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廻り逢うそのときに  作者: 夕露
■我こそがレヴィカル
44/50

44.だから私は





会場についてすぐ軍人にリングまで案内されて数分後、司会の挨拶が響いた。とたんに銃声のような声援が沸いて目の錯覚か灰色のビルを揺らす。



「さあ二日目最終戦まもなく開始です!この戦いで明日の仕合に臨める十四人が決定だー!最初の対戦は突如我々の目の前に姿を現した謎の美少女!ユゥーーキィーーー!!!!」

「ははは……」



司会者の声に感化されたのか野次とも声援ともとれる声があちこちから聞こえてくる。嬉しいけどむず痒い紹介で居心地が悪い。大袈裟すぎて別人の紹介をされているよう──ユゥーキィー?

聞き覚えのあるソレに違和感を覚えた瞬間、頭がズキズキと痛みだす。前にもこんなことがあった。薪を燃やす薄暗い空間……リオだ。リオが言ったんだ。


ユゥーキ。


あのときリオは確かに私を見て『ユキ』じゃなくて『ユゥーキ』と言った。ユゥーキは誰かの名前?それなら何の反応もしなかった私を見て『駄目か』って言ったのはどういうこと?

……リオは私をユゥーキだと思って呼んだ?


リオ。


会場を見渡してダラクたちのいる場所を探す。幸い大声で叫ぶザートの声を拾えたからすぐに見つけられた。手を振るザートを迷惑そうにしているダラクとシリアが見える。そしてダラクの隣で座っていたリオを見つけて──目が、合った。

気のせいかもしれない。でも空間が切り離されたような感覚に陥って呆然とリオを見続ける。騒がしい声も、司会者の声も、色鮮やかなヘルゲートも、なにもかも全てが遠くに行ってしまった。


「ユゥーキって、誰?」


届かないと分かっていても言わずにはいられなかった。胸を焼く不安はなんだろう。この世界に来てから知りたかった色んな事が急に恐ろしいものに変わっていく。思い出すリオのおかしな言動が結び付き始めて──



「覇座を守れるか!?全てを破壊する怪力女戦士ディアルカッ!!」



身体が振動するぐらい大声で叫んだ司会者の声で現実に戻る。

ああそうだ、仕合が始まる。

隣に誰かが並ぶ気配がして見てみれば私より三十㎝は背が高い女の人が立っていた。初戦で見た人──司会者によるとディアルカさんというらしい。ディアルカさんは凄まじい顔をして司会者席を見ていた。


「あの野郎覚えておけ……」


司会者さんの今後について祈ろう。


「娘」

「え。あ、はい」


突然見下ろされたかと思うと聞き慣れない呼び方をされて戸惑う。ディアルカさんはそんな私を無言で見たあと、笑った。



「あんたと戦うの、楽しみだったんだ」



長めの前髪から見えた目が挑発するように弧を描く──突然、震えるほどの喜びが腹の底から沸いてきた。 この人は戦うのが大好きなんだ。喜びだとか楽しみを見出して極限まで力を出して戦うことを望む人。結果死んじゃうことになっても構わないって思える、私と同じ人。


「私も!あなたと戦うのが楽しみでした」


大きな破壊力に目をひく強さ。その一片に触れてみたいと思った。

ディアルカさんが不敵に笑って手を伸ばしてくる。子供を見るような眼じゃなくて対戦相手だと認めてくれていることが嬉しくて、手汗を服で拭ったあと握手をした。大きくて傷だらけの手。力を込めて握り合って、手を放す。

ディアルカさんの表情が変わった。


「幻滅させないでくれ」


望むところだ。



「──さあ最終戦!!思う存分戦えっ!!!」



開始の合図が鳴ってディアルカさんと一緒に光る文様の上に乗れば身体が消えていく。気がついたときには灰色に染まった瓦礫の世界の中にいて粘つく視線を感じた。すぐさま大きな瓦礫に身を隠す。タルワールを握って、移動できる場所を確認した。


「っ!」


空気を切る音が聞こえて飛びのけばさっきまで身を隠していた瓦礫が粉々になった。なんて力だ。


「娘。油断するなよ」

『緊張が解けたときが一番危ないの、分かってる?』


え?

ディアルカさんの声と一緒におかしな声が聞こえて、ディアルカさんの姿を見失う。



『バレたな……』

「鈍い、ねえ!」

「っつう!」



何も考えないで視界の端に映った剣先に反応したのが良かった。ディアルカさんは棍棒じゃなくて二つに割れた槍を持っていた。まっすぐ首を狙ってきた槍をタルワールでなんとか流せたものの変に力を入れてしまって手が痛む。刃先が擦れて響き渡る耳障りな音のなか見えたのは私を見て笑うディアルカさんだけで他には誰もいない。


「よそ見する暇があるかぁっ!?」


受け流すだけでも全力出しているうえ完全に力負けしてしまっている。いったん離れないとこれで終わりだ。私を掴もうと伸びてきた手を蹴り上げてすぐ後退する。合間にチャクラムを投げつけてもディアルカさんは棍棒ですべて叩き落としてしまった。耐久性を追求してるんだろう。そのぶん重いはずなのにあんなに軽々と扱ってしまうんだから怖すぎる。


「ぃ、わ」


さっきまで私の首を捕えようとしていた槍が勢いよく飛んできて腕に掠ってしまう。後ろで瓦礫が悲惨な音を立てているけど見るわけにはいかない。私の様子を見るディアルカさんから目が離せなかった。

私は既に全力疾走したような状態なのに随分余裕を持った顔だ。今のだって連撃したほうがよかったはずなのにディアルカさんはこのタイミングで距離をとって私を見てくる。面白そうに緩んだ口が、呑気に言葉を落としてくる。


「失望させないでくれよ」

『もう終わりなんだ』


静まり返る空間にディアルカさんの声も聞き間違いだったはずの声もよく響いた。異常な現象に私の心臓は怯えるように早鐘を打ち続ける。

だってほら、目の前のディアルカさんがぼやけ始めた。

『油断したら駄目だよ?』

マスタード色の髪に雪が積もってる。ああ、いつの間にこんなに雪が降ってたんだろう。辺り一面雪だらけ──ねえ、リオ。



「油断するなと言っただろ?」



リオが──違う。ディアルカさんが酷く不機嫌そうに吐き捨てた気がする。そして見えたのは振り払われてくる棍棒。


「うぁあ゛っ!」


避けきれたと思ったら死角から殴りつけられた。瞬時に持ち手を変えての攻撃で利き手じゃなかったからよかったはずなのに抉られるような痛みが体中に走って吹っ飛んでしまう。踏ん張りがきかなかったせいで派手な音を立てて瓦礫にぶつかって──ぐらりと支えきれなかった上半身が倒れる。意識がとびかけたけど岩に頭を打ったお陰で持ちこたえた。痛い。もう全身悲鳴をあげているし攻撃を食らった場所なんか何本か絶対に折れてる。


「っかは!ぅえ」


こみあげてきた胃液を吐き出して、すぐ、できる限りの速さで移動する。辺りは埃が舞っていて私の姿を隠しているけどディアルカさんにはほぼバレてるだろう。タルワールも手放してしまった。双錘でどこまでいけるか。

ディアルカさんの姿まで見失って絶望的な状況だ。流れてくる血が瞼にかかって邪魔してくる。足がふらつく。横腹が痛すぎて涙が出てくる。

『油断したら駄目だよ?緊張がとれた瞬間が一番危ないんだからね──ユゥーキ』

瓦礫に身を隠した瞬間また声が聞こえてくる。そして追い打ちをかけるように脳裏に知らない映像が浮かび上がってきて、また、瓦礫だらけのこの場所に雪景色が重なる。薄暗い景色のなか光に透ければ金色にも見えるマスタード色の髪が浮かんだ。女の子みたいな姿に似つかわしくない剣を持っていて、笑いながら私を見てる。最近見慣れた幾重にもなる布の服を着ている小さな少年。


「リ、オ」


受け入れられない映像に呆然と立ち尽くした瞬間、制裁とばかりに衝撃が走る。瓦礫を蹴り壊した足が顔スレスレに通り過ぎた。降ってくる瓦礫をよけながらディアルカさんの背後に見えたタル ワールのところに走ったけれど、ディアルカさんは追ってこない。

また余裕めいた顔で様子見か。

震える手でなんとかタルワールを握った。胃液の混じった唾を吐いてディアルカさんを睨む。この短い間に何度見逃してもらっただろう。いまのだって威嚇のような攻撃じゃなかったら詰んでた。ディアルカさんは私が面白い相手かどうか試してたんだ。そうできるぐらい上から見てる!それで──



「つまらないね……期待外れだよ」



見放す言葉。

世界が色をなくしてすべてグチャグチャに、真っ黒になっていく。また知らない映像が脳裏に浮かんで、

『さよなら』

目の前に立つリオがしばらく私を見てから静かに首を振った。そしてその手に槍を持つ。


「置いてかないで」

『置いてかないで』


情けなく泣きながらリオに言ったけどリオには聞こえてないみたいだ。どうしたら伝わるだろう。あのときどんなに叫んでも伝わらなかったのに、これ以上どうやって。

涙が流れて止まらないしもう訳が分からない。だけどただ悲しくて見捨てられたくなくて──タルワールを構える。



「強かったら一緒にいられたのかな……ねえ」



槍を手に持ったまま動かないリオ──ディアルカさんが私を見て目を見開く。




「どう思う?」




ディアルカさんの表情が試合前のときのように変わった。







 


 





狂勇でのネタバレがいくつかある回でした!

あわせて読んでくださってるかた是非予想してみてください^^

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