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剣士は音を奏でる  作者: 超山熊


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2/4

死神

少し短めですが



 夢中で剣を振っていた翌日、僕はいつもより少しだけ多く寝ていた。

 昨晩は卒業試験の心配で眠れないかと思っていたが剣を振り続けていたことで体力が底をつき気絶するように眠りについた。

 悪夢も見ることは無く、憑き物が落ちたようにすっきりした朝を迎える。


「身体は動く。荷物も整理した。愛刀も磨いた。さあ、あとは戦うだけだ!」


 軽くジャンプしていつも通りの順番でストレッチしながら身体を解していく。

 荷物は綺麗に揃えられ試験が終わったら、どんな結果であろうと僕はここを出ていくことになる。

 正規の軍人になれば所属部隊の寮に入ることとなり、不合格なら士官学校を出て一般人として生活することになる。

 

 腰につけた愛刀は軍人であった父の遺産。

 戦争が終わった後に遺品として見つかった一本の刀はこれまで僕の手で振るわれることもなく、ただ静かに刃を残していた。

 昨晩は久しぶりに刀を鞘から抜き、今日のため丁寧に磨いた愛刀。

 その刀は僕の覚悟に頷くようにして「――チン」と静かな音を奏でる。


 最後、部屋を出る前に実家の焼け跡から見つかった数少ない家族写真に向けて手を合わせる。


「母さん、父さん行ってきます」


 父さんのように誇らしい軍人を目指せてるか分からないけれど。

 母さんが願ったように誰かを守れる強さがあるか分からないけれど。

 戦ってくるよ。二人が見守ってくれていると信じて。


 写真の前に置いてあった首飾りをお守りのように握りしめ首にかける。

 僕が抜けた部屋には開いた窓から暖かい風が流れていた。


 訓練所に向かうとすでに何人かの訓練生が緊張した面持ちで待機していた。

 きっと彼らは入学して1・2年目の生徒で卒業試験を受けるのが初めてなのだろう。

 君たちはきっと大丈夫だよ。緊張しなくていい。

 なんたって僕は初めての卒業試験でもあり最後の卒業試験でもあるから。


「おい、落ちこぼレオン。ようやく覚悟はできたんだなぁ?」


 他と少し異なる緊張感で待機する僕に話しかけてきたのはなぜか僕を目の敵のようにするご存じ黄金くんである。


「何もせずに退学することは僕にはできない。今日は君に勝つつもりで戦うよ」

「――てめぇ。俺に勝つつもりでいるのか?無理に決まってんだろうがぁ!俺は藤黄家でお前は一般市民、才能も潜在能力も人間としての格が違ぇんだよ!」

 

 確かにその通りだ。

 成績としても彼は5等級で軍人なら准士官級、対して僕は8等級で士官学生級。

 現在の力でもかけ離れており、彼の家は代々”雷”の属性における最上級の格を持つ家として君臨し続けている。


「それでも、負けるわけにはいかない。僕の夢と目標のためにも諦められない!」


 僕は覚悟を決めてここに来た。

 ここで僕の命が、夢が、目標が叶わなくても。

 諦めた先にいる僕の方がきっと後悔が大きいだろうから。


 強く覚悟の籠った視線で貫く僕に黄金くんは顔を真っ赤にして俯く。

 強張った身体、血管の浮かび上がった腕は腰に差した刀へむかう。


(まさか、卒業試験前に始める気!?)


 ルール違反だが怪我をするわけにもいかず僕も刀へ手を伸ばす。

 張りつめられた緊張の糸が――斬られる。


「――そこ!何をしている!整列しなさい!」


 いつの間にか僕と黄金くんの周りには取り囲むようにして訓練生たちが並び、まるで一種の催し物のようになっていた。

 僕達は気づかなかったが囲まれてから時間が経っていたようで、かなりの数の生徒が集まり卒業試験のための教官が声を上げる。


 黄金くんは悔しそうに刀から手を離し僕をひと睨みして列へ戻る。


 卒業試験受験生は今年の人数は総勢20名ほど、例年も同じような人数だった気がするが。

 それにしては教官の表情が優れない。


「それでは本日卒業試験にお越しいただいた部隊長の方々に入場してもらう。……くれぐれも、失礼のないように」


 卒業試験で戦うことは試験に合格つまり相手に勝利すること以上に意味を持つ。

 それは実際に自分の実力を戦場で生きる部隊長たちに見てもらうことで”推薦”卒業という未来を勝ち取ることも出来るのだ。


 確か”推薦”卒業は過去に数度しか例がないはずだが、”勝利”したあとも部隊長から声がかかれば入隊が認められる。

 軍人には、強者の集まる”個人部隊”と所属無しの”正規軍”があり個人部隊に入隊するというのは大変な名誉なのである。


「部隊長!入場!」


 教官の一声で訓練所に各部隊長が入場してくる。

 個人で武勇を誇り部隊としても数々の武勲を上げ続けている部隊長たちが訓練所に設置された椅子に座っていく。

 純白の軍服に将官としての階級章を肩に示し、軍属の中で認められている者のみつけられる勲章を胸につける部隊長たちは登場だけで僕らに圧を与える。

 なぜか一様に緊張した様子の部隊長たち、まるで後ろから死神に鎌を突き付けられているかのように冷や汗を流しているように見える。


「――あれ?今日は一人多くないか?」


 部隊長に用意された椅子は全部で23脚。個人部隊の数は確か22だったはず、もう一つは教官用なのか?

 不思議に思う訓練生は周囲の訓練生と「間違えてるのかな?」なんて目くばせをする。


 しかしそんな疑問はすぐに正されることになった。

 広い訓練所を支配する殺意に似た圧迫感。まるで自分が今、死地にいるような緊張感。

 現れたのは――黒い死神。


「ほ、本日は部隊長に加え”特選部隊隊長”の烏羽(からすば)(うるし)殿にお越しいただいた。皆、良き試合を期待する」


 部隊長たちも、教官ですら緊張する。そんな相手。


 唯一漆黒の軍服に身を包み、腰には見ているだけで飲み込まれそうなほどの圧を放つ黒い刀を携え、何もかも見通されているような黒い瞳で僕らを見つめる死神。

 さっきまでの緊張感とは全く違う。少しでも動けば、少しでも目の前の存在に抗おうとすれば、即座に自分の命は無くなるだろうと確信させるほどの圧。

 訓練生に耐えられる圧じゃない。


 身体の震えが止まらない。

 この場にこれ以上いたくない。

 そんな考えが僕の頭を支配する。

 

 そのとき「――チン」と愛刀が音を鳴らした。


 まるで、大丈夫だ安心しろ自分がついてる、と。ゆっくり呼吸をするんだ、と。

 僕を導くかのような音は緊張によって早くなっていた鼓動を、過呼吸になり始めていた呼吸を、ゆっくりと穏やかなものに戻していく。


「(……ありがとう。もう、大丈夫)」

 

 小さく告げると刀は元の静かな状態に戻る。

 前を向くと座っているはずの死神と、目が合ったような気がした。


「それでは、第200回”卒業試験”を始める!」

 

 死神の見つめる中、僕にとって最初で最後の”卒業試験”が始まった。


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