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廻り逢うそのときに  作者: 夕露
■我こそがレヴィカル
46/50

46.力を望め





「ユキちゃんあんた格好よかったよー!」

「次も楽しみにしてるよ」

「応援してるぜえ!!」

「覇座の頂点までいっちまえっっ!がんばんなっっ!!」


会場をあとにして選手ゲートから外に出た瞬間、ワッと囲まれた。空港で芸能人を待ち伏せしているのに似ている。さっきの仕合でディアルカさんに勝ったことが大きいんだろう。一つ答えて歩けばまた一つ声がかかる。強いと思ってくれていることは嬉しいけどこれは落ち着かない。ちょっと目立つショールを腕輪にしまっておく。いっそトイレで着替えようか……。



「明日もこの調子でいくといいがな」

「えっ、と」



目の前で立ち止まったままの人が見えて顔をあげてみれば緑色の髪をした軍人が立っていた。不機嫌な顔で腕を組みながら私を見下ろしている。


「名前を忘れたか。俺の名前はダッカートだ」

「ああそうですか。だけどダッカートも私の名前忘れてるでしょ」


いきなりなんだと眉を寄せて言えばダッカートは目を瞬かせてニヤリと笑った。


「呼び名に不服を感じているならちゃんと名前で呼んでやるよ、ユキ」

「はあ、それはどうも。なにか用ですか」


面倒だし話を切り上げられそうなネタを探して周りを見れば嫌なことに気がついた。

周りにいる人たちが興味津々に私たちを眺めている。さっきまで用事があると言ってもおかまいなしに話しかけてきてきた人たちが話に割り込まず見てくる原因は分かわからないけれど、トラブルの種になりそうなのは間違いがない。


「お前仕合前と大分様子が違うな」

「それはもう聞き飽きました。それにダッカートこそそうじゃないですか」

「強いと認めたものに敬意を表しているだけだ」

「……それなら敬語とか使いません?」

「何を言っている。強き者に敬意を示すと言うのは自分をさらけだすということだ。敬語を使い偽るのは違うだろう」


面白い考えだなと思っていたらそういえば私もダッカートへの話し方が変わっている。自分のことをそんなふうに他人事に気がついた。


「お前はカナル出身の者かと思ったが違うのか?だからお前こそ話し方を変えたと思ったが」

「私別にダッカートの強さなんて知りませんよ?」

「…………強者は面識のない者でも自分をさらけ出すことが許される」

「ああ」


でもそれなら全員素の自分で話しているんじゃないかと思ったけど面白くなさそうにしているダッカートをみるにこの話を続けるのは良くなさそうだ。



「それで本題なんだが、お前この国に留まる気はないか?」

「え?」



この国に留まる?

予想だにしなかった提案に驚いてしまうけどダッカートは本気のようだ。カナル国に、一つの国に留まる。いままで旅をすることだけが頭にあったからそんな選択肢なんて考えもしなかった。なにより動揺するのがその選択肢に心動く自分だ。

確かにカナル国は私に合ってる。オルヴェンを知るために旅をするのもいいけどこの国を本拠地にして動くのもいいんじゃないだろうか。無いお金だってここで暮らして働いて貯めればいい。

……ダラクたちだって許してくれるんじゃないだろうか?


「なんだったら伝手があるからいい仕事を紹介する」

「……」

「まあ、レヴィカルが終わるまでには考えておけ」

「はは、どうかな……とりあえず軍関係は嫌」

「そうか。惜しいな」


じゃあ、ダッカートはそう言って背を向けた。

私はどうしようか。

このまま宿に向かって皆と合流するのがきっと一番いい。そしたら皆笑顔で迎えてくれるはずだ。特にザートは初戦の時みたいに『凄いじゃん!』と言ってくれるだろうし、シリアもお酒を掲げながら祝ってくれる。ダラクも言葉はなくても微笑んでくれて、晃は、怒るだろう。私についた傷を見て眉を寄せて歯を食いしばる。


それでリオは──


悩んだけれど、また、あの丘に行く。このレヴィカルに出る前と今じゃ本当に色々なものが変わってしまった。二日目でこれなんだからレヴィカルが終わったあとはどうなってるだろう。

私は。



「アディン」

「また来たか」

「アディンこそ、またいる」



アディンは丘で寝転がっていて、私はその隣に座る。


「仕合はどうだった?」

「敗れるとでも」

「思わない。でも出るのを忘れてそうだから」

「確かにそうだな」


くっくと喉で笑うアディンが私を見上げる。その手が動く前に掴んで止めた。


「突然剣を向けるのってどうかと思うよ」

「それを望んでいるのかと思ったが」

「そうだね。アディン、私強くなりたいんだ」

「そうか」


アディンが身体を起こして、私も手を離す。アディンの手が私の頬に伸びてきて輪郭をなぞるように動いた。



「ならここに来たのは正解だ。私は与えてやれる」



蒼い目を見返していたら口元が緩んでいく。それを見つけたアディンも同じように笑って──頬にあった手がゆっくりと離れる。

アディンはひどくゆっくりとした動作で起き上がった。私もすぐさま距離を取ってタルワールを取り出し、呼吸を整えながら同じくスモールソードを取り出したアディンに剣先を向ける。


「……面白い」


楽しそうなアディンはきっと私の鏡だろう。

もうここまできたら傲慢になってやる。矛盾した想いもなにもかも抱えこめれるように、何一つ離さないままで。

相手をしてあげる。

言葉になんてできやしない生意気な気持ちを胸にアディンに斬りかかった。







「──ここまでだ」

「なに言って!!……あ」


いつのまにか日が暮れていた。空はオレンジ色どころか少しずつ夜を孕み始めている。驚いてアディンに視線を移せばここで会ったときと変わらない涼しげな顔が見えた。私は……そう考えてすぐ喉の渇きを覚えて咳き込んでしまう。もう汗だくで息絶え絶えだ。本当にどうしようもうない実力の差だ。

膝に手を置いて呼吸を整えていたらアディンは剣を消してしまう。ユゥーキがリオとの訓練を続けたいとごねたように私も何か言いたかったけど声が出ない。

……やっぱり、アディンってよく分からない。

手合わせしてくれる真意が謎なうえ私に戦いかたを教えてくれた。反応の甘い私が体勢を立て直すのを待って、時には助言を呟いて、少し力を込めれば私なんか斬ってしまえるのにそんなことはせずむしろ力を緩めてこの長い時間私と手合わせしてくれた。


「アディンは……なに考えてるの」

「いまはユキを強くすることを考えている」

「な、んで」


酸素が足りなくて乱れる息が動揺を加えて更に乱れる。目の前まで移動してきたアディンが私の様子を見下ろしたあと私の手をとった。親指で掌をなぞって、口元に笑みを浮かべる。


「強くなれ。誰に奪われることも傷つくこともないよう……強くなれ。そのためなら俺は何度だって相手をしてやろう」

「アディン?」


片膝をついたアディンが私の手を自分の口元に運ぶ──そして、柔らかな感触。



「この手に望む力を与えてやる」



唇が触れた手が熱い。見上げてきた視線に目が逸らせない。私が剣先をアディンに向けたときのように、アディンは挑発的な笑みを私に向けた。

アディンってこんなに表情豊かだったっけ……?

ぼんやりしながら蒼い瞳を見ていたら声が耳元で響いた。


「力を望め」

「っ!?」


手を振り解いて離れればアディンは笑みを浮かべていて、手が離されたことをなんとも思っていないみたいだった。そしてそのまま──消えた。


「えっ!?……あっ、魔法、か」


現実離れした現実についていけなくて頭がくらくらする。常識では考えられなかった魔法が存在するこのオルヴェンでは起こること全てが魔法のような気がして現実なんだという実感が遅れてしまう。何事もなかったかのように息が整えばなおさらそうだ。アディンの言葉も、アディンの存在自体も、なにもかもが魔法のよう。

そうやって気持ちを元に戻せたあと、一人丘を出る。そして見えてきた人混みや話し声に息を吐いてしまうほどの安心感を覚えた。



「ユキ」



小さな声に振り返れば言葉を呑みこむような固い表情を浮かべるリオがいた。

この世界は魔法じゃないことを私は知ってる。

リオに会ったらどうしようとかどうやって聞こうとか色々考えていたけど、言葉は自然と口から零れた。


「リオ。私、聞きたいことがあるの」

「ユキ」

「ユゥーキって、誰?」

「……っ!」

「私となにか関わりがある?」


私の問いかけにリオは視線を落とし歯を食いしばる。その姿に罪悪感が沸くけれどこれはもしかしたら前々から脳裏にちらつく映像の鍵を握っているかもしれない。気がつかないふりはできなかった。

私はいま自分に降りかかってる現実を知りたい。


「教えて」

「いまは教えられないんだ……ごめん」

「リオ」


目の前の泣きそうな表情に頭がズキリと痛む。

なぜかまたあの映像が増えたかもしれないと思った。



「いつか必ず俺がユキに話すときがくる。だけどそれまでは言えないんだ」



震える拳からその悔しさが伝わってくる。私が強くなりたいと思うようにリオもなにかに足掻いてるんだ。それは……なんだろうか。


「……うん。いつか教えて」


現実を知りたけど怖い、そう思った瞬間だった。








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