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剣士は音を奏でる  作者: 超山熊


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3/4

対するは"雷"

盛り上がってまいりました!


 卒業試験はいたって淡々と進んでいった。

 訓練所に組み手となるペアが1組ずつ呼ばれ、教官の合図とともに部隊長たちの前で試合をする。

 組み手はランダムとなるが、学校側としても貴重な戦力を悪戯に消費するわけにいかず。


 基本は高学年と低学年で組むようになっており、力量差が離れているため試合は数手で決まっていく。


「勝者――藤原!」

 

 今終わった試合で11組目、次の試合で今年の卒業試験は終わりとなる。

 そして最後の試合が。


「最後!露草怜音と藤黄黄金、前へ!」


 訓練所の対角に立っていた僕たちは教官に呼ばれて中へ入る。

 深呼吸をして脳に新鮮な空気を取り込む。

 妙なほど静かな黄金くんの表情は、まるで嵐の前の静けさのようで不安を募らせる。


「お互い怪我に気をつけて。死ぬような攻撃はさけるように。それでは、位置について」

「「――はい」」


 教官は少し離れて僕らは10メートルほどの距離を空けて向かい合う。

 刀は抜かない。

 いつでも抜刀できるように構え、合図を待つ。


 試験における勝敗は、相手が負けたことを宣言するか、審判を務める教官が相手の失神や怪我で試合続行不可能と判断することにより決まる。


 怪我に気をつける?

 死ぬような攻撃はしない?

 そんなことで目の前の相手(黄金くん)が止まると思うな。


「――始め!」


 教官の声と同時に――黄金くんは消えた。


「「「――何!?」」」


 周囲で観戦していた訓練生も、部隊長ですら何人か驚く。

 藤黄家直伝そして"雷"最大の武器である「自己加速」。


 雷の電気を刀だけでなく、自分の身体に流すことで神経に走る電気信号をコントロールする。

 本来の人間に許された運動能力上限を解放し、認識出来ないほどの速度で動き続ける。


 周りが驚いたのは制御の難しい「自己加速」を使った黄金くんへの反応が半分、そしてもう半分は――。


「……てめぇ」

「そんな簡単にやられるわけにはいかない!」


 背後に回って背中を斬りつけようとした黄金くんの刃は、僕の刀によって防がれていた。


 最初から抜刀術に走らず受けに回って良かった。

 そうでなければ今の速度の攻撃を止められなかった。


 黄金くんが背後に回るのは彼の性格から読んだ予想でしかなかった。

 僕を一瞬で敗退させるのは簡単だろう。

 でも、それは彼自身の誇りが許さない。

 だから怪我を負わせながらも試合の継続ができる背後を取る、だろうと。


「嘗めるんじゃねぇよ!俺の技はこんなもんじゃねぇ!」


 嘗めてはいないさ……。

 僕はきっと今ここにいる誰よりも君の強さを知っている。


 これまで何度苦渋を舐めさせられたか。

 これまで何度苦痛を味わったか。

 何度卑怯な手を食らい。

 どれだけ君のことを考えたか。


 落ちこぼれだと嘗めるなよ。

 今君の前にいる僕は、君自身よりも君のことを知っている。


 弱さと向き合い続けて、非力さを認め続けた僕は――今日、強さを知る。




「――おい、どれだけ続くんだよ。この試合……」


 何度受け止めただろうか。

 何度斬られただろうか。

 全てに反応できるわけじゃない。

 全てが読めるわけじゃない。

 受け止めなければならない、致命傷になりかねない攻撃と。フェイントや斬られても大した怪我にならない攻撃を見分ける。


 切り結ぶうちに彼の刀に込められた雷が僕の刀を伝うことで腕が痺れてきている。


 それでも再度受け止め、斬られ、思考し、刀を構える。


「……はぁ……はぁ……はぁ」


 どれだけ時間が経っているのか。

 自分では分からない。

 分かるのは、まだ自分が刀を握り立っているということ。

 そして黄金くんの眼に宿る熱が引いていないということ。


 状況を見れば、結果としての勝敗は一目瞭然。

 無傷で雷を纏い走り続ける黄金くんと。

 攻撃は出来ず呼吸は乱れ、切り傷が1秒ごとに増えていく僕と。


 教官が止めないのは、僕が倒れていないからだ。

 僕が膝をつけば勝敗は決したと見做されてしまう。

 倒れることは絶対にできない。


「……何を狙ってやがる。落ちこぼレオンのくせに!」


 そうだ。その通りだ。

 僕は何も持たない"落ちこぼれ"で、君は才能溢れる剣士で。


 だから諦めるのか?

 だから膝をつくのか?

 そんなもの――クソ喰らえだ。


「…………チン」


 刀は震え、構えと共に音を出す。

 痺れていた身体は集中したからか、いつの間にか治り。

 何を感じたのか、黄金くんは電光を走らせながら僕の様子を見ている。


「……ふぅぅぅ……」


 思い出すのは、昨日訓練後に振り続けた剣の記憶。


 何ができるかは分からない。

 それでも、ここから"勝つ"には何かを変える必要があった。

 その瞬間、握る刀が教えてくれたのは昨日の『音』。


 大きく息を吸ったあと、吸った息を静かにされど力強く身体に馴染ませていく。

 腕にも足にも力は入る。あとは――刀を信じるだけだ。


「……何してんのか知らねぇが、もう立ってんのもキツいだろうよ。もう、楽にしてやらぁ!」

「……もう少し、楽しもうよ。何か、掴めそうなんだから」

「――!?」


 黄金くんの「自己加速」を加えた刀は、僕の刀と鍔迫り合いになると同時に電光を消し、それに続いて黄金くんの纏っていた電流も消えた。


「てめぇ!何しやがった!」

「分からないよ……でも、これで対等だ!」


 純粋な剣技なら……9年間の間、研鑽を積んだ自信が僕にはある!

 属性の絡まない勝負なら、負けない!


「――なんだ!あれは!?――彼は属性攻撃が使えないはずでは!?」


 部隊長の1人が立ち上がり、試合をする2人を見て呆然とする教官に詰め寄る。


「分かりません……でも、あれは――」


 周囲で観戦する人たちの注目度が上がり、卒業試験を受けなかった生徒たちも集まる中で、2人の戦いは激しさを増す。


 黄金は藤黄家直伝の"雷"を再度纏い速度で圧倒しようと仕掛ける。

 しかし刀を合わせるたびに纏ったはずの雷は消失し、速度を失ったことで生まれた隙に怜音の剣戟が襲う。


 属性を使えなかったことで9年間もの間、丁寧に確実に積んできた怜音の剣技は部隊長たちも唸るほどであった。


 幾度も重なる刀と刀。

 走る電光と不思議な力で雷を"消す"、拮抗した試合。

 すでに教官は試合を止める瞬間を逃し、この試合の行き着く先が見えなくなっていた。

 

 ――そのときは突然やってきた。


「「……はぁ……はぁ……はぁ……」」


 戦いに集中する2人が突然距離を空けて離れる。


 もう、分かっているのだ。

 2人とも、限界が近いことを。


 試合開始直後から藤黄家直伝で制御の難しい「自己加速」を制御しながら動き続け、今は怜音に雷を消されることで何度も雷の発動を繰り返している黄金。

 彼は機械がオンオフを繰り返すことで電力を消費するように体力が大きく消耗し、限界が近かった。


 片や、黄金の高速機動へついていくために高い集中力をキープし続け、細かい切傷から来る痛みと雷を纏った刀を受けることで流れた電流による痺れが体力を奪い、剣劇で圧倒出来るとはいえせでに長期戦と化した戦いに限界の近い怜音。


 性格も戦い方も違う2人は距離を取り、刀を握り直しながら、全く同じことを考えていた。


「「(……次の一太刀が最後になる)」」


 試合開始前には考えられなかった展開。

 2人はずっと構えていた刀を、お互いが最後の壱合に向けて構えを変える。


 黄金は刀をまるで一本の避雷針のように天へ掲げ。


 怜音は鞘へ刀をしまい抜刀術のように身体ごと伏せる。


「……まさか、こいつまで使うとは思わなかったぜ……」

「……何が来ようと、一切をねじ伏せてみせる」


 2人の呼吸が響くほどに訓練所は静まり返る。


 合図は、誰かの息を飲む音だった。


「来い!雷龍!我が敵を滅ぼせ!」


 属性攻撃の中でも高位の攻撃に必要な"詠唱"。

 本来なら「自己加速」も詠唱の必要な技にも関わらず、それを詠唱無しで使える黄金でも詠唱が必要な技。

 

 天に積乱雲を作り出し、高電圧の雷を纏めて対象へ落とす切り札。


「やめ――」


 教官は試合を止めようとするが、圧を感じて止まる。

 その圧は誰から感じたものなのだろうか。

 目の前で、まさに今、龍を模した雷が落とされようとしている怜音は――静かにそのときを待っていた。


 その静寂は、まるでオーケストラの指揮が振られる前の一瞬の静寂。

 誰もが、その一瞬の静寂に息を呑み、これから始まるオーケストラに期待する、そんな静寂。


 怜音はそんな周囲に関心はなく、その心は己の刀と――目の前の敵が放った攻撃にのみ向けられる。


「――消えろ」


 その言葉とともに放たれた怜音の抜刀は、耳の中で響き渡るような高音を発しながら迫る雷龍を捉える。


 そして、天より落ちた龍は地に落ちる前に――消えた。

 

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