルカのような人たちと手合わせして腕を磨いて──それは最高の景色だった。

だけど。


「それも一つの手よね」


隣に座っていたシリアの発言に違和感を覚えてその顔をみればまるでお母さんのような優しい顔をして私を見ていた。微笑んで、視線を逸らす。


「まあいいか。ユキ、もうそろそろヘルゲートに向かったほうがいい。今日も頑張んな」

「はいっ……頑張るよディアルカ!」

「……期待してるよ」


目元を緩ませたディアルカのコップをシリアが回収して私たちも立ち上がる。家に戻るディアルカを見てダラク達はお開きが分かったようだ。それぞれなんともいえない表情を浮かべながら集合してきた。男子会は楽しいものじゃなかったようだ。


「仕合に行くのか?」

「うんっ」


……今日のレヴィカルは今までの仕合を勝ち進んで残った十四人が戦って七人になる。レヴィカルに何百人も参加したっていうのにもうこれだけだ。確立で言えば今日にでもまた覇者とあたるだろう。確実に血が流れる。

ディアルカさんのお腹に食い込んでいく刃の感触を思い出すとぞっとする。受け入れると決めたから大丈夫だけど、だからといって忘れてしまわないように気を付ける。この気持ちは忘れないようにしなきゃだ。人を傷つける怖さを忘れて人を傷つけて何かするのが当たり前になったら私は私じゃなくなる。そうじゃないと私が強くなる意味がなくなる。


「女子会楽しかったわねー」

「……うん。女の子同士の話ってこんなに面白かったんだね。苦手意識があったんだけどこんなに楽しいならもっと話しかけておけばよかった」

「そうよ、試さないのは勿体ないわよ」

「あれって女子会だったのか……?」

「いや、あれを女の子同士の話にくくったら駄目だろ」


数人余計な声が聞こえたけど無視しておく。皆軽口叩きながら楽しそうに笑っていて、私はそんな皆を見てると凄く幸せな気持ちになって。

いつの間にこんなに皆が大事になったんだろう。

私はこうやって過ごせる時間を大事にしたい。この世界で出会った大切な人達──ダラク、ザート、シリア、リオ、晃。騒がしい声を聞きながら目を閉じる。


「ねえ、皆」

「どしたの?」

「……レヴィカルが終わったあとさ、ラザルニアに行かない?」


突然の提案に皆驚いた顔をしてる。


「え?うーん俺はいいけどユキがここの国に行きたいっていうの珍しいねー」

「どういう風の吹き回しだ?」

「なにか気になるものでもあるのかしら?……まあ、あそこは貿易国だからなんでもあっていい場所だけれど」


ザートが皆の気持ちを代弁すればダラクもシリアも追い討ちをかけてくる。どうせ胡散臭いなら満面の笑顔で答えよう。


「ちょっと行きたかったんだ。シリアが言うようにあそこ色んなものが集まってるんでしょ?だから面白そうだなって思って」


意外と皆お前だったらそう思うだろうなあ、みたいな感じで納得してくれた。



「……じゃあ、次はラザルニアでいいか?」



ダラクの言葉に一番乗りで頷けば、皆も頷いてくれる。


「んじゃ決定」


ダラクの言葉に隠れて安堵の息を吐く。

──ああ、まただ。

ラザルニアの話で盛り上がる雰囲気に浸っていれば朝見た夢の映像が頭に流れてきた。目を閉じればまるで自分がその場にいるよういな感覚だ。

瓦礫、瓦礫、瓦礫の山。のぼる煙に荒れた村。そして──なんにもない荒野。草も生えないそこは元の世界で見た夢にとてもよく似ていた。そんな荒野に私は一人で立っていて、どこかで見たことのある光景が色んな速さで私の前を通り過ぎていくのを見続ける。頭がくらくらしたけれど映像はユゥーキやリオの姿もあってどれもが興味深く光るから見逃すわけにはいかなくて。


「真実を知りたいか?」


突然どこからか聞こえた声に怯えよりも好奇心が勝った。

真実。その言葉にリオを思い出せばいつか必ず話すと言った映像が流れた。


「ラザルニアに二つお前の望む答えがあるだろう。ユキ、私を探し出してみなさい」


夢のなか立ち尽くす私に向かって諭すような声。夢のはずなのに現実めいているけれど訳が分からない。誰だか分からない

でも確かに声は私に向かって私を呼んだ。

疑問はいっぱいあったけど、呼ばれた。これは事実で私はあの声の持ち主が知りたい。行かなきゃいけないんだ。

『お前この国に留まる気はないか?』

『そうだユキ、アンタここに住まないか?そしたらいつでも手合わせできるだろ』

惹かれてやまない提案だった。正直気持ちは傾いていてレヴィカルが終わったあとにでもダラクたちに相談していたかもしれない。

だけどもう選べない。


ガラガラ、ガラガラ。


朝見た夢と同じように頭の中を流れる映像が壊れながら終わっていく。

『──!!』

誰かの声が聞こえる──悲鳴だ。夢のなか見た荒野が崩れて行く。誰かの声が聞こえる。 全てが崩れて真っ暗になって──夢は終わる。

それはあまりにも予感めいていて夢には思えなかった。真っ暗な世界から逃げるために目を開ければ目の前を歩く大切な人たちがよく見える。お互いを茶化しながら笑って楽しそうだ。遠ざかる背中に手を伸ばす。



「ねえねえ待ってー」



皆のもとに向かって走れば笑顔が見える。

気のせいかな。耳に響いた叫び声は全員知っている人たちのものだった。







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