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剣士は音を奏でる  作者: 超山熊
第一章

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5/12

親友

お待たせいたしました!


「す、推薦!?どこからですか!?」

「一旦、落ち着け。お前を推薦したのは烏羽隊長だ」


 烏羽隊長といえば、卒業試験で異常な殺気を放っていた……。

 あの人が僕を自分の部隊に推薦した?


「え、でも烏羽隊長の部隊って……」

「知っての通り『特選部隊』だな。まさか、お前が特選に入るとは思わなかったが……。確かに"あの力"を生かすのならば特選以外に無いだろう」


 『特選部隊』、それは正規軍の中から選ばれる個人の部隊ではない。

 特選というのは略称でしかなく正式名称は『特別選抜遊撃部隊』といい。紅上之国における正式等級の1〜8等級に縛られない、一種の超人たちが選出される部隊。

 1等級の軍人でさえ手も足も出ないほどの実力者しか入隊を認められないところ。

 そんなところに僕が入隊!?


 教官は何やら頷きながら正式な推薦状ともう一通、地図のようなものを僕へ手渡す。


「烏羽隊長からの伝言だ。『明日朝9時に指定の場所へ来い。』指定された場所への地図は受け取っている。ほら、遅れるなよ」


 地図の紙には士官学校と少し離れた場所にある正規軍施設の建物が記されていた。

 教官は一言「頑張れよ」と残し、その場を去った。


 翌日、怪我の痛みも軽く引いた僕はまだ体中の包帯が取れない中で鞄に詰め込んだ荷物とともに正規軍の本拠地に来ていた。

 一応、動いても良いというのは士官学校の養護教諭から言ってもらったがなるべく無理はしないようにという注意喚起つきである。

 

 正規軍の本拠地の中へ入ることは初めてでその広さに驚嘆を隠せない。

 訓練学校にいる教官たちも何人かは現役で活躍する軍人のため教官に連れられ何度か敷地の外から眺めることはあったが。

 それでも敷地内へ入ると一層身が引き締まる気がする。


「それにしても広いな。確か士官学校と比べても5倍以上の広さはあるんだっけ……」


 広大な基地は約2万人の所属する『正規軍』と強者の集まる独立部隊『個人部隊』の両方が基地を構える。

 もちろん正規軍の方が本拠地としての広さは圧倒的ではあるが、個々の戦闘に特化した専門施設の数なら個人部隊の基地が勝る。


 僕が指定されたのは正規軍でも個人部隊の基地でもない。

 さらに、その奥にあり一際目を引く高い建物。僕らの紅上之国で最も高くセキュリティの高い建物『紅蓮の塔』。

 そこには紅上之国の盟主や軍の中でも最高級の幹部たちが揃う。

 出入りできる者も限られ、それ以外の者は受付から先に進むことも出来ない場所。

 

 正規軍基地を歩きながら様々な施設に興味をそそられていると、そんな僕に声をかける人がいた。


「あれ!?怜音?怜音だよね!」


 どうして正規軍基地に僕のことを呼ぶ、それも長年連れ添った友人のように呼ぶ人がいるのだろうか。

 そんな疑問とともに声をかけられた方角へ目を向けると馬を6頭ほど連れた、毛先の緑がかった髪色が特徴的な青年。翡翠(ひすい)(すばる)がいた。


「……統?こんなところで何やってるんだ?」


 統とは士官学校で約2年の間、切磋琢磨した仲。さらに言えば僕と同時入学の生徒で僕と同じ"属性無し"の生徒だった。

 同時期に同じような境遇だったことから仲良くなった数少ない友人。


「見ての通りだよ。明日から遠征する部隊がいるから馬を正規軍に連れてってるんだ」


 統とは士官学校で2年の月日を共にしたが……ある日、統は学校を辞めた。

 理由は……過度なイジメ。

 始まったのは入学して間も無くだったらしい。物を無くされたり、訓練で過度な暴力を受けたり、僕と話すときは何も言わなかったが裏では耐えきれないほどのものを受けていた。


 辞めるときに言われたのは「ごめん。……これ以上は、無理だ」だった。

 統が学校を辞めてからイジメの対象は僕に変わったが、耐えられたのは生きる目標があったのと……統の無念を果たすためだったのも大きい。


 統は学校を辞めてからすぐ、軍の使う馬を世話する馬丁に職し元気にやっていると手紙が来た。

 まさかこんなところで会えるとは思っていなかったけれど。


「怜音こそ……ここにいるってことは――」

「そうなんだよ。ようやく――」

「上官に失礼でもして退学か……」

「そんなわけないだろ!」

「あはは!ごめん、ごめん。それで、まさか本当に?」

「……うん、入隊が決まった」


 本部基地の敷地内に学生がいることなんてほとんどありえない。

 それこそ統が言った通り、前代未聞レベルの問題を起こしでもしないと呼ばれないだろう。

 

 軍人になる目標持つ僕がそんなことするわけも無いのに……久しぶりの悪ふざけも今となっては心地いい。

 僕らは笑い合い、しばらく無かった友との時間を楽しむ。


「――そうか。おめでとう」


 統は先ほどの悪ふざけが嘘だったかのように真剣な目でそういうと、今度は突然走り出し僕を抱きしめた。

 突然の衝撃に驚きながら急に突進してきたことを咎めようとしたが、抱きしめられた腕から伝わる震えと啜り泣く声に口が塞がる。


「本当に頑張ったんだなぁ……。おめでとう、本当におめでとう!」


 短くも濃密だった統との思い出が頭をよぎる。

 お互い属性が無いことで何度も辛い思いをした。

 キツい訓練も2人だから乗り越えられた。

 きっと統がいなければ、統との思い出が無ければ、僕は9年も耐えられなかっただろう。

 

 久しぶりに感じた優しさの温もり、緊張していた心を解すような親友の気持ちはとても嬉しかった。

 何度も何度も辛く苦しい瞬間はあった。でも統の想いに応えられて本当に良かった。

 

「……うん。ありがとう、統のおかげで頑張れたよ」


 しばらく流れる涙に別れを告げて僕たちは離れる。


「何言ってんだ!怜音の力だろ?……何より、これからが大変なんだぞ。もっと頑張れよ!」


 離れ際に背中を叩かれ、そういう統に僕は一言「分かってるさ」と言う。


「卒業試験はどんな感じで勝ったんだ?教えてくれよ!」

「……それがさ。試験では負けたんだ。相手が黄金くんって子でさ――」


 それから僕は統に卒業試験でのことを語った。

 どうやら正規軍基地でも士官学校にいる藤黄家の次男坊について噂は流れていたらしく、そんな相手と引き分けに近い試合をしたことに統は驚いていた。


「え、じゃあ烏羽隊長に推薦されたの!?……でも、そうか。そんな力、どの部隊で育てれば良いんだって話だからな」

「そうなんだよ。烏羽隊長って、やっぱり怖いのかな」


 卒業試験で感じたあの圧迫感、周囲を威圧し黙らせることができるほどの実力。

 個人部隊の部隊長たちですら恐れる存在が軍人たちの中でどういった扱いなのか正直気になっていた。


「うーん。烏羽隊長って特選の中で一番”分からない人”かな」

「分からないってどういうこと?」

「そのままの意味だよ。実力も人柄も仕事内容もほとんど公開情報が無いんだよ。特に特選部隊の隊長になってからは軍人としての戦闘記録が無かった気がするんだよな」


 統は本部基地で働く中で様々な将官と話すらしいが、その中に特選部隊そのものの話はあっても隊長の話が出ることは無いのだという。

 確かに士官学校で過去にあった戦争について大部分は習うが烏羽隊長が出てくるのは一度のみであった。


「不思議が不思議を呼んで、もう謎の人物ってイメージの方が強いかな」

「そうなんだ。……って、そろそろ時間だ!また話そう、統!」

「うん!”また”会おう!」


 「もう一度会う」その約束が軍人として生きる者、そして戦場においてどれだけ難しいことなのか。

 このときの僕はまだ知らなかった。


 それでも僕は”また”という一言に加えた意味をなぞりながら呟いた。

 

「必ず生き残るさ」


 僕の目標のためにも、無二の親友のためにも。


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