表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣士は音を奏でる  作者: 超山熊
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/12

先輩


 2か月!?短すぎないか?僕はまだ自分の属性すらはっきりと分かっていないのに。

 たった2ヶ月で何ができるというんだ。

 心の中でそんな反抗する前に僕はさっきの反抗した白花さんを思い出し。


「よろしくお願いします!」


 そう言っていた。


 見習いにはまだ黒の軍服は配れない。という理由で仕立て直した白い軍服をそのまま着用し、とある場所に来ていた。

 卒業試験で受けた怪我が治りきっていないため、まだ本格的な訓練も実務も許可できない。

 そう言われた僕は正規軍基地内に付属された病院へと足を運んでいた。


 ガラスの自動扉が開き中へ入る。消毒液と様々な薬品が混じった匂いが香り、中には任務や訓練で怪我をした軍人が診療を待っていた。

 軍服とは違う白い看護服を着た病院職員が資料片手に歩き回る中を受付に向かって進んでいく。

 

「――すみません。柳院長はいらっしゃいますか?」

「柳院長ですか?お約束でしょうか?」

「いえ、治療をお願いしたくて……」


 そういうと怪訝な顔を浮かべる看護師の女性はコールをすることなく僕に問い質す。


「申し訳ありませんが院長はご多忙な方ですのでお約束無しにお会いできる方ではありません。何より最高峰の治療家に治療を頼むにはそれなりの金額が必要となります。失礼ですが、お引き取りください」


 これは女性の言い分が正しいな。

 僕だって知らない人が急に「ここの最高責任者に会わせてくれ」なんて言われたら同じように対応するだろう。

 僕が正規の軍人として有名であれば顔パスできたのかもしれないが、残念なことにまだ”見習い”それも正しく認められたわけでもないため”特選部隊”を名乗ることも出来ない。

 

 だから僕は正規軍(ここ)で最強の切り札を切ることにした。


「お願いします。僕は烏羽隊長の指示で柳院長に治療を頼むように言われているので……」


 烏羽隊長、その名前が出ただけで女性は慌てて上司に話を通しに行った。

 別に僕自身が特選部隊であると名乗ったわけじゃない。

 それに烏羽隊長からも「どうしても通れないなら俺の名前を出してもいい」と言われていたため問題無いだろう。


「大変失礼いたしました。柳院長に確認も取れましたので最上階へお進みください」


 先ほどの女性とは違う妙齢の女性が何かを手渡してくる。渡されたカードには来客用と表示されている。

 それを持ち一言謝り、その場を離れる。

 嘘をついていたわけでは無いとはいえ、騙すようなやり方になってしまったのは申し訳ない。

 

 僕は来客用のカードをエレベーターの読み取り機械に翳す。

 士官学校でも同じようなシステムを持つ施設はあったので使い方に迷うこともない。

 エレベーターに乗り込むと中に階指定のボタンは無く、僕が乗り扉が閉まると自然と動き出した。


 ――チン


 静かに止まったエレベーターはそんな機械音とともに扉を開く。

 無機質な空間から解放され外へ出ると、そこは――森だった。


 いや、森に見えただけで実際に大量の観葉植物で部屋の壁どころか部屋そのものが覆われた空間。

 エレベーターを降りると部屋の入口から綺麗なアーチを作るように植物が形を為している。

 本当に部屋の主はここにいるのだろうか?


 不安を感じアーチをくぐる。

 森の中は穏やかで静かだけれど微かに風が吹き木々が掠れる音もする。

 ゆっくりと歩いて行くと部屋の奥に開けた空間があった。そこではゴソゴソと何かを探す小さい影が「どこ行ったのですかー?どこなのですかー?」と幼い声で何かを探しているようだ。


「あの、何かお探しですか?」


 失礼が無いように話しかけると、急な声にびっくりしたのか。


「――ぴゃっ!」

 ゴンッ!

「――うぅ……痛いのです……」


 幼く小柄な少女は植物に囲まれた中、様々な植物が並べられている植物棚の下で頭を抱え悶えている。


「突然話しかけてすみません。院長の柳院長ですか?漆隊長からの指示で治療を受けに来ました。露草怜音です」


 未だ正しく顔の見えない相手に自己紹介をする。

 あなたに話しかけたのは敵ではないですよ。という意思表示も含めて。

 それぐらいのことはしなくてはいけないほどに、声と体格からは考えられないほどに油断ならない相手なのだ。

 

「さっきぶりなのです!初めましてなのです!この付属病院で院長をやっている柳若葉なのです!」


 植物棚からモゾモゾと後退し元気な笑顔で飛び出たのが、先ほども特選部隊室でお会いした部隊員の一人”柳若葉”その人であった。


「隊長さんから聞いているのですよ!何やら怪我だらけだから治してほしいということなのです?」


 その独特な語尾と正面に立っていても背伸びして白衣を被った少女にしか見えないが。

 彼女はれっきとした特選部隊の一人であり、この国最高の治療師なのである。聞きすぎてちょっと語尾移ったか?

 ”医師ではない”というのが重要なことであり、この付属病院には正規の医師が多く在籍している。


 それでも彼女が院長に座するのは、彼女の力によるものが大きく。そして医療機関という国でも重要になる場所を彼女一人で守護している。

 という二つの理由がある。

 

「先日の戦闘で受けた傷が癒えてなくて、このまま杜若さんのところへ行くのもどうかということになりまして……」

「良いのですよ!じゃあ、ちゃちゃっと治すのですよ!」


 そう言うと、幼い少女の顔が真剣な医療従事者の顔に変わり腰に差していた刀へ手を伸ばす。

 僕は治療しやすいように軽く衣服を脱ぎ背を向ける。

 

「癒しなさい――千草(ちぐさ)


 柳さんの愛刀”千草”。剣士にとって刀とは自分の力を載せるだけの器にすぎない。

 しかし特選部隊の隊員たちにはそれぞれ盟主より特別な刀が与えられ、潜在能力を常に100%で発揮させてくれる。

 

 柳さんが刀に手を添えるだけでふわりと柔らかい土の匂いが室内に広がる。

 静かな抜刀により土のような赤茶色と植物のような濃緑が混じった綺麗な刀身を持つ刀が姿を現す。


 柳さんの力は治癒能力、それもただ治癒するのではなく。

 周囲の植物から生命力を吸収し、対象に付与することで治癒する力。

 どんなに小さな雑草であれ、綺麗に咲く花畑であれ、彼女の力が発動すると同時に全てが枯れ果て人間を癒す。


 僕の身体に出来ていた刀の切り傷や雷の火傷跡はみるみるうちに塞がり元の肌に色を戻していく。

 その代償に室内で伸びていた植物たちは活気を無くし、葉の色は青々とした緑から茶色へと変わり端からボロボロと崩れていく。

 その植物に申し訳なく感じつつも、しばらく待っていると――チン。という納刀音が聞こえたため振り返る。


「これで治ったのですね!――うぅ。また花を咲かせないといけないのです……」


 僕の治療のせいで枯れてしまった花は何やら特別な花だったようで柳さんが悲しそうな表情を浮かべる。

 服を着直した僕は柳さんに謝る。


「――申し訳ありません。僕の治療のために貴重な花が枯れてしまったようですね。何か代わりにでもできることはありますか?”柳先輩”?」


 柳先輩は僕の言葉にピクッと反応するとゆっくり振り返ってくる。

 流石に先輩呼びは失礼だっただろうか?

 まだ正式に入隊したわけでも無いが、直接治療を受けられたため関りを持てたならと距離を縮めてみたのだけれど。


「――今、なんと呼んだのですか?」

「生意気であればすみません。特選部隊の先輩ということで柳先輩と呼ばせていただきました。正式入隊もまだの若造に呼ばれたくないということであれば正します――」

「そんな遜らなくてもいいのです!先輩!先輩なのですか!?……良いのです。良い響きなのです……」


 何やら一人でトリップし始めた柳先輩だったが、どうやら間違えていなかったようだ。

 しばらく空を見てトリップしていた柳先輩はゆるゆるの顔で僕を見る。


「お前は良いやつなのです!仕方ないから”若葉”と呼ぶことを許可するのですよ!」


 ふふん!と小さい体を精いっぱい仰け反らせていう先輩に僕はもう一度呼び直す。


「ありがとうございます。それでは若葉先輩と呼ばせていただきます」


 どこか可愛い少女に精いっぱいの礼をしながらそう言うと、より誇らしげな表情でふふん!と鼻を鳴らす。


「いいのですよ!後輩!いっぱい頼るといいのです!」

「よろしくお願いします」


 といいながら、強く可愛い先輩との一時を過ごした。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ