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廻り逢うそのときに  作者: 夕露
■超えたいもの
35/50

35.きっかけ




眩しい光に起こされて目が覚める。隣で寝ていた人はもう起きてしまっていたらしくベッドは空だ。開けられた窓からは行商の行き交う音や生活音、賑やかな人の声が聞こえてきた。


「……覚えてる」


いつもならそんな騒がしさに始まる一日を思って胸が弾むのに、いまは切なさと嬉しさで震えている。銀髪に隠れた赤い瞳、骨ばった手、温かい体温、悲しそうな声――会いたい。


ううん、あの人に会う。


忘れていなかった記憶に安堵しながらベッドからおりて服を着替えたあと、腕に通したままのブレスレットを確認する。胸を焦がすほどの想いが一日も無駄にするなと私を焦らせていた。

私には時間がない。


「おはよう」

「あらおはよう」

「おっはよ、ユキ」


慣れない二つの顔を見て頬が緩む。一階にある大きな机に並んで座っていたのは肌の露出の多い服を着ているシリアとヘラヘラと笑うザートだ。ダラクたちはまだいない。


「あ。昨日買った地図をもとに今から目的地決めるってさ」

「そうなの?分かった、ありがと」

「……あら?ユキは行きたいところはないの?」


他人事のような言い方が気になったのか仲の良いことに二人揃って首を傾げる。話に加わらないのかと言外に問う仕草に苦笑いが浮かんだ。


「う〜ん私ここらへんの地理が分からないからさ」

「へえ?まあユキはカナルの人間には見えないからなあ」

「ええ?」

「ほら、カナルって闘争本能の強い奴が男でも女でも多いだろ?ユキはあんまそう見えなかったしここらの人間じゃねえだろうなって」


……私ってカナル向きの性格かも。内心ぼやいているとシリアが豪快に笑う。


「私はカナルの風潮は分かりやすくて好きだけどね。でも上に立つのが力だけの筋肉馬鹿で頭がついていかないような奴には殺意を抱くわ」

「まあな。でもいまの奴はまあまあいいんじゃない?」

「どっちかっていうと筋肉馬鹿だけど」

「言うなって」


雑談のはずが討論のような激しさを帯びてきたから無言でキッチンに避難する。セルフでと提供されているお茶を飲みながら楽しそうなシリアたちを眺めつつこれからどう接していこうか考える。シリア達にはどこまで明かそう。どこまで――忌み嫌われ知ることさえありえないとされる禁呪でこの世界に来た私。戦争が起こるかも知れない状況下でソレはどういう意味をもたらすだろう。オルヴェンの人間じゃない異世界人がいるという噂が流れたとしたらどんな変化を生むだろうか。フォル以外に反応するとしたらどういう人達だろう。ああ、そういえばフォルはなんの代償を払って禁呪を使ったんだろうか。


「ユキ?どした?」

「えっ?ああ、晃おはよう」


突然の呼び声に驚いてコップを落としそうになる。慌ただしい私と違って振り返れば眠そうに目を細めて立つ晃がいた。大きな欠伸をしている。


「……眠そうにして」

「眠いんだよ」

「だったらもう少し寝とけばよかったのに。明日から朝早いよ?」

「分かってるけど今日は目的地、決めんだろ?」


そう話す間も首の力が抜けていき身体は前のめりになっている。机の支えがなかったら間違いなく倒れているだろう。だのに私はいまから町の探索に行くつもりだ。少し後ろめたくなってしまう。


「待ってるあいだ椅子に座っておいたら?」


ふらつく晃を強制的に大きなソファに座らせればたちまち目を閉じて規則的な呼吸をし始める。無防備な表情に呆れとおかしさがこみあげてくるのはすぐだった。


「晃は変わらないなあ」


昔から、前の世界でも、この世界でも。

……それはとても安心するし嬉しくなる。だって変わってしまうのはあっという間だ。どんなに大事にしていても壊れるときは壊れるし、消えてしまう。あんなに大事だったのに忘れてしまったし無くしてしまった。誰かに壊されるときもあれば自分で壊してしまう。おかしことに大きな事件が起きてそうなるんじゃない。

『ユゥーキ……』

とても小さなキッカケが始まりになった。


「なに?晃寝てるの?」

「うんそうな……の」


近くにあった毛布を広げて晃にかけたとき聞こえた声。顔を上げれば微笑むリオがいた。

『駄目か』

悲しそうだった顔はいつもの表情になっていて、おはようと動いた私の唇と同じように唇を動かす。


「私、ちょっと街を見てくるね」

「……いってらっしゃい」


リオの横を通り過ぎて、シリアとザートたちに手を振りながら宿を出る。

ああ、予感がする。なにかが変わってしまった。



壊したのは誰だろう。





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