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いつも

初投稿です。読んでくれたらうれしいです。

「ピコン」と、一通のメールが鳴った。

見なければよかったと思ったのは、見てからだった。

差出人を見ると陽葵。この名前を見るだけで、俺はもしかしたら、と思い開いてみた。

俺の勘は当たっていた。あの陽葵だった。

高校二年生の夏。いつも通りの帰りのホームルームが終わった。

「ねえねえ……」陽葵が話しかけてきた。

いつもより元気がない声をしていた。

いつもの雑談をするような明るい声じゃない。何か泣きそうな、震えていて、小さな声だった。

「どうした?気分悪いのか?」俺は陽葵の話を遮るかのように言った。

「ううん、なんでもない。今日は一人で帰るよ。」そう言いながら、俺の顔を見ずに外を見ていた。

俺は何も返事をしないまま、教室のドアから陽葵の顔を少し見たあと、そのまま帰った。

もっと陽葵の話を聞いてあげていれば……

次の日、いつものように陽葵と学校に行く集合場所で待っていた。時間になっても来ない。

「もう時間やばいし、行くか。」

学校に着いて教室で陽葵を探した。

陽葵の椅子の背もたれは、机にぴったりとくっついたままだった。

「今日、休むのか。せめて連絡くらいしろよ。」

「連絡くらいしろよ」なんて、呑気なことを考えていた自分を殺してやりたい。

その時、彼女の部屋からはもう、思い出の欠片ひとつ残らず運び出されていたというのに。

帰りのホームルームが終わった。

今日はそのまま帰った。

次の日、今日も陽葵は集合場所に来ない。

LINEは未読のまま。さすがに腹が立って電話をしてみた。

電話を耳に当てた。知らない女の声だった。

「おかけになった電話番号は現在使われておりません……」

嫌な予感がした。この時、俺は電話をブロックされていると思った。

この時にでも探していれば、結果は変わったのかもしれない。

何度もこの数日間を振り返った。

答えは出なかった。

朝のホームルームが終わった。

陽葵は今日もいない。

帰りのホームルームが終わった。

さすがに腹が立ったから、陽葵の家に行くことにした。

体調が悪いのなら、見舞いついでに文句も言ってやろうと思った。

「陽葵ちゃん……」

そう聞こえた。聞こえた先は職員室からだった。

俺は職員室のドアを消しゴム一つ分くらい開けて話を聞いた。

その内容は、とても信じられないものだった。

「陽葵ちゃん転校するんやって?あの子、向日葵みたいに明るくて面白くて、いい子だったのに。」

最初はふざけているのだろうと思った。

でも、職員室から聞こえてくるというのがつらかった。

俺は隠れて聞いていたのに、もうどうでもよくなって職員室のドアを思いっきり開けた。

先生が「航平」と名前だけ呼んだ。

「陽葵が転校したなんて嘘ですよね?僕、何も知らされていませんよ。おかしいでしょ。」

俺が泣きそうな顔で問い詰めると、

「残念だが、陽葵が転校したという事実は本当だ。お前と陽葵が仲良かったのも知っている。」

転校した理由を聞くと、

「家庭の事情だ。お前には言うなと厳しく言われている。」

それしか答えてくれなかった。

俺は嘘だろうと、陽葵の家まで無我夢中で走った。

ひどい顔だっただろう。

周りの目を気にせずに走った。

陽葵の家に着いた。チャイムを鳴らそうとして、指が止まった。

外にあった傘立てがない。珍しいピンクの植木鉢がない。

いつもは置いていない看板のようなものがあった。

そこには、「売物件」と書かれていた。

そこで俺は悟った。ああ、陽葵はもういないのだと。

そこから俺は引きこもるようになった。

陽葵が転校しているとわかっていたのなら、俺も泣いていただろうが、嫌な気はしなかっただろう。

「どうして、転校するくらい言ってくれないんだよ。」

月日がたった。同級生は大学に入るころなのだろう。

今の俺には、心底どうでもよかった。

あの日から、時間だけが無駄に過ぎていった。

その一通のメールには、

「机の中にある手紙を探してみて。」

とだけ書かれていた。

手が震えた。

陽葵は、まだどこかにいる。

今ならわかる。

俺は、陽葵のことが好きだったのだと。

なぜ今さらになって手紙のことを言ったのだろう。

そんな疑問が浮かびながら、手紙を開いた。

『航平くんへ

ごめんね。急にいなくなって。

本当は、ちゃんと最後に話したかった。

でも、あの日、どうしても言えなかった。

お父さんの仕事で、遠くに行かないといけなくて、

もう簡単には会えなくなるってわかってたのに。

最後の日、航平くんに会いに行こうって思ってた。

制服のまま、走って行こうって思ってた。

でもね、たぶん私、泣いちゃうから。

ちゃんと笑って「またね」って言える自信がなかった。

だから、逃げちゃった。

ごめんね。

もし、またどこかで会えたら、

その時は、ちゃんと声をかけてほしいな。

メール、もし見たら、

高校の前で待ち合わせしよ。

……ねえ、航平。

あのとき、一緒に帰ってたあの道のこと、

まだ覚えてる?』

手紙を読み終えたあと、

俺はすぐにスマホを手に取った。

いつ俺の机の中に手紙を入れたのか、そんなことはどうでもよかった。

震える指で、メールを開く。

「今から行く」

短く打って、送信した。

高校の前に着いた頃には、

空はすっかり暗くなっていた。

あの頃と何も変わらない校門。

俺は、ただ立って待った。

何時間も。

何度も、スマホを確認した。

でも——

返信は、来なかった。

ふと、あのメールの日付を思い出した。

それは、

数年前の日付だった。

その場に、力が抜けたように座り込む。

間に合っていたはずの時間は、

とっくに過ぎ去っていた。

「……遅すぎるだろ」

誰もいない夜の校門に、

俺の声だけが、静かに消えていった。

校門の掲示板に、紙が貼られているのが目に入った。

「○○高校 同窓会のお知らせ」

その下には、日時が書かれていた。

『〇月〇日 18:00〜』

思考が止まる。

その日付は——

数年前。

俺がこのメールを受け取った日と、同じだった。

あの日、

俺がここに来ていれば——

何かが変わっていたのかもしれない。

でも、

あいつが来なかった理由を、

俺は一生知ることはない。

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