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廻り逢うそのときに  作者: 夕露
とある願い
34/50

34.焦がれた人へ




深夜物音に目が覚めてしまって数十分。寝ることを諦めて部屋を出ることにした。シリアを起こさないようにベッドから身体を起こしてそっとドアを閉める。

野宿に慣れたせいか宿に寝ることが逆に落ち着かなくなった。旅で培ったものは良い経験だけじゃなくて悪いこともあるらしい。宿が静か過ぎるせいで僅かな物音に眼が覚めてしまう。虫の音、風の音、葉の擦れる音、土を踏む音、人の息遣い、人が動く音──落ち着かない。最初からなにかあると分かる場所のほうが落ち着くなんて難儀なものだ。ロビーにあるソファに寝転がって真っ暗ななか浮かぶ物の輪郭を眺める。

シリアとザートが旅に加わってきっと明日からもっと賑やかになるだろう。それはきっと楽しくて、けれどこんな静かに過ごす時間もなくなるということだ。


それぞれが秘密を抱えて探り合い目的を達成しようとする旅。


楽しみだけど少し気が重くなるのはあの村の件で戦争という言葉をリアルに感じてしまったからだろう。薄っぺらい覚悟を思い知らされたあの日触れた死んだ女の子の冷たさは今でもハッキリ覚えている。

土に汚れた金色の髪、動かない身体、赤黒く固まった血、肌に残る涙の跡、泣き叫んだ男の人──あれ?



「違う」



いつの間にか閉じていた目を開ければ目を閉じる前にも見た景色。宿屋のロビーにあるソファで私は寝ていた。間違いない。

ああ、だけど今のはあの村の出来事じゃなくて前の世界で見た瓦礫の夢だ。違う。晃と再会したあの洞窟で見た──違う。だってあの人は言ってた。

『なんで殺さないと駄目なんだっ!?』

あの人は殺したくなかったんだ。あの女の子を殺したくなかった。違う!あの女の子はあの女の人じゃないし、女の子を殺したのはあの人じゃない。

重なる光景が脳を騒がしく移動して心臓がバクバクと不可解な現象に怯える。違いの分かりやすい間違い探しのはずなのにどれもしっくりくるからなにが正解だったか分からなくなる。

次々と思い出す光景が消えないテレビのように流れ込んでくるのは酷く心を消耗するらしい。汗が止まらなくなって呼吸さえままならなくなる。大分異常だ。だというのにそんな自分を冷静に観察してしまう。


息が苦しい。

なのに窓を叩く雨の音を見つけて呑気に外を見てしまう。

ガタガタ揺れる窓に動く影がナニカを作り出して私を怯えさせる。

なのにキッチンのほうから聞こえてきたポチャンポチャンという水音に息が止まるほどの恐怖を覚えてしまう。


これは夢だ。起きてソファに寝転がるまでも夢だったんだ。


そう思い込まないと気が狂ってしまいそうだった。だって水音が何度も何度も聞こえてくる。揺れる窓、風の唸り声、叫ぶ男の人──

『また……』

悲しそうに囁かれた声。



「あ」



──身体が動いた。肩の力が抜けて、呼吸が出来る。視界に映るのはブレることも重なることのない光景。

現実……。


「ぁ」


大袈裟かもしれないけれどあの状態で居続けていたら死んでしまっていたかもしれない異常な症状が、治まった。

だというのにいま私の心は悲しいと嬉しいがドロドロに混ざってそれどころじゃない。

『ここで死ぬか……?』

あの男のこと、覚えてる。あのときも絶望して考えることを放棄した私を助けてくれた。オルヴェンに来る直前に見た夢で遠い記憶のことだけどはっきりと思い出した。

赤眼に長い銀髪の髪だった。私を見て悲しそうに切なそうに笑っていた。真っ赤な眼に私が映ってたの、覚えてる。あの綺麗な銀髪も、あの体温も、あの声も、キスも──覚えてる。


私、あの人に触った。


唇に指を当ててみれば震えている。暗闇のなか月に照らされた青白い手が見えて、それにまたあの男を思い出す。血の気のない肌のくせに温かい体温で、無表情を急に悲しそうな顔に変えて笑った。

ダラクがあの姿になったとき胸を焦がした気持ちを思い出す。あのとき分からなかった誰かはあの男のことだ。


私、覚えてる。

あの人のこと覚えてる……っ!


あの奇妙な現象のたび同じような映像が重なってなにが現実だかわからなくなってしまう。覚えているのに思い出せない。それどころか同じことを考えてそのたびになにかを忘れてしまうこともあってそのたびに心が壊れていくような気持になる。残るのは寂しい、悲しいっていう切ない気持ちで、知りたいっていう願いだけが募っていた。


ああでももう忘れない。私あの男の人に会いたい。


闇の者といわれる姿に変わったダラクと同じ姿で現れたあの男の人。私がこの世界に来る前に見た夢で現れたのはきっとなにか意味がある。きっと──




「ユキ?」




突然の呼び声に凍り付く。

けれど変な疑いをもたれるわけにはいかないから、ゆっくり、声がしたほうを見た。


「リ、オ?」

「なにしてんのさ」

「リオこそ、こんな真夜中に」


お茶でも飲みに来たのかリオは階段からおりてきたところソファで寝転がる私を見つけたらしい。私の行動に気がついて様子を見に来たわけじゃないらしいものの、私を見るリオの表情は固い。


「リオ?」


今度は声が震えることはなかった。なのにリオは一際目を大きくさせたあとなぜかあの男の人のような表情で笑う。そしていつものように優しい声色で私を呼んだ。



「ユゥーキ……」

「え?」



ニュアンスの違う呼び声だった。違和感を覚える私を見てリオは視線を落とす。そして起きた視線はなにかを悟ったように細められていて、力なくつりあがった口元が言葉を落とす。


「部屋で寝な。風邪ひくよ」


リオはそのまま階段をのぼって部屋へと戻ってしまった。トントンと足音パタンと閉まるドア。私は真っ暗なロビーで呆然として動けずにいた。リオは『ユゥーキ』と言ったあと、消え入るような声でこう続けた。




「駄目か、って」




リオはなにを知ったんだろう。







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