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廻り逢うそのときに  作者: 夕露
■超えたいもの
37/50

37.レヴィカルであれ!

 




「──昔、カナル大陸最強の男がいた。


見上げるその姿二メートルになり対峙するもの熊のような男に畏怖を抱く。大木のような腕には目を背けたくなる傷を見ることになるだろう。大地を鳴らす足が動く。恐ろしさに逃げ出す者は多いが、狙われた者が逃げられたためしなどない。

けれど男を慕うものは知っている。青色の瞳が優しく弧を描くことを、茶色い髪が太陽に照らされ美しく光ることを、男が豪快に笑うことを知っている。

男は闇の者から人々を守っていた。一度闇の者見つけるや相棒のバトルアックスを担いで走り出す。人二人分あるバトルアックスを片手で振り回す様は人のようには思えない。歪な笑み浮かべる男こそ化け物と叫ぶ者は多いが、男は一切を気にせずただ闇の者を屠っていく。強者であり続ける男は人々に英雄と呼ばれその人外なる様に永遠に生き続けるのではと囁かれる。しかし男は生を全うする。

男がこの世を去ったとき人々の悲しみ凄まじく地が揺れる。眠る男に人々すがりつき男を想う。


男のようになりたい。男のようであれ。


英雄は子に語られいつしか伝説へと姿を変えていく。そして男を称えるために、男のようになるために、人々は年に一度男の名にちなんだ大会を開く。男の名は──レヴィカル。



さあ、始まる。



年に一度、大陸最強の者を決める戦いが。集え、集え。そして名を知らせろ。

我こそが、レヴィカルにならんと!」





抑揚ある声で語られた英雄伝“レヴィカル”が一際熱を帯びた声を最後に終わる。ザートの手が天に伸ばされ拳を握った瞬間、感動のあまり一緒に話を聞いていた晃と一緒に全力で拍手だ。


「とまあ、こんな感じでカナルでレヴィカルが開かれるようになったんだよ」

「うわあああ……!」

「おおおおお……!」

「話を聞いてもらえるだけでも嬉しいのにそんなに喜んでくれてお兄さんは嬉しいよ」


ザートは悲しみ含ませたことを言いながら私と晃を子供にするように頭を撫でてくる。事実私と晃は小さな子供に戻ったような気持ちだ。ヒーローショーを初めて見たときと同じなのだ。

我こそが、レヴィカルにならんと!……ああ、彼に会ってみたかった!真正面から話を聞いてみたい。人々と一緒にその戦いぶりを見たいし彼と一緒に戦ったらどんな気分だろう。彼の敵として立ったならどんな気持ちだろう!

ワクワクする心が目尻に涙まで浮かばせる。なにせ彼の名にちなんだ大会は明後日開催されるのだ。レヴィカルになろうとする人はやはり腕に覚えがある人ばかりだろう。


「楽しみっ……」

「だな」


やっぱり幼馴染の晃はずっと一緒に居ただけあって思考が同じらしい。お互い拳をぶつけあって「頑張ろう」と意志を固くする。これに疑問の声をあげたのは後ろでティータイムをしながら頬杖していたダラクたちだ。目の前のザートは私の様子を見て困ったように眉を寄せていた顔を青ざめさせた。


「……ん?あれ、俺が考え事してたからかな?いつのまにか参加するみたいな感じの話になってる?」

「晃、頑張ろうね」

「おう」

「あれ?また聞こえた。というかもう俺用済み?」

「晃武器どうする?鎖?」

「悩むな……ユキは?」

「私はやっぱりタルワールかな……悩む」

「あ、えーと」


ザートが私たちとダラクたちを交互に見たあと無罪を主張するように手をあげる。ガタッと椅子が音を鳴らすのは早かった。


「……まさか、レヴィカルに出るとか言うんじゃないよね?」


リオだ。

やっぱり反対意見よりだそうで、その表情は険しい。私と晃が明後日ピクニックに行くとでも言っているような雰囲気で話しているからだろう。思わず隣を見ればお隣も同じ気持ちだったらしく目が合った。


「「出るけど??」」

「本気?」

「そうだけど?」


皆が不思議そうな不安そうな顔をしているほうが不思議で首を傾げてしまう。するとザートとリオに代わってダラクが低い声で切り出す。


「……あのな、レヴィカルってカナル最強の奴を決める大会だって聞いてたか?」

「ああ。聞いたけどなんだ?」

「それだけの奴らが集まって来るってことだぞ?」

「面白そうだね」

「お前なあ……。レヴィカルってのはな?死に至らしめる怪我を負わせること、殺すこと、この二つをしなければあとはなんでもしていいって大会なんだぞ」


前の世界では日常にない言葉が身近にある大会。相手によっては殺し合いを覚悟してしまうものになるかもしれない──レイシアさん。あの人が対戦相手を無傷に返すイメージは全く沸かない。それに表情が緩んでしまうのはもう諦めた。

きっとじゃなくて、そうだ──私は異常だ。夢に囚われて夢の人物に会いたいオカシイ奴。ブレて重なる映像に現実が分からなくなって自分のことさえ分からなくなってきてる。衝動に胸が張り裂けそうになって現実でないものと話をする。でも知りたいことが多すぎて、叶えたいことがあって、そのためには異常も必要だと思う。


「最高だね」

「最高かどうかは分からねえが面白そうだよな」

「最高だよ」


流石に晃も賛成しなかったけれど頬は緩みっぱなしだ。こちらを無表情で観察するダラクを見ても変えられない。それを見たダラクは遠回りな言葉を使っても意味がないと判断したのか纏う雰囲気まで変えてしまう。


「大怪我することはおおいに考えられる。腕や足を無くすかもしれない。一生動けなくなる怪我を負う可能性もある。そればかりか大会といえど実際に命を落とした者も多くいる。分かってんのか?」


理解しているのかどうかはおいても、それは分かっている。

私はともかく晃にはそうなってほしくないけど、それは晃も同じだろうから言えない。それも分かってる。

やっぱり答えは同じだ。


「分かってる。それにさ、怪我をするのはそれまでの実力なんだよ。私は自分の実力を知りたい。こういうと子供の我が儘に聞こえるだろうけどさ、譲れない。私は出る」

「死んだとしてもそれまでの実力ってことで終わらせるのか?」

「そうだよ。でも私はそうならない実力をレヴィカルにつけにいく」

「なんの説得力も無いな。猛者が集まるところで実力を知りたいと言って死ねばそれまでだという。そんなことせずとも安全な場所で鍛錬を積んでルールの守られた場所ででも猛者と組み打ちすればいい。それでも実力は知れるだろう」


確かにそうだ。死ねばそれまでなんて考えるようじゃ駄目だ。死んだら強くなるなんてもうできないし本末転倒だ。

だけど!



「私に安全な場所での争いはないよ」



断言してしまってから疑問符でもつけておけばよかったかなと少し後悔する。リオに余計な勘繰りを持たれるだろうし、ザートとシリアが私たちの様子を見て眉を寄せた。

でも最低限これだけは話してもいいはずだ。お互い様だろうけれど私たちと一緒に旅をするのなら普段の旅をする以上の危険がつきまとうんだから。


「なにを」

「闇の者と……誰かと対峙するときにルールは存在しない。待ってもくれない。戸惑ったら死ぬ場にルールなんてある必要が無い……知らないままにここを生きることはできないよ。知れる場所があるなら知りに行く」

「死地だとしてもか」


大会と言っていたのに死地という言葉が出て、ついに表情が緩んでしまう。



「そこに知りたいものがあるなら」



断言すると皆の表情が変わった──諦めと驚きと諦観。

話を切り替えたのはシリアだった。


「……死ぬ危険が見えたら即退場してもらうわよ?」

「逆のときはどうする?」

「「「「「……」」」」」


笑って返せばまた沈黙が広がる。


「よ、よし!じゃあ次の目的地はカナル!レ、レヴィカルであれ!」


汗を流しながら笑うザートにダラクたちの厳しい視線が飛ぶのは早かった。ザートはすぐさま荷物をまとめると席を立ち、それに他の面々も続いていく。私はもう荷物をまとめてブレスレットに収納しているから後は待つだけだ。意外なことにそれはシリアも同じだったらしく私の隣に腰かけた。


「あれ?もう準備出来てるの?」

「あら?ザートが荷物をまとめてくるって言ったの聞いてなかったの?」

「なるほど」


心の中でザートを労えばシリアが顔を覗き込んでくる。青い瞳が私を映し出して離さない。


「さっきのこと」

「うん」

「あれは本音?」

「そうだよ。……少しは戦えるって自負してるけど通用しなかったら意味がないしね。試してみたい」


復讐を目的とするダラクの旅、きっとどこかで衝突する日が来る。それに夢のあの人は闇の者の姿をしていた。オルヴェンで最も恐れられる姿。あの人に辿り着くにも力が必要だろう。もっといえばフォルの目的が分からないにしても戦争が起こるタイミングでこの世界に連れてこられたことを考えれば戦争で死なないための力も必要だ。

強くなりたいんだ。

そのときの私の気持ちを叶えられる力が欲しい。

なのに私はまだ魔法のコントロールも完璧にできなくて剣を取る覚悟も不安定な状態だ。そのときが来たときのための摸擬戦をしておきたい。


「ユキは剣を使えるのかしら?」

「……」


強い視線に言葉が出ない。

ああ、シリアもレイシアさんと同じなんだ。目的のためなら殺すことを厭わない人で、それが出来る人だ。


「実力を知りたいのよね?剣が使えないのなら素手で挑むのかしら。きっと大丈夫って、死んでもしょうがないって?相手は生きるために名を刻むために色々とあるでしょうけれどその目的のために剣を振るうのよ。受けるあなたがそんなんじゃあ斬られて死んで終りね。そういう場なのよ。例えルールが最低限あるにしても人を殺す武器を用いての大会よ。傍観者という観客に囲まれて力ないルールがあるだけの場所で相手と自身とでの仕合よ」


相手と自分だけ。

思い出すのは空き地でイメージしたレイシアさんとの戦闘。綺麗なタルワールは剣を受け止めたあと動かなくて。

私は相手を殺すところがどうもイメージ出来ない。出来るのは相手を怯ませるだとか反撃を仕掛けられないようにするところまでだけだ。

でも相手がそれでも死に物狂いで攻撃してきたら?晃を殺そうとしたときには?自分が殺されそうなときには?

考え続けると怯んでしまう。あの村での恐ろしさが私の背中を押すけれど、それでも、覚悟は恐ろしさに震える。私はこれをどうにかしたいんだ。


「怖いよね、ソウイウ場所」


でもこの世界で生きていきたいんだ。


「でも知りたいことがあって、そういう欲しいものがある。譲れないことがある。優先順位がね、ついてるんだ。そもそも私は怖いと思うし死にたくないし、だから大怪我や死ぬような場所は避けたいよ。人を傷つけることも怖いよね。でも選んでしまったし、その時をただ待ち続けるのは出来ないんだ。なにもしなかったせいでその時なにも出来ないのは許せない。ねえ、シリア。皆が納得できる理由を私は持ってない。ただ私は強くなりたいんだ。レヴィカルはその手段になると思ってるから行くんだ。そのために生じる可能性はちゃんと頭の中に入れておく。だって私が選んだことだから」


レイシアさんならどう言うだろう。レイシアさんにもこういう葛藤があっただろうか。初めて会って数分会話しただけの人なのにあの人のブレなさは憧れだ。相手を圧倒する気迫も、どう思われようと気にしない言動も、人を傷つけ傷つけられることを厭わないところも。


「別に説得されたいわけじゃないわ。周りはどうしたって心配してしまうのよ」

「あはは、そうだね」

「ユキ」

「うん」

「ユキは剣を使えるのかしら?」

「うん」


さっきとは違ってすぐに答えられる。

吐き出したことでやっぱり気持ちは変わらないんだと痛感した。きっとブレた覚悟で剣を使って後悔することもあるはずだ。それが分かっても私が思う強くなりたいに達するためにはしょうがないことなんだ。気持ちだけ強くなっても意味がないことを私は知ってる。結局物事を動かすには圧倒的な力を必要とするときがあるって、知ってる。


「後味悪くなるから死ぬのだけは止めてちょうだいよ」

「うん。シリア、ありがとう」

「なにが?ああ、でも殺したら失格だから気をつけなさいよ」

「気をつける」


昨日恋バナをしていたとは思えない会話に笑ってしまう。

私は幸せ者だ。こうして心配して力になってくれる人たちがいる。


「凄い会話してるね?気のせい?」

「普通の会話よね?」

「ね」


振り返れば荷物をまとめたらしい面々がなんともいえない顔で立っていた。



「行こっか!」



楽しくなってザートが英雄伝“レヴィカル”を語り終えたときのように拳を天に掲げる。

浮かれる足は数日の距離をものともせず目的地まで進んでいった。今まで旅路で通り過ぎる人はほとんどいなかったというのに、目的地に近づくたびに人が姿を増やし始める。大会を楽しみにしいる人が、気を高ぶらせ武器を背にする人が、お金が動くと舌なめずりする人が、沢山の人が口にする。

レヴィカル、レヴィカル、レヴィカル!




「着いたあ!」





ついに丘の向こうに見えたカナル国に大声を上げてしまう。開けた森から人々が蟻のように群れを成してカナル国へと続いている。どこからともなく歌が聞こえてくる。



さあ、始まる。



年に一度、大陸最強の者を決める戦いが。集え、集え。そして名を知らせろ。

我こそが、レヴィカルにならんと!










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