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廻り逢うそのときに  作者: 夕露
■我こそがレヴィカル
45/50

45.一つの答え







──灰色の雲から降ってくる小さな雪は手につくとあっという間に消えてしまうのに世界を真っ白にしてしまった。地面も木もおうちも全部隠していく。また雪かきしなきゃ。



「油断したら駄目だよ?緊張が取れた瞬間が一番危ないんだからね──ユゥーキ」



上から声が聞こえて背中がゾワッとする。にこにこ笑ってる顔が一番危ないってことが最近分かってきた。

すぐに移動しようとしたけどもう遅い。剣が振り下ろされてなんとか流せたけど変な体制で受けてしまったから手がビリビリ痺れる。

うう、笑ってる……。

交差する剣ごしに見えた顔に完全に気圧されて腰がひける。私を見てにこにこ天使のように笑うリオ。小さい頃は可愛さに磨きがかかっていて本当に女の子にしか見えない。マスタード色の髪に雪が積もってる。……気がついているのかな。


「ユゥーキ?」

「ゆ、油断してない」

「そんなこと言ってると、ほら」

「わっ!」


簡単に剣を奪われてリオの剣が目の前に。剣先を見て肩を落とした。


「降参です」

「今日はここまで」

「えー……もう一回」

「……」

「……うー、分かりました。ありがとうございました」

「ありがとうございました」


集中力を欠いた自業自得とはいえこのまま終わるのはつまらなくて駄々をこねてみたけどリオは剣を消して終わる気満々だ。諦めて私も剣を消した。左手をお腹に右手を少し後ろにして頭を下げる。


「帰るよ」

「うん」


伸びてきた手を握って歩く。

剣を習いたいと言ったとき一番反対していたのはリオだけどいざ習うのが決定したら一番稽古をつけてくれるようになった。すっごく嬉しいけどちょっとモヤモヤする。 強くなってリオを助けれらたらって思ったのに、助けられてばっかりだ。……早く大きくなりたい。守られるだけじゃなくて守れるようになりたい。強くなりたい。皆と一緒に、楽しく過ごしたい。


「またボンヤリしてる」

「してないよ、っ!痛い!」

「ボンヤリしてた」

「うー」


デコピンしてきた手を叩き落とせばニヤリと笑う顔が見えた。ひどい。こうなったら凄く強くなって華麗にリオを助けてやるんだ。 それで言ってやるんだ。


「油断したら駄目なんだよ?ねえ?分かってる?っ!痛いっ!!」

「ユゥーキ?今誰のマネしてたのかな?」

「へへへ」


いつの間にか口に出してたみたいだ。デコピンしてきた手は見逃そう。ジンジン痛むオデコを撫でてたらリオがじっと見下ろしてくる。

ああ、またこの顔だ。リオはお偉いさんというのになってからよくこんな顔をするように なった。前はもっといっぱい笑ってたのに、難しい顔をして、オデコにぎゅっとシワを寄せる。この顔はあんまり好きじゃない。私とそんなに歳だって変わんないのになんでリオだけ。なんで──


「……薄暗いのにユゥーキの髪は鮮やかだよね。お陰でユゥーキがどこにいるのかすぐに分かる」

「え!だから隠れてもすぐにバレちゃうの!?」

「うん」


にっこり笑う顔に何度目か分からないぐらい絶望しちゃう。髪を両手に持って引っ張る。長いし量が多い邪魔な髪の毛。


「……やっぱり切ろう」

「駄目だからね」

「えーなんで」


リオは私が髪の毛を切ることを絶対に許してくれない。お父さんじゃあるまいし。忌々しい髪をぐーっと引っ張ったら抜けた。リオが呆れたようにため息を吐いて、私の髪を手で梳いてくる。


「こんなに綺麗な金色の髪なんだ。青い瞳と似合ってるし切るなんて勿体ないよ……それにユゥーキが髪を切ったとしても、髪がこの暗さに溶け込んだとしても、結局、僕にはユゥーキがどこにいるのか分かるから」


髪がリオの手から離れて戻ってくる。リオは微笑んでいた。

この顔は好き。


「それって気配バレバレってこと?」

「そういうことかな」

「あーーー」


リオが意地悪く笑う。この顔は好きじゃない。むくれていたらリオが私の名前を呼んで顔を覗き込んでくる。


「さ、帰るよ。今日の晩御飯はユゥーキの好きなシチューだ」

「わ!やった!!帰ろう帰ろう!」

「分かった分かった」


久しぶりのシチューだ!嬉しくてリオの手を引っ張ってしまう。早く帰ろう。だって──が待ってる。そうだ。リオには内緒で──にまた稽古をつけてもらおう。今日はぼおっとしちゃったけど明日こそはリオから一本とってやるんだ。それで明日──



「バレたな……」



暗く呟く声が聞こえて顔を上げる。リオが凄く怖い顔をしながら空を見て、なにか堪えるようにぎゅっと目を瞑る。


「リオ……?どうしたの?」

「もう終わりなんだ」


言葉を返してくれたというより独り言のようだった。終わり?私は不穏な言葉に恐怖さえ抱いてリオの手を握る。もう一度リオの名前を呼んだけどリオは手を握り返してくれるだけで返事はしてくれなかった。




「さよならユゥーキ」

「……リオ?」




──リオの声がして目を開けた。暗くて寒い。ここは外?布団に入って寝たはずなのになんで私こんなところで寝てたんだろう。砂利を踏む音がして顔を上げたらリオがいた。よかった。じゃあ、大丈夫だ。


「リオ?」


そのはずなのになんでかリオが離れてく。

また、あの顔をしてる。


「リオ」

「さよなら」

「リオッ!!」


身体が動かせないうえどんなに力を入れてもビクともしない──魔法で縛られてる?誰が?もう一度リオを見た。だけどリオは無表情に私を見てるいるだけで。


「なんで……嘘でしょ。やだ、やだよっ!なにこれ?!」


どうして?これはなに?

なんで身体が消えていくの?


「リオ助けて!身体が消えて……っ!」


身体が真っ黒に塗りつぶされていく。暗い影がおちたからとかじゃなくて消えていく。怖くてたまらなくて、魔法を打ち破った手をリオに伸ばした。

リオがいる場所は月の光が差していてよく見えた。まあるく円を描いた光の中、リオの髪が金色に光っていてその後ろで真っ白な雪がいっぱい降っているのが見える。


「リオッ!」


ようやくリオも手を伸ばしてくれた。でも、そう思った瞬間手をおろした。




「……さよならユゥーキ」




私は見捨てられた。


──暗い空間に音が響く。ディアルカさんが瓦礫を踏んだ音だ。分かる、大丈夫、これは現実だ。目をゆっくり開ければ映るのは灰色の瓦礫の山。そして離れたところで私を見るディアルカさん。見下ろしてくる顔が、茶色の髪が……リオと重なってブレて消えていく。


『油断したら駄目だよ?緊張が取れた瞬間が一番危ないんだからね──ユゥーキ』

「そうだね」


聞こえてくる声に返事をすれば映像の中のリオが笑った。私が異常でもなんでもいいから答えが知りたい。この異常な現象の行きつく先がなにか知りたい。


上げていた剣をおろして深呼吸をする。


一気に流れ見えた映像に頭はこれでもかというぐらい痛んでいた。汗をかいていた手を服で拭いて剣を握りなおす。ディアルカさんも用意は出来たみたいだ。新たに取り出したメイスをくるくるとまわして、ゆっくり、凶暴な笑みを浮かべていく。私の唇も抑えきれなくてつりあがっていく。

ディアルカさんに出会えたこと、感謝だ。

私戦うのが好きで、強くなりたいんだ。 嫌なことを砕けるぐらいの力が、捻じ曲げてしまえるぐらいの力が欲しい。強ければあのとき何かを変えられたかもしれないし守れたかもしれない。

怖いとかふざけるな。そんなのもう許さない。


『大丈夫かしら?』


レヴィカルに出場する話をしたとき嗤ったレイシアさんに私は応えることが出来なかった。怖いから、傷つきたくないから、傷つけたくないから。

ふざけるな。


『切り替えろ』


そうだね、私馬鹿だった。色んなものを見過ぎて考えすぎて、私が最初に望んでたことを忘れてた。強くなりたいんだ。突っ立ってるだけなんて嫌だ。なにも出来ないなんて嫌だ。守られるだけなんて嫌だ。置いてかれたくない。強くなりたいんだ。



──視界に大きな影が映る。



それはこれからを示唆してるようで笑えた。紙一重で避けた身体を轟音が包みこみ飛んできた瓦礫の破片が肌を裂いていく。それなのに興奮状態のせいか楽しくてしょうがなかった。距離をとるのなんて勿体なくてディアルカさんとの距離を詰めればすぐに反応したディアルカさんの笑顔が迫る。蹴り上げようとしてきた脚を避けて回り込もうとしたら反動を利用して勢いを増したメイスが真横に見えた。


『人質になったら?おいユキ、私がそんなへますると思ってんのかい?』


ジャンプして天井に剥きだしになっていた鉄骨を掴み、ディアルカさんの顔を蹴り上げる。避けられた。すぐに着地して落ちていたチャクラムで斬りかかるも、浅い。反対に折れたあばらが私に悲鳴を訴えてきて笑える。さっきから動く度つんざくような痛みが襲ってきてまともに思考できない。


『それ、フラグじゃない?』

『ははは、分かって言ったんだから大丈夫さ……そうだねえ』


左手に持っていたチャクラムがメイスに弾かれて飛んでいく。本当に恐ろしいぐらいの怪力だ。左手がもう使い物にならない。もう感覚はないし、指は折れてる。流石だなあ。指を戻しながらやっぱり強いディアルカさんに頼もしいような嬉しいような気持になる。

ディアルカさんと話したことなんてこの仕合が始まる前の挨拶ぐらいだ。それなのに親しい間柄のような映像が頭に流れてくるもんだから物凄く親近感を持ってしまう。映像の中のディアルカさんは太陽の下で笑っている。ディアルカさんは太陽の下が一番似合う人だ。ニカッと歯を見せて豪快に笑う人。

……本当、なに考えてんだか。

殺し合いをしてるといっても間違いじゃないことをしてる最中だってのに。


『もし捕まっちまうようなことになったらどうしようかねえ。そんな状態で逃げてないってことは逃げられないってことだからね え』


眼前に迫った蹴りが避けきれないことが分かったから使えない左手を盾にする。ディアルカさんの軸がズレた。


『そのときはユキ、あいつは私を見殺しにできないだろうから私を殺してくれ』


ディアルカさんの顔が見えない。こんなチャンスはもうないだろう。前半ぼおっとしていたせいでガタがきはじめた。絶対に剣を手放さないように満身の力を籠める。ディアルカさんの横顔が見える。


『そっか』


メイスを振ってがらあきになっていた場所に踏み込んで剣を振り払った。

──景色が明るくなる。灰色の世界はもうなくて声が、音が聞こえる。目に痛すぎるほどチカチカするこの世界はなんて色んなものが溢れているんだろう。




「ディアルカ選手戦闘不能だあああっ!!ユキ選手勝利っ! !初参加ながらユキ選手!覇者を打ち取ったあああああっ!!!」




声のような音のような歓声がヘルゲートを覆っていく。不思議な感覚だった。空気が動いている。熱気が渦巻いて地面が轟いているようだ。歓声にのせられて手を上げれば振動が身体を襲ってくる。手を振っていたら遠くに見えているザートが興奮した顔で手を振っているのが見えた。

皆色んな表情をしている。リオ、あなたはあの時みたいに無表情だね。疑問は予感になった。なら、予感は?



「応えて」



そしたらなにもかも受け入れられそうな気がする。不可解な映像。その一つは知らない映像だったはずなのに起きていたことだった。おかしいよね。ユゥーキと呼ばれたあの子の目線で私は映像を体験してた。金髪に青い瞳の女の子、ユゥーキ。

──あの子は、私?この映像は私の記憶だったの?

今も見える映像。ユゥーキがあなたに稽古をつけてもらうときしているの。乗り気じゃないあなたをその気にさせるために、稽古の前はいつもこうやって挑発していた。

赤い血がついたタルワールを持ち上げてリオに向ける。ユゥーキがそうして初めてあなたは笑うんだよね。そして稽古を始めてくれた。


『分かったよ』

「……あ」


しょうがないなって笑ってそう言うの。

剣の先にいるリオが笑う。眉を下げて困ったように、悲しそうに……なのに凄く嬉しそうに笑った。応えてくれた。

観客はなにかのパフォーマンスだと思っているんだろう。司会者もひどく楽しそうだ。私は泣いてしまいそうになったのを堪えて微笑む。剣を消したあとユゥーキがしていたように左手をお腹に右手を少し後ろにして頭を下げた。

もう一度見えたリオたちの表情に覚悟を決める。



予感は答えになった。







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