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廻り逢うそのときに  作者: 夕露
とある願い
32/50

32.誰も知らない人





「シリアさんとザートどこだろ?」

「おー」


シルヴァリアは小さな街ながらも凄く活気のある場所だった。人がごった返していていつか寄ったカルティルより多くの露天が並んでいる。隣を歩く晃は最初こそ人の活気や町が持つエネルギーに圧倒されていたけれど、いまじゃあ無邪気に辺りを見渡している。あまりのはしゃぎぶりにダラクとリオは私に晃を任せたと言って噴水近くの椅子で休憩。


「晃」

「すっげえー。なんだよあれ」

「晃」

「変なもん売ってんなー!」


でもこんなに楽しそうな晃を見てるとなんだか私まで楽しくなってきた。晃が足を止めた露天を一緒に覗き込んでみる。

ん?本当にこれなんだろう… …。

露店には珊瑚のような固い物体が並んでいた。これはインテリアだろうか。近くに海はなかったと思うんだけどなあ。お店の人がここぞとばかりに売り込んでくるけれど、すぐさまいらないと首を振る。この世界に来たばかりと比べれば大きな成長だ。

うんうんと一人頷いていたら指先に熱を感じる。


「あ、連絡入った!……”レィノア”」


すぐさま魔法を唱えれば聞こえてきたのは元気な声だ。


「はっやいねー!ユキ元気ー?」

「うん元気だよ。ザートは相変わらず元気そうだねー」

「もっちろんー。あ、いま何処に居る?」

「入り口の露天のところ。あ、近くに噴水ある」

「おっけ、じゃそこに居て。今から向かうから」

「はーい」


会話が終わって指輪も温度をなくす。口元に寄せていた手をおろすと興味津々で話を聞いていた晃は魔法が終わったのかと肩をおとした。やっぱり魔法って気になるよね。魔法が使えないって分かったときの晃、分かりやす過ぎるぐらい落ち込んでたし。

元気出してと肩を叩いたけれど晃はなんだと眉をひそめるだけだ。ああそうだ、皆に報告しないと。晃の手をひいてダラクとリオの所に向かう。


「ザートから連絡があってここで落ち合うことになった。それで、ザートたちが来るまで私ちょっとあそこの店見に行ってくるね」

「おー」

「まさかあの変なもん買うのか?」

「や、買わないけど気になって」


報告してすぐさっきの露店に戻ればついてきた晃が買い物センスを疑うように私を見た。晃は変なものが好きとはいえ買うのは実用的なものばかりに限るという性格だから、インテリアとか飾りとか、普段絶対に使わないものをなんとなく買ってしまう私を見るたびこの顔だ。旅をしているいまその想いは余計強いらしく、あれをどうするんだと目で聞いてくる。


「見るだけだから」


露店の前だっていうのに晃に言い訳すれば露店のおじさんと目が合う。にっこり笑うおじさんについ私の笑みはぎこちなくなってまだまだ成長過程だったなと思い知る。


「おう譲ちゃん!また来てくれたか!可愛いだろー。おら男、贈ってやれよ!」


豪快に笑う露天のおじさんは膝を片手で膝を叩きながら、太い手に拳ぐらいの珊瑚を差し出してくる。これはいらないな。でもよく見てみればペンダントタイプやピアスタイプもあって、なかなか可愛い。


「おじさん、これってなに?」

「知らないのか!”誰も知らない人”に出てくるスルヤだよ!?」

「”誰も知らない人”?」

「お譲ちゃん駄目だよもうちょっと恋物語に興味持たなきゃ… …。涙なくしては聞けない恋の結末!胸震える想い人へ贈る誰も聞くことができなかった愛の歌!誰へ贈ったか分からないまま伝説の”英雄伝”に連なる恋物語さ!」


熱く語るおじさんに通り過ぎていた人が止まって笑いながら、あるいは誰かと寄り添いながらスルヤと呼ばれた珊瑚を眺める。恋物語、か。


「名も無き物語 描かれなかった物語 されどそれは確かに存在した 激動の時代 血を欲し荒れた時代 心を壊された少女が心を無くした少年と出会った──」


おじさんは瞼を閉じて左手を胸に右手を広げて朗々と歌う。人が増えたから晃と一緒にしゃがめば、指先にスルヤが当たる。まるで石のようだけど持ってみると軽いから不思議。マリモみたいな形をしたスルヤのピアスは真っ白で可愛いかった。



「──また逢いましょう あなたは笑う 約束なんていらない あなたは笑う 必要なら廻る あなたは笑った いつかと同じように塀に腰掛けて朝陽を見下ろす 廻る廻る日々 崩れた塀を背に朝陽を眺める 廻る廻る日々 岩の上には片割れ一つ 朝陽を見上げる 遠い遠い場所 少女は口を開かない なにも言わず なにも見ない 村人は花弁を空に飛ばす 浄化の色は女に落ちて姿を覆っていく どこから来たのか どこへ向かったのか あの少年は誰なんだ 土を手に泣く人々を見上げる女は口を開かない なにも言わず なにも見ない あなたは笑った」



歌い終わったんだろう。おじさんが立ち上がってお辞儀をする。鳴り響く拍手の合間を縫ってスルヤを購入していくお客さん。


「この章が好きなんていいねえ!」

「私二章のほうが好きー。あ、これ頂戴」

「毎度!お譲ちゃんはどうだい?」

「これください」

「ありがとよっ!」


つい買ってしまう。晃の呆れた視線が痛いけど値段はお手ごろだったし可愛いし、いいじゃんか。


「お前耳に穴あけてねえのにどうすんだよ」

「あーこのままブスッと?……やめます。ピアッサーみたいなのあるかなー。まあ後々見つけるよ。それに、ちょっと考えがあるんだよね」


指輪に魔力を織り込めてコクトとして連絡手段に変えられるなら、 私だってなにか作れるんじゃないだろうか。このピアスを使って実験してみよう。恵みの雫は魔力を貯めたあとの使い道が治癒だけだからそれ以外のことができるように変えてみたいなあ。ただの魔力保管の器として使えたら私には必要がないけれど必要な人に渡せられるし、なかなか便利じゃないだろうか。ピアスを閉まって恵みの雫を取り出す。恵みの雫は淡い水色に光っていた。

これももう魔力がいっぱいだ。他の恵みの雫に魔力をいれないと。

まだうまく扱え切れていない時限爆弾みたいな魔力をこれ以上駄々漏れにするつもりはない。しっかり管理しないと。起こるかもしれないもしもの可能性を無くすために早く魔力を上手く扱えるようになるんだ。

恵みの雫にキスしてブレスレットの中に戻し──視線を感じた。晃は露天を見ている。辺りを見渡して見つけたのはダラク。そしてその後ろにいたザート。

ザートは目が合うと表情を一変してニヤッと笑った。



「おおっ!ダラクじゃん。元気だったか?」



離れていても聞こえるぐらい大きな声を耳元で叫ばれたダラクは心底嫌そうに眉間にシワを寄せる。私は晃を引っ張って、予感に口元を緩ませてしまう。

表情を変える前のザートの視線はなにを考えているか分からない危ない表情だった。なんだろう。なんだろう。ねえ、なにか隠してる?



「ザート久しぶり!」

「久しぶりユキ!」

「本当に人数が増えたわねえ。久しぶり、ユキ」

「シリアさん!お久しぶりです!」



ダラクが闇の者に似ていると警告しながらも、こうして連絡を取って会う。

なんで?

目的はなに?





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