紅蓮の塔
連続投稿です!
統と別れると時間はすでに約束の時間に迫っていた。
正規軍基地の中を小走りで駆け抜ける。
なぜか軍の中でも重要な場所に近づいているにも関わらず周囲を歩く軍人の人数が減っていくことに若干の疑問を覚えながら約束の場所へ向かっていく。
時間に迫られながら急いで辿り着いた『紅蓮の塔』。
人気のない、どこか異世界に舞い込んでしまったかのような静けさに包まれるその場所で僕は立ちすくんでしまった。
本当に入っていいのか?
建物は余所者を寄せ付けないような不思議な空気感に包まれている。
それ以上に重要機関にも関わらず門番に軍人が見かけられない。侵入するならご自由にとばかりにその門は開かれていた。
ガラスの自動扉が僕を導き中へ誘う。
一歩一歩慎重に踏み出しながら入って行くと館内は電光も無くとても暗かった。窓から入る日光のみが館内を照らしている僕の正面には暗い中で佇む人影がいる。
よく見れば暗い中に受付のカウンターが備え付けられ、そこには独りの女性が立っている。
「――露草怜音様ですね?推薦状を拝見します」
白い軍服を纏った女性は凛とした静けさの中で鈴のような声を出す。
自己紹介をした覚えはないけれど……。
小さいがはっきりと聞き取れる声に驚きながらも荷物の中から推薦状を手渡す。
「少々お待ちください。……露草様がお見えになりました……はい……」
女性は推薦状を持ったまま真っすぐに僕を見つめて空に話し出した。
おそらく”風”属性の風を通した情報伝達通話なのだろうけれど、全くといっていいほど風を感じなかった。
僕が知っている限りでは”風”の情報伝達には主に突風を使って発し送り先には微風程度で届くはず、それなのに彼女は一切の動作を起こさず他者に感じられぬほどの微風で相手に届けているらしい。
なんて制御力……受け取るほうも大概だが、ただの受付にいる女性がここまで高度な技を使えるなんて。
「――確認しました。ご案内いたします」
しばらく通話をしていた女性はそう言って振り返り歩き出した。
置いていかれないように女性の後ろを歩いて行く。受付カウンターの横には暗闇の中に隠された通路があり足元だけ照らす小さな明かりが奥まで続いている。
「あの、どこに行くんですか?」
烏羽隊長から渡された地図に書いてあったのは『紅蓮の塔』までだった。
そこから先はどこへ行くのか指示されていなかったため、今どこに向かっているのか分からない。
女性は振り返ることも無くただ「着いてきてください」とだけ言い歩き続ける。
暗い廊下の中、資料保管庫や武器保管庫といったプレートの掲げられた部屋を通り過ぎ進む。
暗い廊下を歩いた先、突き当たりと思われる場所に到着する。
"思われる"というのは突き当たりのはずでありそれ以上廊下は続いていなかったから、そう表現するしか無いのだ。
僕と受付の女性が辿り着いた先は――暗闇。
紅蓮の塔へ入ってからここまでも十分に暗かったが、それ以上に明かり1つ無くまるでこちらを吸い込むように渦巻く闇がそこにあった。
「到着しました。ここからはお一人で進んでください。道は、その推薦状が示しますので。それでは私はここで失礼します」
「え、ちょっと……」
説明はそれだけですか?
ここから先ってどうやって進んでいけばいいのでしょうか?
そんな疑問と目の前の暗闇に驚く僕を放って受付の女性は入り口まで戻ってしまった。
まさかこの中に入れとでも言うのだろうか。
あの女性が嘘をついていて進もうとしたら「嘘でしたー!え、本当に進もうとしたんですか?」なんてふざけたこと言わないよな?
流石にそんなキャラでもなかったし、そんなこと言われたら人間を信じられなくなりそうだ。
確かに受付の女性は「ここより先」と言っていた。
もしや暗闇の後ろに廊下が繋がっているのか?と考えて端から端まで確認してみるが、どうもそうではないようだ。
どうやって先に進んだらいいのだろうか。
悩んでいると離れ際に返された推薦状が眩く輝く。眩しさに目を細めしばらくしてから目を開くと廊下を全て照らすような明かりは一本の筋となり暗闇の先を示す。
「推薦状が示す」まさかこれが女性の言っていたことなのだろうか。
進むべきか引き返して受付の女性に詳しく聞くか迷っていると、早くしろとばかりに推薦状が強く点灯を繰り返す。
その強引さに負けた僕は一か八か暗闇に足を延ばした。
「――どこに繋がっているんだろう」
暗闇の中は声も反響せず、ただひたすらに先が見えない。
足元はちゃんとあるようで足を踏み出せば固い地面がある感覚はある。
どこに向かっているのか。本当に道は正しいのか。不安な気持ちが足に現れたのか躓いてしまう。
「――うわっ!……危なかった」
足が絡まるようにして躓いたが転ぶ寸前で体制を立て直した僕が再度歩き出すために前を向くと。
「え、いつから……」
さっきまでと同じ暗闇のはずなのに、手を伸ばした先には一つの扉が立っていた。
光の筋は扉の向こう側ではなく、明らかに扉のドアノブを指している。
何かの条件で現れるようになっていたのか、何も分からないが。一刻も早く暗闇から出たかった僕はすぐにドアノブへ手を伸ばし、扉を開く。
扉の先から光が零れるように僕を照らす、光に目を慣らしながら中を覗くとそこは純白の大理石の床に赤いカーペットのひかれた廊下だった。
足元から見ていたが廊下の両壁には何やらいくつかの額縁が飾られている。
綺麗に一枚ずつ横並びになっている額縁には人の肖像画が描かれている。
そこに描かれている人物は全て教科書に載っている人物だった。
「初代特選部隊隊長……紅上雌黄……」
一番手前にあった額縁の下にはそう書かれていた。
そこから隣には2代目がそして3代目と歴代特選部隊隊長が並んでいる。
壮観な歴代隊長の並びに品定めされるようにカーペットの上を歩き前へ進む。
最後の額縁に飾られていたのは会ったことのある、あの人の肖像画だった。
「特選部隊九代目隊長、烏羽漆……肖像画なのに睨まれてる気がするのは気のせいかな?」
他の隊長たちが笑っていたり真面目な顔をしていたりする中、唯一硬い表情でこちらを睨むように見える漆隊長に苦笑する。
廊下の先には両開きの荘厳な扉が待ち構えている。扉の上には『特別選抜遊撃部隊部隊室』と書かれた木版があり、ここが僕の目指していた場所であることを示す。
ゆっくりと扉をノックすると中から「――入れ」と返事があったため挨拶をしてから入室する。
「失礼します!」
中に入ると事務所のように整理された机に黒い軍服を着た5人の軍人が座り、入り口近くには僕と同じように白の軍服を着た美しい銀髪の少女が立っていた。
僕が立ち尽くしていると最も奥の机に席を構え、肖像画そっくりの固い表情でこちらを睨むように見る烏羽漆さんが言葉を発した。
「時間ちょうどだ……。これより、露草怜音、白花氷詩。両名の特選部隊入隊に関する最終面接を行う」




