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廻り逢うそのときに  作者: 夕露
約束と秘めた言葉
16/50

16.新しい仲間

 




私はね?知らないものを知りたいから、見たいから、触れてみたいから旅をしたいんだ。

『お前、そういうとこ変わんないな』

五月蝿いなあ。いいでしょ別に。

……あれ?誰だったっかな。昔、私に同じこと言った人がいた。

『ユキは最後までそうだ。一人で全部しようとして、実際、してしまう』

悲しそうに言われた。

誰だったっけ?

『――』

ああ、声だけじゃなくていろんな物音が反響しているから誰の声か分からない。誰だったかな。……なんだろう、凄く落ちつかない。その人と話した記憶はあるのに思い出せなくて、この矛盾が余計に私を歯がゆくさせる。

『なあ、ユキ――』

声が反響する。足音や笑い声、物騒な音に叫び声、風の音燃える音――私を追いこむように細かく何度も何度も何度も反響していく。

『ユキ』

誰かが呼んでる。誰かが私の名前を呼んでる。誰だった。誰?


コレハダレノコエダッタ?


頭をかきむしりたいほど心が急いて頭がパンクしそうになる。

思い出せ思い出せ…… っ!

なにかが私を急がせる。なにかが私を不安にさせる。なにかが、なにかが足りない。なにかがおかしいんだ。

なに?なんだった?


『止めろユキ!来るなっっ!』


ドンッ、と殴られたような衝撃だった。

耳元というより全身に響いた声に――私はベッドから飛び起きた。



「――っ!」



あげてしまいそうになった悲鳴をかろうじて飲み込んで、そのまま辺りを見渡す。見慣れない部屋。だけどちゃんと覚えてる。ここはリオが貸してくれた部屋だ。

分かる……。大丈夫だ。

何度も自分に言い聞かせて、五月蠅く脈打つ心臓を沈めるためにも、ゆっくりと息を吐く。ゆっくり、ゆっくり呼吸をする。嫌な手汗かく手を胸元で握りしめて冷静になるよう努めた。

……また夢に出てきそうなほど悲痛な声だった。

聞いていられないほどの感情がのった声だったせいか、今までずっと反響していた声や音をブチリと断ち切っていった。音がありすぎて頭がおかしくなりそうだったことを思えば有り難いけれど、耳から離れない悲痛な叫びが残るのも嫌なものだ。

布団をとって、ベッドに腰掛ける。まだ朝は早くて少し空気が冷たい。

ドク、ドク、ドク。

静かな部屋で脈打つ心臓の音を聞きながら目を閉じ、混乱する私に、言い聞かせる。



「夢だった」



──これで、終わり。

もう大丈夫。

気分転換のためにも服を着替える。着る服は決まっていた。動きやすいズボンとティーシャツに、すっかりお気に入りになったショール。機能性抜群で簡単に着られるようになってから凄く好きなコーディネートだ。

鏡でおかしなところがないか確認しながら、今日の段取りを考える。というよりどううまく言おうか考える。

リオにこれからもダラクと旅をすることを話さなきゃいけないけど、どう切り出せば良いのか分からない。真正面から『一緒に旅をするのは止めな』と言ったリオに宣言するのはためらわれる。

しかもダラクと話した結果、ダラクもリオと同じように私とダラクが対峙することを懸念している始末。リオはいい顔をしないだろう。

『なんでお前がユキといる?ダラク=カーティクオ』

『名はリオ、だ。お前なら知っているだろう?“守人”のことを。俺はその一人だ』

二人が会ったときの険悪な雰囲気を思い出してげんなりしてしまう。

……そういえばリオはなんでダラクのことをあんなに知っていたんだろう。それに、なんで守人のことをダラクが知っているって思ったんだろう。守人っていうのはこの国の常識?だったら気にすることはない?でも、お前ならっていう言い方がひっかかる。わざわざダラクに自分が守人だってことを宣言したこともおかしい。

それに、だ。

リオはダラクのことだけじゃなくて私のこともなにか知ってる……?私とダラクが一緒にいたことに驚きを見せていたし、 私の名前にも反応していた。考えすぎだろうか。

ぐるぐる思考が渦巻いてまとまらない。

恨み、怒り、闇の者、異常な魔力、滅びた国、不穏な予測、目的、 ラミア、願い――禁忌。


あれ……おかしいな。


鏡に映る私は笑っていた。

胸に手を当てる姿は見覚えがある。なにかが楽しみでしょうがないって、子供の顔をしてる。

でも……だってしょうがない。こんなに先が読めないことは初めてなんだ。怖いけど、見えないなにかが楽しみでしょうがない。

これからなにかが起きる。なにかに出会える。そう思うだけで身体が震えるほど歓喜してしまう。大袈裟かもしれないけれど、ちゃんと生きている感じがする。



「これは……駄目だね。ちゃんと隠さなきゃ」



笑う顔を叩いて、平静に見えるようになるまで鏡の前で立ち尽くす。彼らが危険だということでも予想がつかなくて楽しみなんて思ってることがバレたら一緒に旅どころじゃない。


「さて、もうリオ起きてるかな?」


静かな廊下はまだ誰も居間にいないことを教えてくれる。まだ朝早い時間帯だから二人とも寝てるんだろうか。イメージ的に二人とも熟睡しなさそうだけど。一応居間を見渡してみたけれど誰もいない。確かリオの部屋はここの廊下を出て突き当たりのはずだ。

軋む廊下を出来るだけ音を鳴らさないように歩く。

不思議なもので、音を出さないように意識し出すと色んな音が聞こえてくる。私が出す呼吸音、かすかに軋む床、窓を叩く風の音、衣擦れの音、金属器の音、パチパチと暖炉に火をくべる音――ああ、また夢に戻ってきたみたいだ。

頭がぼうっとしているけれど私の意識がちゃんとあるあの感覚。

いまもほら、それほど長くない廊下でもいつまでも歩いているような感じにさせる。

夢。夢だと分かる夢。なのにリアルすぎて夢を疑ってしまう夢。不思議から怖い、怖いから気持ち悪さを覚えてしまう夢だ。

あの声、一体なんだったんだろうな。それに、誰の声なんだろう。

この世界に来る前からそうだったけど、変な夢を頻繁に見るようになったのはオルヴェンに来てからだ。なにか関係でもあるんだろうか。魔法があるこの世界なら、夢の内容からなにか分かったりこの不思議な現象の理由を説明できたりしそうだけどどうだろう。前の世界にもあったような夢占いぐらいのレベルかな。分からないけど、聞いてみる価値はあるかもしれない。……リオに聞いてみようかな?なんだかよく分からないけれど凄い魔導師みたいだし。

リオ?

ああそうだ。私、リオに報告しに来たんだった。

いつの間にかドアの前に立ち尽くしていたことに気がついて、少し悩んだけど、数回ノックして声をかけてみた。


「リオ?ユキです」


これでもし返事がなければ起きるまで居間にいようかと思っていたら、扉の向こうで動く音が聞こえた。どうやら起きていたらしい。扉が開けられる。


「おはよ。早いね」

「あはは、ごめんなさい」

「気にしないで。どうぞ」


早いと言いながらも身支度が整っていたリオは机に置いていたポットを手に取ると、空間からカップを取り出してお茶を煎れてくれた。有難く受け取って飲む。温かくて凄く美味しい……。喉を伝っていく温かみに心が和む。リオはこんなふうに人に安心を与えることが出来る人だなあ。

椅子に腰掛けて同じように紅茶を飲んでいたリオは目が合うと微笑む。今日は可愛いというよりも綺麗な女性……いやいや、よそう。


「それで、どうしたの?話したいことがあるんだよね」

「あー、うん」


話をふられたことに少しだけ落ち着かなくなる。でもそりゃ分かるよね。 躊躇ったけど、もう一度お茶を飲んで落ち着いてから、リオを見る。


「私、ダラクと旅を続けます」


なにか色々付け足すとか聞きたいこともあったけれど、これしか出てこなかった。マスタード色の瞳が静かに私を見る。そして伏せられた視線。ゆっくり味わうように紅茶を飲んでいる。静かな時間だった。


「そっか」

「……はい」

「俺の言ったこと、覚えてるよね」

「はい」

「変わらないんだね」

「はい」

「きっとユキとダラクは対峙するよ。……それでも?」


リオの中では確信があるみたいだった。なんでだろう。疑問はいっぱいある。でも、なんでもいいんだ。私はその理由も含めてこれから知っていけばいいんだから。

改めて気持ちを決めて、声を出さずに頷く。リオは私を見て少しだけ目を見開いた。なんで?リオの反応に内心動揺しながら、いつのまにか緩んでいた口元を戻す。


「それじゃあこれからよろしくだね。ユキ」

「え?」

「俺も今日から旅に参加させてもらうよ」

「え」


カップを机に置いたリオは、困惑する私に余裕を感じさせる笑みを見せる。 思いがけない発言だった。リオも一緒に旅に出る?それは――なんて面白そうなんだろう。昨日会ったばかりだけどこのまま離れるのは名残惜しかったし、これから一緒にいられるなら色々教えてもらえる。


「楽しみだね。とりあえずダラク置いて二人で行く?」


上機嫌なリオのなかで旅に行くことは決定事項みたいだ。ダラクに相談しなくていいんだろうか。ダラクがこのことを知ったら遠慮なく眉を寄せるはずだけど──



「――じゃあ行こうか」

「は?無理だ」

「はいはい」

「おい、ちょ、ユキ。こいつどこまでついて来るつもりだ?」

「どこまでも?」

「ね」

「はあ?本気かよ」



──案の定ダラクはひどく嫌そうな顔をしてすぐさま否定した。朝食を食べているときにも話しがあったのに冗談だと思っていたらしい。リオはリオで想定範囲内なのか、軽く受け流している。強いなあ。


「さー転移するよ」

「え、だ、駄目!絶対嫌だ!」

「てめえ!話聞け!」


この面子で誰よりも明るい声が落とした転移という言葉に一気に血の気がひく。

転移って昨日の、身体が消えていくあれでしょ!?

ぞっとして反対した瞬間、景色がぐんっと移動する。車の中から外を見ているみたいだった。私は動いていないのに通り過ぎていく景色。そして呆然としているあいだに、リオの家の前だったはずが昨日歩き回った路地裏のところに立っていた。これも、転移?こ、これは……。


「ユキが昨日嫌がってたからね、今回は魔力を多めに込めてなるべく早く移動できるようにしたんだよ」

「そ、それはつまり、魔力込めれば込めるほど早く移動できるってことでしょうか?」

「ん、まあそういうこと」

「ありがとう……」


私これから転移の方法を覚えよう。絶対に魔力をコントロール出来るようになって転移を使えるようになろう。それで色んなところに一瞬で行くんだ……!歩かなくていいとか……っ!


「……考えてることがモロ分かる奴だな」

「そうだね。まあ、気持ち悪くならなくてよかったよ」


呆れた声が二つ聞こえたけど無視だ。私は欲に忠実なの。

どうせだからそのあとずっと聞こえる言いあいも無視しておく。五分、十分、十五分……。


「だーもう!てめえ調子のってんじゃねえよ!ついてくんなっ」

「五月蝿いね。俺はユキと一緒にいるだけだよ。誰もお前になんかについて行ってねえよ」

「仲いいねえ……」

「「どこが!?」」


砕けた口調を聞くに二人とも随分打ち解けたようだ。地団駄踏むダラクに、ダラクをここまで言い負かすリオ。微笑ましい光景に思わず頬が緩む。やっぱり二人で会話させておいたのは間違いじゃなかったらしい。


「まあいいじゃん。それでさ、次どこに行くんだっけ?」

「お前なあー……まあいいけど。リガーザニアは……そういやユキってこの前服買ってたけど冬用のも買ったか?」

「え?買ったけど」


急になんだろう。思わず空を見上げてみてみるけれど、空は快晴で気温は十分なほどに暖かい。


「お前本当に馬鹿?ユキはこの世界に来たばっかだよね」


ぼんやりしていたらリオが心底呆れたようにダラクに茶々を入れる。ダラクはうっとうしそうに顔を歪めつつも罰が悪そうに口を尖らせた。私は声も出なかった。


「そういやそうだな。ユキ、言い忘れてたけどリガーザニアって雪国なんだ」

「雪国。え、え?いま春だよね?!」


ダラクの思いがけない言葉にのっかかって、驚く。胸騒ぎを隠して考えをリガーザニアに集中させた。


「まあな。でも魔の森を通って二ヶ月――いや、一ヶ月ぐらい歩けばころっと季節は変わる」

「二ヶ月」

「一ヶ月一ヶ月」


顔が青いだろう私の顔を見てダラクが適当なことを言ってくる。隣でリオは「大丈夫だよ。歩いてればいつか着くから」なんて身も蓋もないフォローをくれた。まったく嬉しくない。

旅は楽しい。だけどここには魔法がある代わりに自転車も車もない。歩き続けるしかない。さっきのダラクの言葉通りなら、魔の森なんていう妖しげな森の中を丸々二ヶ月歩き続けるんだ。朝から晩まで、ずっと。


……これからずっと筋肉痛だなあ。


これからのことを思うと少し泣けた。




 

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