グランドの真ん中に立って、息をたくさん吸って、そして叫びながら歌う。
遠く青い空の向こうに
霞む世界の街の隅で
僕は目を瞑り、大口開けて歌ったんだ
ねぇ、聞いてみてよ
僕の歌
音程なんか終始外れっぱなし
周りは皆、眉をひそめて僕を見る
騒音、雑音、そんなことはわかってるよ
下手くそなのは、自覚済みさ
でもね、僕にはこれしかないから
世界に潰され、死に生きるなんて
まっぴらごめんなんだ
遠く青い空の向こうに
広く膨大な時の中で
僕は声を枯らし、叫ぶように笑ったんだ
「―――・・なにこの歌」
僕は眉を潜め、窓の外を覗く。
春休みで学校に人が残ってるとは思わなかった、なんか変な人がグランドで叫んでいる。遠くてよく見えないが、髪が長いのと、制服のスカートを履いているところから女子だろう。
これで男子だったらびっくりだ。
ずっと、ずっと、声にならない声が、響き渡る。
もう潰れてしゃがれ気味だけど、奇妙なくらいよく通る声だった。
「誰だよ、まったく」
うるさいったらないよ、と僕が口を尖らすと、グランドの中心という遠くの場所で叫んでいた謎の変な人がこちらを向いた―――・・気がした。
よく見えない。
天気はいい、快晴で雲ひとつない。
太陽が暖かい風を運び、もう春だと前面に告げているようだ。
だけど、僕にはそれが少しだけ寂しかった。
さようなら、僕の記憶。
初めまして、僕の未来。
過去ではなく、記憶だ。
僕の過ごした青春の一ページとも呼べる高校一年間は、記憶でしか残らない。
過去なんかじゃない。
そして記憶は、写真なんかで残せない。
あの盛り上がった学校祭は。
あの悔しくて泣いた部活は。
あの悩んで苦しんだ時間は。
あの気を落としたテストたちは。
あの楽しかった友達とのやりとりは。
思い出してみなよ、ほら。
記憶に焼きついた一年間は、どうだった?
つまらなかった?
充実した?
笑った?
泣いた?
馬鹿やらかした?
どんちゃん騒いだ?
なんでもいい。
僕らのこの時間は一期一会だ。
どんなことがあったって、自分の時間を自分の財産にできるといい。
たった一度の、たった一部の、たった一瞬の時間なんだ。
「ははッ」
一生懸命叫んでいる誰かに、僕は諭された気がした。
〝青春〟なんて、馬鹿げた言葉でまとめる気は、さらさらないけれど。
僕は少し、
そんな馬鹿げた言葉に感化されてしまったのかもしれない。