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廻り逢うそのときに  作者: 夕露
■二章 欲しいもの
21/50

21.贈り物

 




青白い煌々とした光がいくつもの線となって流れ星のように空を焼きながら散らばっていく。吹雪く白い雪とあわさってとても綺麗だ。

この光景はきっと死ぬまで忘れないだろう。

そう確信させるほど圧巻の景色で、目が奪われるどころか呼吸さえ奪われる。強烈なのに幻想的で、目の前で起きていることなのに夢のような心地だ。

青白い光は連なる山脈のうちの一つの山から発生した。縮こまっていたものが耐えきれなくなって爆発してしまったかのような勢いで光が飛び出し、山を越えていったのだ。光が発生している場所を中心としてずうっと遠くへ。


行かなきゃ。


突然、心の底から思った。好奇心だけじゃない切迫した感情が私を急かす。震えだした足は私に何かを訴えているようだ。

自分でもわからない自分の感情に振り回される私は危ない危ないと思っていたけれど、いよいよ危ない。ここまでくると危ないだけじゃなくて痛い。

冷静にそう思うのに足はもう動いていた。

私の動きを見ていままで同じように驚いて言葉を失っていたダラクが私を呼ぶ。そしてわざわざ止めようとしたのか手を伸ばしてきたから払い落とした。

青白い光の出どころは、ここに着いてすぐに感じた妙な視線を送ってきた誰かがいただろう場所だった。そのすぐ横にあった洞窟から、薄くなってはきているけど光が出ている。



「あそこっ……!」



どう行けばいいかなんて分からなかったけど早くあそこへ行きたかった。心臓が激しく脈打って、早く早く早くと私の背中を押す。逆に引き留めるように頭はズキリと痛んだけど、それは無視して走り続けた。

だけど誰かに引っ張られて憚られてしまう。もどかしい思いに腹を立てながら振り返ると、そこには眉間にシワを寄せたリオがいた。


「あそこなんだね?」


そう言ってリオは私が目指していた場所を指差した。なにか嫌なことでも思い出しているのかその顔は暗い。

なんで分かったんだろう?たった一度、それも一瞬指をさしただけの場所なのに……。

浮かんだ疑問に一瞬思考が止まったけど、強い力で手を握られてはっとする。

どうでもいい。それより早くあの場所に行きたい。


「うん」

「よし。ダラク!お前も来いっ!!」


そう言うが早いかリオは私を片手に抱きながら文様を描き、呪を唱え始める。抱き込むようにして身体にまわされたリオの腕の力は痛いぐらいだった。ふいに数日前リオが言っていた“大切な子”を思い出して胸が締め付けられる。


「ユキ。気をつけなよ」

「あ……、うん」


今回は初めて転移したときのように徐々に身体は消えていかず、一瞬で目的の場所へと辿り着いた。遠めにも見えた洞窟がいまはもう目の前にある。


前とは違ってなんで今回は一瞬で来れたんだろう……?


ダラクも同じことを思っているんだろうか。訝しげにリオを探るように見ていた。だけどリオは洞窟から全く目を逸らさない。高さ七・八メートル幅四・五メートルぐらいと予想以上に大きい洞窟は、ついさっきまでここから光が出ていたのが信じられないぐらいに暗くなっていた。風が絶えず悲鳴のような音を立てながら洞窟の中へと飲み込まれていく。

私はリオに抱き締められたまま動かずにその様子を見ていた。目を離すことが出来なかった。ここに来る前に通った洞窟の中でも感じたデジャヴが何度も頭の中で蘇っては消えていく。なにか急かすようにノイズ流れる映像さえ頭をよぎって頭がパンクしそうになる。

この感じを私は知っている。



「あ」



変だな、私はこの場所を知ってる。

ありえない確信を持った瞬間、私を抱くリオの手に力がこもった。


「なにか来る」


一気に緊迫感が増してリオとダラクは微動だにせず洞窟を注視している。それが分かるのに──私の身体は動いてしまう。身体にまわされたリオの腕をほどいてダラクの静止の声も振り切って洞窟に行ってしまう。



行かなきゃ。



この前もこんなふうに気持ちが突き動かされて止まらなくなった。あれはいつだったけ?

──乾いた砂を踏む音があっちから聞こえてくる。

ああそうだ、夢だ。オルヴェンに来る前、元の世界で見た瓦礫の夢だ。

──音が大きくなってくる。誰かが、ナニカが近くまで来てるんだ。

恐ろしい異常な光景のなか死んでしまった女の人、泣いていた男の人。

──おかしいな。もうそろそろ見えてもおかしくないのに見えない。

おかしいな。……おかしい。私、なんで今まで忘れてたんだろう。なんで今までもっと気に留めなかったんだろう。

──暗い大きな口から影が伸びて足の形を作る。ナニカは誰かだった。誰かはすぐ近くに来ている。



だってあの人は

きっとこの人は



「……え?」

「あ……?」



疑問の声が重なる。頭の中に響いていただけかと思っていたら口にも出していたらしい。私の声と誰かの声。イカれてる私の頭は誰かの声を聞いておかしな答えを出した。

それほどまでに誰かの声は懐かしい人を強く思い出させたのだ。眉間にシワを寄せてダルそうに話す、気心知れた幼馴染。

先ほどとはうって変わって動かなくなった私の足。代わりにとばかりズキズキと痛みを訴えだした頭をおさえながら私は誰かが近づいてくるのを待った。

私はどうしてしまったんだろう。オルヴェンに来てからの私は自分のことながら頭が狂ってる。幻聴に幻覚にこの衝動。現実と想像の境界線がなくなってここにいるのかさえ分からなくなってくる。自分が今見ているものが確かなのかも分からない。

だけど、



「オカシイな。やっぱり晃だ」



暗い洞窟から抜け出した誰かは陽の光を浴びて晃になった。陽の光に目が眩んで俯いたあと「さっむ」と独り言を言う姿に悪態をつきたいのに声が出ない。


「……ユキ?」


晃は目を細めて、それから目を見開いた。どうやらコレは現実らしい。目の前にいるのは間違いなく晃だ。

だとしたらなんで晃はこの世界にいるんだろう。どうやって来たの?

聞きたいこととか言いたいことが混ざってごちゃごちゃになる。長い時間だった。

だけど晃が叫んだ。


「このやろ……っ!お前どこ行って!」


怒鳴るくせに表情は泣きそうな顔で、私の手を力強く握った手は震えていた。私はといえば確かな感触がする晃の手を見て、近くで叫ぶ晃の顔を見て、それからなぜか泣いてしまった。


「晃、晃……っ」


込み上げてくる嗚咽をこらえながら晃の名前を呼ぶ。色々な感情が頭の中でグルグルと回ってしまっているせいか涙が止まらなかった。


「泣くなら急にいなくなんじゃねえよっ!どれだけ心配したと思ってんだ!」


ごもっともだ。だけど会えたことが嬉しくて涙が止まらないのだ。決別してもう二度と会えないはずだったのにまた会えた──それは私に大きな安心と希望を抱かせる。



「お前こんなとこで四カ月も何してたんだよ……っ」



けれど不穏な現実は切っても切れないらしい。


「四カ月……?」


私がこの世界に来てせいぜい二カ月と少しだというのに、生じているこの誤差。

ああ、この世界は確かに異世界なんだ。

妙な実感をしながら以前見たときよりも少しやつれた晃を見上げる。


なぜだろう。

この世界に来る前に見たイチョウの葉を思い出した。





 

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