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廻り逢うそのときに  作者: 夕露
■二章 欲しいもの
22/50

22.牽制

 



もう会えないはずだったのに晃はいま目の前にいて触ることが出来る。おかしいことばかりだ。頭がついていかないことばかりが起きるせいで、もうなにが正解で当たり前で出来ることなのか分からなくなっていく。

私がいなくなって四カ月が経っていたと言う晃。ここで過ごした時間との違いから常識なくして考えれば時間の流れが違うということなんだろう。ファンタジーだ。


「状況がよく分からないね。まずあっちで話さない?」


後ろから聞こえてきた言葉とともに強い力で引き剥がされる。見ればダラクが不機嫌そうに晃を見ていて、固い口調のリオも同じような表情だ。正直忘れていた。晃は晃でいま初めて二人を見たように驚いて、それから辺りを見渡す。 まるでココがどこだか分かっていないかのようだった。

なんでだろう。晃も私と同じようにあの男に言われて来たんじゃないの?異世界を目指して来たんじゃないんだろうか。

急に嬉しさが影をひそめていいようのない不安が募る。リオにひかれる手そのままに進みながら、戸惑う晃に従うように頷いてみせる。その顔が不安そうだったから思わず晃の手を繋げば握り返してくれた。

そういえば、昔もこんなことがあったな。

晃はどの場所でもどんな時でも変わらないんだ。そんな変わらないところを見て安心するのに、さっき抱いてしまった疑問のせいで同じぐらい不安が募る。

なにか間違えてしまったかのようなそんな不安が──どうしても拭えない。




「話、続けるね」

「……頼む」


パチパチと燃え上がる火が部屋を彩り温かさを運ぶ。そんな素敵な暖炉の前を陣取って私は晃にこれまでの経緯について話していた。晃は常識から外れた話にずっと眉を寄せっぱなしで、そんな頭が固いところも変わらないなと安心する。

晃はこの世界が前の世界とは違う異世界だということを知らなかった。

それに疑問は出るけれどまずは混乱する晃に事情を説明するのが先だと思った。それはダラクたちも了承してくれて、両方の世界を知っている私が代表して現状を話すことになっている。

ここが異世界だということ、魔法が存在していること、闇の者というものが存在しているということ、この世界には四つの大陸と国があること、いま私は道中で知り合ったダラクとリオと一緒に旅をしていること──とにかく話せるだけ話す。 そして一通り話し終わったあと、大きな溜め息が響く。勿論晃だ。


「つまりここは“俺らがいた世界”じゃなくて全く別の “ 違う世界”なんだな?」

「うん」


間髪を入れずに答えると、晃は渋々頷く。


「分かった……認めるけどよ、まだ分からねえ。お前はどうやってここに来たんだ?」

「え?ああそれは「待って」


突然の静止の声に振り返ると、にっこりと笑ったリオが腕を組みながら気のせいじゃなければ威圧的に言った。その隣にはダラクもいる。


「そこからは俺たちも会話に混ざらせてもらうよ?」

「だな」


二人とも有無を言わさない顔だ。どうしたものかと晃と顔を見合わせたあと、既に席に着いたダラクとリオの前の席に座る。なんともいえない空気だ。

ダラクはこの宿についてからほとんど話さずだたじっと晃を見ていて、その視線が決して歓迎しているものじゃないことはすぐに分かる。でもそれはリオも同じだし、晃もリオとダラクを信用しかねているのかずっと二人を睨んでいる。私としては生きた心地がしない。


「……まずはさっきユキが話した内容の補足をさせてもらうよ。知っておいたほうがいいことだからね。

この世界オルヴェンはラミア・カナル・ラザルニア・キルメリアの四大陸に分かれていて、それぞれに大陸の名を冠する王がいる。

ラミアは一番小さな大陸だけど経済にも軍事面にも優れた魔法国家。 他と比べて魔法を使える奴が多いってだけだけど魔法国家は伊達じゃなくて、他大陸と比べて一番安定した平和な国かな。

カナルは貧しいけれど力強いものたちが多く集まる軍事国家だ。王にさえ力が求められて力こそすべての国だね。

ラザルニアは貧富の差あれど情報や物に人、なににも事欠かない勢いのある貿易国家。欲しいものがあるなら誰もが一度はここを目指すよ。

この三ヵ国は協定も結んでいて通貨も統一されている。

例外のキルメリアは関わらないことをオススメするよ。カナルとは方向性が違う力がすべての国で、逆に言えばなにをしても許される国だ。表立って生きていけない者がもっとも多く暮らしている」


慣れたように話される内容を晃と一緒に真剣に聞く。一度ダラクから説明された話とほぼ一緒だ。これがこの世界オルヴェンの常識、ということで問題ないんだろう。安心すると同時に不安も覚える。


「ここ最近の動きといえば、キルメリアは相変わらず怪しい動きをしてるけどラミアが不穏な動きを見せたもんだから協定が崩れかけてるね。他国はラミアに対して不信感をあからさまに出してはいないけど、互いに腹の探り合いをしている状態。しかもこの頃は全ての国が軍事力に力を入れ始めたもんだから、一触即発の世界にまでなってる」


壊れようとしてる協定。しかももう外見上だけになっていて意味を成していない?一番環境に恵まれたラミアが見せた不穏な動きは、経済もしくは軍事力に恵まれていない国にとっては脅威を感じるものだたった?バランスを補うために全員が軍事力に力を入れ始める?

それが意味することは──


「お前はリオ、なんだよな?」


晃が思案気に俯かせていた顔を起こしてリオを探るように見る。リオはその顔を見て少し驚いたような顔をしたあと満足げに笑って答えた。


「ああ」

「リオはそれになにを言いたい。お前の説明は俺には危なっかしく聞こえる」

「危なっかしいというと?」

「国を作るのは人で、国がある場所の前提条件で土地があって、国をまわすのは金だと俺は思う。……あとは俺達が住んでいた世界ではあまりそうでもなかったが、この世界では自国を守るためにそれ相応の力を持っておかなければならないんだろう?だから軍事力も必要だろう。

つまり人・土地・経済力・軍事力があれば国は最低でも守られるんだと思う。だが人はともかく軍事力を経済で、経済を軍事力で補うことは出来はする。お前の説明によるとカナルは軍事国家だが貧しくて、ラザルニアは逆に経済は潤っているが軍事力に乏しい。そしてラミアは軍事力も経済も上だがその基盤となる魔法を使える者がいなくなればそれは反転するような状態で、キルメリアは危ない自由を掲げるうえに動向が怪しいとまできた。

ある程度とれていたバランスが一つの国の動向で一気に変わっていく世の中で、平和の維持だけじゃなくて獲りにいく可能性って低くはないんじゃないか」


外見上でも作られた協定でさえ崩れてしまったら、それこそ、本当に。

不穏な動きを見せたラミア?キルメリアはキルメリアで相変わらず怪しい? それが一般的な常識レベルだとしたら、それからなにが考えられるだろう。



「それとももう始まってんのか。戦争、とか」



──抱いていた予感を晃は言ってのけた。

パチパチと聞こえる暖炉の火だけが私達の光景に動きを与える。

『──まあ、つまり運が悪いというかなんというか、ユキはこの世 界の均衡が危ういときに来たってわけだな』

そう言っていたダラクの顔を思い出す。リオ。リオは──


「ああ、その通り」


目を細めて満足そうにニヤリと笑う。余裕を感じさせる笑みだった。そしてそれはなぜか晃を見たあと、自身の隣で表情を顔に表さないダラクに向けられた。

この話し合いはきっと私と晃のためだけのものじゃない。

 





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