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廻り逢うそのときに  作者: 夕露
■我こそがレヴィカル
43/50

43.間違い探し






四戦目が始まるころ時間は昼をはさんで暑い日差しがヘルゲートに注ぎ込まれていた。凄く眩しい。カーテンを閉めてそろそろ始まるだろう仕合に臨むため着替える。服は動きやすいように半そでに着替えてベールを纏う。最初を思えば大分手馴れてきてそれはこの世界に慣れた証のように思う。


「527番、出番だ」

「はい」


ドア越しに聞こえた声に返事をして立ち上がる。ドアを開ければ灰色のビルを囲うように観客の声が響いて熱気が充満してるだろう。それは今までのことを思えば得難い場所でワクワクする場所だ。

それなのに心が弾まない。ドアが開いて予想通りの光景が広がっているのを見ても気持ちは変わらなくて、ただ、頭がぐるぐるして酔いそうだった。

軍人が確認するように顔を覗き込んできたあと観客の一部に向かって手を上げる。その数秒後司会者の大きな声が響いた。



「さあ四戦目!戦士たちはいかなる戦いをするのでしょうかっ!?……仕合、開始っっ!!!」



もはや五月蠅く聞こえてきた声が薄っすらと光る地面の上に足を踏み入れた瞬間ブツリと消える。観客の声も目がチカチカする色とりどりの色彩もすべて消えた。目に映るのは薄暗い灰色に覆われた壁とごろごろ転がっている瓦礫だけ。

……始まったんだ。

建物の中は予想通りのありさまで廃墟のようだ。妙な安心感を覚えてしまうのは前の世界を思い出して懐かしくなったから?どうだろう。

つま先で床を軽く叩けばカンカンと心許ない音が響く。初戦で大柄な女の人が床を壊したのを見て床は壊れやすいものだろうとあたりをつけていたけれど、ガラスか。気をつけないと敵に倒されるよりもまず建物の罠にかかってしまいそうだ。


「試してみよっか」


チャクラムを指にかけて回しながら歩く。薄暗い場所をのんびり歩いていたらなにか割れたような音が聞こえた。邪魔な岩を跨いで振り返ってみれば割れている鏡を見つける。

……なんだっけ。

なにか頭にひっかかったけど人の気配がしたから考えるのを止めてもう一度歩き出す。


どこかな、どこだろう──もうすぐだね。


そこに居るだろう人が動くのを待ちながら近づいていく。なんとなく物寂しい、そう思ったからだろう。気が付けば鼻歌を歌 っていた。


「っ!!」

「あれ?」


正面から投げられた石に視線をズラした瞬間、背後から矢が飛んできた。前にいたはずなのにどうやって移動したんだろう。勘違い? 矢を捕まえたベールを手繰り寄せつつまだ弓をひいてくる敵の様子を観察する。剣を抜いた。お腹めがけて投げたチャクラムを防いだ彼女は舌打ちして間合いを詰めてきて──目を見開いて動きを止めた。腕を斬られかけてようやく我に返ったらしい彼女は素早く身を翻してしまう。空ぶったチャクラムが壁に当たって耳障りな音を立てる。落ちていたチャクラムを取って彼女が床に着地する足元を狙えばこれも防がれた。

今度は私が距離を詰めて、


「っう」


敵の剣先が耳を霞めて痛みを訴えてくる。私の呻き声を聞いた敵が頬から血を流しながらも笑みを深くした。

だから、その背にあるベールをひいて閉じ込める。視界を、身体の自由を奪って丁度いい場所におく。今度こそ逃げられないようにしたあとチャクラムで殴りつけ──浮かんだ身体を床に叩き落した。




「ユキ選手、勝利っ!」




敵の声よりも先に司会の声が聞こえる。

……もう終わり?

まだ敵は参ったもなにも言っていなかったしあの程度の傷じゃまだ戦えたはずだ。なんで終わったんだろう?

不思議に思うけど終わってしまったのは確からしい。光あふれる場所からふってくる歓声を聞きながら色めきだった会場を見渡す。そのなかで見た選手の顔が印象的だった。恐れを抱いている顔、驚きに染まった顔、興奮に微笑む顔。

色鮮やかな景色を眺めたあと、仕合会場を離れる。


「ユキ選手。怪我の手当てを」


そう言って駆け寄ってきたのは晃に治癒魔法をかけていた人と同じ青い服を着た人だ。私の右耳を見ながらそんなことを言う。触ってみればビリビリする痛みを感じて手に血が伝った。うまく避けられなかったせいで思ったより深い傷らしい。


「いえ、救急セット持ってるので治癒魔法はいりません。ありがとうございます」


床を血で汚さないように耳を抑えながら仕合前に座っていた席に座る。リング調整もかねて最終戦までまだ時間があるらしいからのんびり応急処置をしていたら人影が落ちてきた。見上げればシリアみたいに露出の多い服からのぞく胸が見えて追わず声をあげてしまう。離れて向き合えば金髪に長めのウルフカット、前髪に黒のメッシュをいれた個性的な女性がにんまりと面白そうに笑った。



「ねえアンタなんで治癒魔法拒んだの?」



そう言って女性が隣に腰掛けるとざわりと辺りがどよめいた。周りの反応もさることながら観察するように見てくるつりあがった目に戸惑う。


「なんで?」

「……忘れないように、ですかね」


畳み掛けられた問いにどう答えればいいか分からなくて苦笑しながら答えれば女性は意味ありげに微笑む。


「それってさっきこっぴどくやられた男になんか関係してる?」

「え」

「さっきアンタ背中ばっさり斬られた男のとこまでいって治癒魔法かけてたじゃん。それからアンタぞっとするぐらい雰囲気違ってるし」

「そんなにですか」


感情をコントロールできていないのは分かっていたけどゾッとするまでとは思わなくて首を傾げてしまう。女性は目を丸くしたあと大声を上げて笑い出した。


「アンタ面白いねぇ初戦と大違いだ!アンタ本当にちゃんと分かってるかい?そんなに違うんだよ。いや、アンタにはそんな程度でしかないか。……あの男ってアンタのつれ?」

「つれですけど、そういうつれじゃありません」


色恋を匂わせる言い方をする女性に訂正するとまた面白そうに笑われる。随分明るい女性だ。救急セットを片付けていたらようやく満足したのか笑い声が聞こえなくなった。顔を上げれば嫌な笑みを浮かべながら私を観察する目を見つけてしまう。


「なのにあの男が傷つけば自分も傷つくようにする」

「……私のことをよく見ていたのならソレは挑発ととっていいんでしょうか」

「そうしてくれないとつまんないし、先に喧嘩売ったのはそっち」

「……?」


よく分からない女性の発言に眉をひそめれば鼻で嗤っていた女性が私と同じように眉を寄せ始めて首を傾げる。


「ここに座ったでしょ?ここは覇座はざ。知って……呆れた。知らないの」

「はい。覇座ってなんでしょうか」


正直に答えれば女性は頭をかきながら溜め息を吐く。


「あーもう……カナルは覇道の国。この席はね、カナルを統べたレヴィカルとその力に一番近しい六人の側近を表してんの。お分かり? この席が覇座っていうのは覇者になりえる者の席で、前大会の覇者の席だから。ここに座るってことは現在の覇者七人に宣戦布告するってこと」

「……」

「分かった?」

「はい、教えてくれてありがとうございます。あ、そうだ私はユキっていいます」

「……まあいいけどね。私はシャラっていうんだ。よろしくね」

「はい、また仕合で」

「アンタと初戦で会わなくてよかったよ」


ニヤリと笑ったシャラさんが立ち上がって背を向ける。現れたのも突然なら去るのも突然だ。手を振るシャラさんの後ろ姿を見送ればその隣に知った人が歩いているのを見つけた。風に揺れる水色のワンピースに黒い髪、レイシアさん。とても選手には見えない格好をしたレイシアさんを皆が注目している。シャラさんも眉を寄せてレイシアさんを一瞥しているし遠巻きにレイシアさんを見る人は何か口にしていて──



「来たのね」

「……はい、来ました」



微笑むレイシアさんが隣に座って、また、辺りがざわめく。きっとレイシアさんはこの席の意味を知っていて、でもどうでもいいんだろう。


「ユキって思ったより強いじゃない」

「……ありがとうございます」


褒められても嬉しいと思わないのはきっとこの人だけだ。戦わなくても分かるほど強い力を持つ憧れの人だから、ソレは悔しさを抱かせる。


「初戦であたらなくてよかったわ」


きっとシャラさんと同じ意味なんだろう。初戦の私じゃつまらなさすぎて相手にならないからだ。


「いつ戦えるんでしょうね」

「あなたが勝ち進めば」


強ければ覇座やそうした思惑だとか決まりはなんてものも何も通用しないと思えるんだろうか。値踏みしてくる視線、圧倒的な存在感、強い意志を感じさせる眼──覇者になる人はきっとこういう人だ。



「勝ち進みます」



断言して笑えば子供に向けるような笑みが返ってくる。上等だ。

二人で微笑み合っていたらアナウンスが聞こえてきた。今から最終戦を祝うパフォーマンス戦やイベントがあるらしく最終戦は二時間後らしい。


「……時間まだあるみたいなのでちょっと席を外しますね」

「そう、また」

「また」


頷いて返したあとヘルゲートをあとにする。じっとりと汗が滲む手を握りしめながら考えてしまうのは最終戦のこと。今日最後の仕合でレイシアさんとあたるだろうか。対戦表を見たいような見たくないような変な気持ちだ。落ち着かない心臓に手をあてながら思い出すのは静かな丘の光景──アディン、いるかな。

ううん、きっといる。

確信して走れば私にまとわりつく鬱蒼とした考えだとか暗い気持ちが飛んでいって、ようやく丘に辿り着いたときには汗だくだったけどさっぱりとした気持ちになった。

……やっぱりこの丘は今日も不自然なほど人がいなくて静かで、アディンしかいない。

昨日と違うのはアディンが微笑みながら私を見て待っていたことだ。息を整えながらゆっくり近づく。



「来たか」

「うん」



微笑むアディンと同じように私も笑って返して、少し間をおいて止まった。

アディンがどういう人かまったく分からない。分かってるのは変なことばかり言う人で何事にも無関心のような人形のようで執着心が強い、凄く怖い人。


そして晃を殺しかけた許せない人。


だけど冷静になって考えれば、それはしょうがないことだ。レヴィカルはそういう場で私たちは知って参加した。泣き言を言うほうが間違ってる。だけど許せないだけ、子供なだけだ。

悔しいな。

許せないと思う気持ちの中にはアディンに敵わないからって感情も入ってる。敵討ちを考えてるわけじゃないけど何も出来ない実力差を痛感して、だから、八つ当たり混ぜて許せなくて。

強くなりたいと思った矢先見える現実の壁はできるなら見たくなかったものだ。


「晃を斬ったよね」

「そうだな。責める気か?」

「……そうだね。お門違いだって分かってるけど私が許せない」

「そうか」


アディンは私と違って感情を乱したりはしない。そこがまた悔しい。



「なら早速、手合わせ願おうか」

「っ!?」



理解するのに遅れた言葉が消えた瞬間なにかが勢いよく迫ってくる。すんでのところで身をかわせたからよかったものの、距離を取って見えたのはさっきまで私がいた場所に深々と刺さるスモールソードだ。突然の展開についていけないけれどお気楽に立ったままだと死んでしまう。おかしなことにこれが現実だ。

アディンはゆっくり動いて剣を抜き取った。そしてすぐ迫ってきた剣先をかわしながらタルワールで応戦する。考える暇もなくてほとんど反射で返しながらアディンに食らいつくしかない。

髪の毛が斬られて宙に浮くのが見える。肌が斬られてビリビリと痛みを訴えてくる。迫る金属音が死を予感させる。



「……っ!」



だけど心臓が楽しみや期待に激しく音を鳴らして口元が緩むのをおさえきれなくて!

笑うアディンが視界から完全に消える。

すぐさまその場から離れて辺りを見渡すけどどこにもいなくて──目の前に金色の髪が現れる。それよりも早く出た剣先が私の胸に飛び込んできて私の足は動かなくてっ、


「避けきれないと思ったんだがな」


天気の話でもするような平然としたアディンを見上げながら必死に呼吸をする。

死ぬかと思った……っ!

咄嗟の判断で転移していなかったら死んでいたか致命傷になっていたのに、そうしようとしたアディンは私を見下ろして笑っているだけだ。スモールソードを消したあとへたりこむ私に視線を合わせたアディンが情けない顔をしているだろう私を見てニヤリと笑う。


「ユキ。私はいまとても楽しい」

「……そのよう、です、ねっ」


へとへとの私が面白いだけじゃないだろうけどアディンは笑みを深めながら手を伸ばしてくる。私の顎を掴み上へとあげてくるせいでアディンの蒼い目をいやに近くで見てしまった。



「気がついているか?お前は私と同じでどこかおかしい。お前の場合は一見無邪気で無害に見えるが異常だ」



人を表す言葉に異常はどうかと思うけどそういえば私もアディンに似たようなことを言ったっけ。

手に握ったままだったタルワールを消す。だけどアディンは動かない。


「気持ちを切り替えたというより別人にも思えるぐらいだ」


アディンの言葉は言い得て妙で黙り込むしかできない。そうなると何時から──ああ、そうだ。アディンと会ってから色々なものに区切りがついて色々な感情が制御できなくなったような感覚がする。人を殺したら駄目、傷つけたら駄目。そんな当たり前のものが目的によって歪み始めた。晃を守るためなら自分を守るためなら力を得るためなら避けられないことに変わった。ある意味縛られたものから解放されて自由になったとでもいうような。



「もっと力を望め」



他の人に言われたらこの人何を言ってるんだろうぐらいにしか思わない言葉が、アディンが言うと胸がざわりと欲で震える。素直に言葉を受け止めて望んでしまう。強い熱に頭がぼんやりしてして

『ああ。……また会いに行く』

聞こえた声に意識が戻る。目の前の人は何も話していない。だけどいま聞こえた声は間違いなくアディンの声だった。また、幻聴だ。

この現象は一体なんなんだろう。急に誰かの声や映像が頭の中に流れ込んできて現実に溶け込んで現れる。でもその度にソレはすぐ朧げな記憶になって──きっともう忘れてしまったものもある。


「仕合……行ってくる」

「ああ」


アディンの手に触れると思ったよりもすんなり離れてくれた。観察してくる蒼い眼はやっぱりレイシアさんに似ている。今はあの人と戦うチャンスを逃しちゃいけない。打ち合った時間は長くはなかったけれど早く戻って備えたほうがいいだろう。

立ち上がってヘルゲートに向かう。

『お前は私と同じでどこかおかしい。お前の場合は無邪気で無害に見えるが異常だ』

『駄目……駄目。やっぱり駄目だ』

『なんだ、王だからって遠慮するのか?』

『愛している』

『また繰り返した』

思い出す今日の出来事が私になにか訴えるように何度も何度も現れて消える。これも奇妙な現象に追加されるんだろうか。重なる映像はもうなにが現実か分からなくする。




「ああ、間違いなく異常だ」








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