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廻り逢うそのときに  作者: 夕露
とある願い
33/50

33.恋話





「いくらなんでもこの仕打ちはひでえだろ……」

「自業自得だ」


ザートを容赦なく一刀両断したのは眉間にシワを寄せているダラクだ。ザートは頭を摩りながらダラクを恨めしげに見ている。

うーん。相変わらずザートは怖いもの知らずのお調子者だ。ダラクの耳元で叫んで怒りを呼び起こそうとする人はおそらくザートだけだろう。


「ほんと学ばない男ね」


そしてシリアさんも変わらない。最初に会った街カルティルよりも寒いこの場所でも大胆な露出をした服を着ていて、凛とした空気も相変わらずだ。やっぱり憧れるなあ。


「あ、ユキ」

「なに?」

「で?この男二人誰?さらに増えてるじゃん」


ザートの視線がザートとリオに注がれる。そういえばザートたちと連絡をとったときまだ晃はいなかったな。はたと気がついて話の流れ上、私が紹介する。


「リオと晃だよ。一緒に旅をすることになったんだ。リオ、晃。シリアとザートだよ」


それぞれを指しながら紹介するとみんな微笑んだり軽い挨拶をしたりと友好的だ。けれどシリアとザートはなにか面白いものでも見たようにニヤニヤと笑いだす。


「楽しそうな面子ね」

「実に楽しそうだ」

「本当に楽しそうですね……それで本題なんですけど、今回はどうしたんですか?会えたのはすっごく嬉しいんですが随分急ぎな感じでしたから」


楽しそうな二人に話を切り出せばザートとシリアさんが静かにアイコンタクト。なんだか真面目な雰囲気が漂った。



「そうね、早速本題に入らせてもらうわ。……私たちをあなたたちの旅に同行させてほしいの」



突然の申し出に皆それぞれ色んな反応をみせる。主に警戒だったけどその中でもダラクはあからさまだった。出会いが出会いだったこともあるだろう。


「私は賛成」

「ユキ、待て。お前なんも考えてねえだろ」

「考える必要ないでしょ」


だって絶対楽しくなる。絶対、なにかが起きる。

確信をもって晃に笑い返せば晃はあからさまに嫌な顔で返事をしてくれる。そんな私たちを眺めたあとシリアはまた話を続ける。


「……私とザートはラリヴェルという団体に所属しているの。依頼とあればなんでも受ける傭兵の集まりのようなものよ。荷運びから盗賊退治と依頼内容はピンキリ。今回の私とザートの任務は闇の者の調査」

「闇の者の調査?」


シリアの言葉を拾ったのはリオだ。その視線が次どこに動いたのかは見なくても分かった。


「闇の者の目撃情報が最近増えていてそれを危惧した街や国から依頼があったのよ。……それに仲間も被害に遭ったからね。ラリヴェルも重い腰をあげて調査に踏み出したわけ。私たちはその一端よ」

「それがなんで旅の同行につながるわけ?」


当然の疑問をリオが口に出すたびにヒヤリとする。私はダラクと違ってポーカーフェイスが苦手なんだ。心臓に悪い時間が早く終わったらいいのにと願う私の脳裏に浮かぶのは銀髪赤眼のダラクの闇の者の姿。


「そりゃコテンパンにされたから」

「は?」

「俺ってラリヴェルではそれなりなんだけどダラクとユキにのされたからなー。闇の者と対峙するなら強い奴と一緒のほうが心強いだろ?聞くところによるとダラクたちはこの世界を端から端へ旅してまわってる。それなら闇の者の情報だって自然と入ってくるってもんだ。こりゃのっからない訳ないだろ!」

「お前は黙ってろ」

「ダラクって俺の扱いほんとひどいよね」

「ねえ、それが理由なら他をあたったほうがいいんじゃない?少なくとも俺は闇の者が出るような危険な場所に向かうつもりはないんだけど」

「俺もそんな危険な奴に近づくつもりはない」

「えぇ……」


リオと晃の反対に不謹慎にも心がワクワクと音を鳴らす。まだ信用してないからなんだろうけどシリアとザートに嘘を吐くリオ。闇の者から人間を守る守人なんて役職についている人が闇の者出現の情報を聞いたらそれこそ一番に駆け付けるだろうに。

嘘を吐いて様子を伺うのは信用できない以外にもあるから。その反応は心得てるとばかりのシリアとザートの腹はなんだろう。

ね、ダラクはいま何を考えてる?

ちょうど目があったダラクに微笑めば能天気な奴といわんばかりの溜息を吐かれた。


「なんでそんなニコニコ……あー分かった。ユキの意見は聞いたからな。おいザート!詳しく話せ。それであーユキたちはどっかで休んでろ。後で落ち合おう」

「え?」

「あら、シリアさんって呼んでくれていいのよ?ダラク」

「……とりあえずそういうことで」

「え、ちょっと」

「じゃあユキは私たちが泊ってた宿にでもいきましょうか」

「えあ、は、はい」


進む話に納得できなかったけどシリアさんの誘いを断るわけにはいかない。

結局女と男で別れる形になって、私は先を歩くシリアさんを追うことになった。人混みで迷いそうだったけれど視線をあげれば魅力的に揺れるポニーテールが見えた。まっすぐな背筋、切り傷あれど小麦色の綺麗な肌、女性でも目を追ってしまうメリハリのある身体。

綺麗だなあ……。

シリアさんを綺麗だと思うのはなにも異世界の私だけじゃなくてこの世界の人も共通の認識らしい。通り過ぎる人がちらちらとシリアさんを見ている。

それは一般人だけでなく軍人もだった。隊を組んで街を横断する軍人は足並みそろえて規則正しく進んでいるけど、シリアさんと通り過ぎるときだけは視線を横にそらしていた。


「ユキ、あなたそんなに軍人に興味があるの」

「え、軍人というか、あーまあ、興味はあります」


一応本当のことだから頷いておく。街を闊歩する軍人なんて前の世界じゃ見たことがなかったし軍事国家カナルの片鱗といえる軍人には興味がある。弱肉強食の世界で強いのが一番という考えが普通というカナルで軍人として生きる彼ら。一体どれだけ強いんだろうか。


「……カナルは本当に強ければなんでもしていいっていう場所なんでしょうか」

「そうよ、強ければね。だからここでいう弱者は強者に守られて暮らすしかないのよ。ユキは一応武術を心得てはいるみたいだけれど気をつけなさい」

「はい」


素直に頷きながらシリアさんに顔を見られないよう少し俯いて歩く。気をつけなさいとわざわざ忠告する意味を考えると口元が緩んで仕方がない。


「まあ、あなたにはあの男どもがついているから大丈夫でしょうけど。ここよ」

「男どもってダラク達のことですか?あ、お邪魔します……そのまま上がっていいんですか?」

「いいわよ」


居酒屋のような宿屋に入ったシリアさんは店員らしき人に手をあげて挨拶をするとそのまま店の奥にある階段を上がる。私は予約もなにもしていないのにいいんだろうか。前の世界の感覚があるから後ろ髪ひかれるけどシリアさんはどんどん先に進んでいくから考えるのを諦めてそのまま部屋に入る。

部屋はベッドが二つと小さなテーブルと椅子があるだけのシンプルなもので、シリアさんは部屋に入るなりベッドに寝転がった。そして布団を居心地のいいようにセットしたあと寝転がったまま私に部屋へ入るよう促す。なんだかすごくセクシーだ。目を泳がせながら椅子に腰かければシリアさんはくすりと笑った。その笑い方はザートと似るものがあって恋人同士だというのが頷ける。


「それで?あいつらの誰と付き合っているのかしら」

「……?え、いえ付き合っていませんよ」

「あらあら、へえ」


楽しそうなシリアさんには悪いけれどこの旅は利害一致の旅だ。とてもじゃないが色恋には……。

そう思って一瞬浮かんだ笑顔に、思わず首を振る。


「ふふ、やっぱり楽しそうな面子ね……ユキ。私のことはシリアと呼んでちょうだい」

「え」

「それとも私はさん付けしなければならないぐらいの人かしら。そうねえ、私とユキじゃあ歳が離れているだろうしねえ」

「し、シリア!シリアって呼ばせてもらいます」

「敬語もやめてちょうだいね」

「は、はは」


歳の話をしたシリアさん──シリアはにっこり笑っていたとはいえぞっとする気配がした。ここは素直に従ったほうがいいと直感して慣れない呼び捨てをする。本当に慣れない。だけど不思議なことに困惑と同じぐらい嬉しい気持ちが沸いた。


「シリアはザートと付き合ってるんですね」


気恥ずかしさついでに私もシリアに色恋の話をふってみる。ちょっとだけ恥じらいながら肯定するシリアを期待したけど案の定そんなことはなかった。


「そうよ。腐れ縁って感じでね、一番楽よ」

「確かにすごく息が合ってる感じがする」

「すぐ言うこと聞くしね」

「はは……ふふ」


ザートとシリアの掛け合いを思い出して笑ったあとこんな話で笑う自分に笑ってしまったら、ニュアンスの違いに気がついたらしいシリアがじっと私を見てくる。


「なんだか変な感じがして。私、恋バナしてる」


前の世界でもほとんどしなかった恋バナをこの物騒なことが続くこのオルヴェンでしてる。人生なにが起きるかわからないもんだ。


「あら恋バナっていいじゃない。他人のなら尚更面白いわ。ユキももっと楽しまなきゃ……ねえこの町に伝わる恋バナ知ってる?」

「伝わる……?あ、それってもしかして”誰も知らない人”?」


この町で聞いたばかりの恋物語を思い出して聞けばどうやら当たりだったようだ。シリアは意外そうな顔をした。


「そうよ。てっきり知らないんだと思ったわ」

「シリアたちと会う前に見てた露店でおじさんが詠ってたの」

「何章?」

「何章?んー、それは分からないや。でも少年がどこかへ行って、少女が少年を想いながら塀から朝陽を眺めてるって歌だった。少女は誰にも少年の話をしないまま死んだって」

「終章ねえ。ちなみに最後は”あなたは笑った”だった?」

「そうだったよ」

「ユキはどう解釈してるの?」


オルヴェンの人は歌物語が好きなんだろうか。お店で歌ったり聞き入ったりする人も多かったし歌物語を知っているのが普通の反応だ。今度ちょっと調べてみよう。英雄伝があるって言ってたなあ。


「少年の笑った顔を思い出しながら少女は死んじゃったってことじゃないのかな」

「そういう解釈ねえ。全部聞いたらまた変わるもんかしら?」

「シリアはどうなの?」


聞いてみるとシリアは笑った。なんとなく少年のようだ。


「今度本を贈るわ。そのとき教えたげる」

「ずるい」

「ごめんなさいねー。……そうだ、暇だし行ってみる?その塀がある場所に」

「え?あるの!?行きたいっ!」

「それじゃ、行くわよ」


とするとこの歌物語は実話なんだろうか。それともただの作り話?聞いてみればそれも分からないという。ただ、英雄伝が作られた同時期にこの歌物語も作られたことだけは確からしい。


──町の中で一番高い場所に着いた。

視界が開けた場所で、町の周り、遠く離れた場所にある森や山がよく見える。空き地のような場所だった。視界の端に町を囲うような塀が見える。年月を重ねているのかところどころ崩れているようだ。


「なんだか静かな場所だね。歌物語に出てくるような場所だから人が集まるものかと思ってた」

「悲恋の歌物語だし縁起が悪いからシルヴァリアの人でさえあまり寄り付かないのよ」

「縁起が悪い?」

「立て続けにここで嫌なことが起きたらしいの。女が浚われたり自殺があったり殺し合いも起きたらしいわ」

「ここで」

「ほら、来なさいよ」


シリアは塀に腰掛けて私を手招く。けれど私は途中で見つけた夕暮れの美しさに目を奪われていてシリアが首を傾げるまで動けないでいた。沈んでいく太陽。シリアをオレンジに染める夕陽に背を向けてシリア同じように塀に腰掛けながら茜色の空に映る景色を呆然と眺める。

……話が本当ならここで少年と少女は朝陽を見ていた。きっと目の前にある山の間から朝陽が昇るんだろう。塀が崩れていなかったらどれだけの高さがあっただろうか。朝陽を見下ろせるぐらいだったら結構な高さだったはずだ。


「綺麗でしょ。皆は忌避するけれど私はここが好きなのよね」

「……うん、綺麗」


微笑むシリアに同じように笑いかける。シリアが満足そうに背伸びをするのを見ていたら歌物語を思い出した。



『──また逢いましょう あなたは笑う 約束なんていらない あなたは笑う 必要なら廻る あなたは笑った いつかと同じように塀に腰掛けて朝陽を見下ろす 廻る廻る日々 崩れた塀を背に朝陽を眺める 廻る廻る日々 岩の上には片割れ一つ 朝陽を見上げる 遠い遠い場所 少女は口を開かない なにも言わず なにも見ない 村人は花弁を空に飛ばす 浄化の色は女に落ちて姿を覆っていく どこから来たのか どこへ向かったのか あの少年は誰なんだ 土を手に泣く人々を見上げる少女は口を開かない なにも言わず なにも見ない あなたは笑った』



手にざらつく石の塀を撫でながら少女の気持ちを考えると切ない気持ちになる。少女は少年を待つことが出来ないと分かったから自分の片割れを置いていったんだろう。

あなたは笑った。

少女が少年の笑顔を思い出しているんじゃないか。そうシリアに答えたけれど本音は違う。私が思うに笑ったのは少年だ。それも微笑むんじゃなくて、少年は自嘲気味に嗤ったんだ。



「ほら、廻らなかった」



必要じゃなかった。



「どうしたの?ユキ」

「なんでもない」


笑って誤魔化す。私には恋物語は難しいようだ。

言葉を濁す私にちょうどいい人たちが映る。楽しそうに手を振るザートとその後ろに続くダラクたちだ。


「あら……終わったようね」

「あ、本当だ。……じゃあ、これからよろしくシリア」

「よろしく、ユキ」


ザートたちの顔を見れば話しがどうなったかは予想がついた。シリアと笑いながら塀から降りて皆のところへ移動する。






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