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剣士は音を奏でる  作者: 超山熊
第一章

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12/12

強くなるしかないから


 似ている、榴から話を聞いてそう感じた。

 僕と蒼くんの違いは1つ、復讐心からくる怒りをどこへ向けたのかなのだろう。

 僕は母さんの想いもあって、自分自身が弱かったせいで守れなかったのだと怒り。

 蒼くんは、自分や親を守るためにいるはずの軍人がそうしなかったという組織に対して怒りを向けた。


 これはどちらが正しいわけでもないのだろう。

 きっと僕も母さんの遺してくれた言葉が無ければ「どうして助けてくれなかったんだ」と嘆いていたに違いない。

 

 だが、それなら彼はどうして自分が強くなろうと決めたのだろうか。

 

「榴は蒼くんがあそこまで強くなった理由を知ってる?」

「うーん……知らないな。蒼って見たまま無口だから自分のこと教えてくれないんだよね。(あおい)は知ってる?」


 榴は蒼くんと訓練以外であまり喋ることはないらしく、先ほどまで他の子の相手をしていた僕を打ち負かした少年の碧に問いかける。


「んー?なに?蒼兄ちゃんのこと?僕もあまり話したことないけど……でも瑠璃ねえとは良く話しているよね」

「杜若さんも軍人だけど仲は良いんだね。そういえば、みんなは士官学校に通わないの?」


 この孤児院で修行を始めて数日、みんなの様子を見てきた。

 だから言えるが、きっとここの子供たちは士官学校に入学して最速卒業も目指せるほどに強い。きっと現場に出て最前線で戦う軍人にも並ぶほど強い。

 蒼くんのように軍人になりたくない理由があるなら分かる気もするが。


「私たちは瑠璃ねぇとシスターが決めたから10歳までは入学できないんだよね」

「それに僕たちは入学して3年間は座学に集中するように言われてるしね」


 軍でも戦場に出られる年齢制限を設けているが、これだけ強い子供たちが士官学校で変に力を誇示することがないように成長してからの入学と実技を受けさせず座学のみに集中させることを優先させている。

 それはきっとシスターと杜若さんが決めた制限なんだろう。


「でも蒼は12歳なのに入学するって話無いんだよね」

 

 やっぱりか。蒼くんは軍人を目指すつもりが無いのだろう。

 ならば、尚更どうして彼は強くなろうと修行を続けているのか。

 

 きっとここまで強くなるために幾度も辛く苦しい瞬間があっただろう。それをどんな気持ちで乗り越えたのか想像もできない。

 そんな強さをもった彼だからこそ、きっと僕が強くなるための鍵になってくれると思っていた。

 

 だから僕は翌日からしつこいぐらいに蒼くんへ話しかけた。


「蒼くん、今日は僕と打ち合いしない?」

「蒼くんはどうやって属性攻撃を身につけたの?」

「蒼くんは――」

「蒼くんも――」


 何度話しかけても無視されるか。シスターの前でのみ軽く返されるかだけ。

 榴と碧に「そろそろ諦めたら?」と言われたり、周囲の子供たちからも「お兄さんまた無視されてるー」と笑われたり。

 それでも僕はやめなかった。


 しばらくの間付きまとうようにして傍にいると、ふとしたタイミングで蒼くんがこちらを向いた。


「もう、付きまとわないでよ。聞いてるだろ?ボクは軍人が嫌いなんだ」


 こちらを視る紺色の瞳は、まるで煮えたぎるような怒りの気持ちを宿しながら。どこか寂しいような何かを抱え込んでいるような静けさを含んでいた。

 

「聞いてるよ。でも――」

「じゃあ何で辞めないんだよ!」


 これまで口数少なく他の子供達もシスター含めて誰かと会話しているところをあまり見たことが無かった彼の激昂に僕の口を閉ざした。


「あんたみたいに弱いやつが軍人を名乗ってるせいで守れるものも守れないんだろ!強いやつだって偉い人を守ってばっかりで辺境の村には来られないじゃないか!そんなんだから……僕の母さんと父さんは……」


 その気持ち、良く分かるよ。とは簡単には言えなかった。

 僕の地元も紅上之国では辺境にあたる。そんな辺境の村や小さな都市にいる軍人は出世道から外れたような等級にすれば5等級以下の軍人ばかり。

 彼らは正規軍に所属するものの基本任務は都市の門番や衛兵のような仕事。


 時おり出現する犯罪者や他国の侵攻作戦には明確に実力を持った軍人や部隊が”派遣”される形になる。

 『派遣』は、犯罪者が出たり他国が侵攻してきた場合には現場に実力を持った軍人や部隊が到着するまで”時間を要する”ということである。


 僕やおそらく蒼くんの住んでいた場所にも敵が現れたとき、きっと正規軍の部隊にも連絡は入っていた。

 しかし正規軍で部隊を派遣するために連絡を受け取った人物が軍に話を通し、軍上層部が派遣許可を出すまでに時間がかかり過ぎていた。

 現場にいた僕の父さんを含め等級の低い軍人では何人いようと時間稼ぎにしかならず、結果として最速で部隊が到着するまでの間に多くの国民がこの世を去ることになってしまったのだ。


 蒼くんは冷たく諦めを含む声音でこう言った。

 

「……分かったか。ボクはあんたみたいに弱い軍人も嫌いで指示がないと動けないような軍人も嫌いなんだ。……自分の命は自分で守る。もう軍になんて頼らない」


 蒼くんは、そう言い残して訓練へ向かう。

 その背中は寂しそうで悔しそうで……でも、ちゃんと前を向いて歩いていた。僕はそんな彼の背中へ自分の覚悟を声に出した。


「――守るよ」

「……なにを――!」

「これまで失ったものは取り戻せないけど、これから失うかもしれないものは僕が守る。この刀にそう誓って生きてきた。これまで身につけた経験も、これから学ぶ後悔や挫折も全部を力にして――僕は全てを守る剣士になる」


 誰かを守れる強さを手に入れる。誰かの大切なものを守れる軍人になる。

 全てを守れるようになれば、きっと僕の目標を叶えられる力も手に入る。


「そのためには、これからも強くなり続けるしかないから。軍人が嫌いでも僕が嫌いでもいい。僕はただ今、君に勝ちたいんだ」


 僕の言葉に何かを感じてくれたのか。蒼くんは考えるように俯くとしばらくして歩きながら背中でこう言った。

 

「……訓練は本気でしかやらない。あんたが属性を身に着けたとき、試合してやるよ」


 その言葉だけで今は良かった。

 これまでの訓練で相手をしてくれなかった孤児院最強の剣士と戦うことができるなら、あとはその準備をするだけだ。



 

 ……まあ、その準備が一番大変なんだけど。

 属性って本当に、どうやったら発現するんだろう。

 

「怜音兄ちゃんは、何をイメージして剣を振ってるの?」


 属性攻撃について蒼くんはもう何も答えてくれないため榴と碧に相談すると、そう聞かれた。


 どうやら普通は属性攻撃をするのに具体的に行使する力のイメージが大切だという。

 確かに黄金くんの攻撃を打ち消したときは「敵までの道を塞いでいる邪魔なものを”消し去る”」と考えていた。

 それに杜若さんとの試合で見せた超加速、あれも心の中で「自分の最速を見せる」ために動いた結果。


 今までの訓練が、これまでの経験が僕に告げていた。


「もしかして、怜音兄ちゃんの属性って”無い”んじゃない?」


 属性無し、この国でいう”無属性”ではないか?

 僕の疑念へ応えるようにして幼い2人がそう口にした。

 子供の自由な発想だから気づいた真理。そんなことあるはずがないだろうと自分自身で勝手に決めつけていた僕へ突き付けられた真実。

 

「属性が無いなんて――」


 そんな人間いるのか?そう言おうとしたとき僕の頭を1人の顔が過った。

 特選部隊隊長の烏羽漆、今や上司となったあの冷徹隊長も”無属性”である。


 一般的に属性というのは三大属性と希少三属性に分けられているが、そこに区分することができない属性を”無属性”として評価している。

 どうしてそんなものが存在するのかは未だに分からず、何より”無属性”の剣士というのも歴代の軍人でただ1人しか存在しない。

 そのため”無属性”が生まれる研究についてはもちろん育成方針なども決まっていないのだ。


 その唯一の存在というのが烏羽隊長なのだが。


「あの人は例外だからな……」


 最強の属性とされている”闇”の属性を持つとされ出自やこれまでの記録はほとんど無い。

 どうやって強くなったのか、士官学校でどんな生活を送っていたのかも分からない。

 

 なぜなら、烏羽隊長は入学してすぐに現役軍人だった当時の教官を含む同級生全員を病院送りにすることで特選入りを果たしている。

 もし、自分が彼と同じような”無属性”だったとして、そんな超問題児かつ天才と同じように成長しようなんて馬鹿げた話。


「……自分は自分として考えよ」


 僕はそう口にしながら自分の剣の道を探るのだった。


 

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