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剣士は音を奏でる  作者: 超山熊
第一章

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強さの理由


 孤児院の外へ出ると家畜の牧場を柵で囲い、その外側では子供たちが小さな木剣を持って打ち合いをしている。幾人かの子供は打ち合いに参加せず柵の中で牛の世話をしたり畑で作物の収穫に勤しんでいるが。

 

 打ち合いをしている子供たちは年齢順だろうか、それぞれで2人組となり向き合って剣を交わしている。

 その子供たちを傍から見るようにして椅子で座る白髪の男性が”弦さん”だろうか?


「あ?お前誰だ?邪魔すんならさっさと消えろ」

 

 弦さんからまるで杜若さんと同じような言葉の圧を感じる。

 

「弦さん!その人が瑠璃ねえの言ってた人だよー!」


 見たことない部外者の僕に警戒するように睨む弦さんへ訓練していた子供から声がかかる。

 

「自己紹介が遅れました。露草怜音です。属性攻撃について教わりに来たのですが……」

「そうかよ。それで、お前属性は何だ?」

「――分からないんです。もしかしたら雷かな、とは思っていますが」


 卒業試験で雷を持つ黄金くんに善戦できたこと、そして杜若さんの試合で気を失っている間に見せたという”超加速”の正体。

 それらから自分は雷の属性を持っているのではないか?と考えていた。

 雷の属性であれば特選部隊へ推薦された”優れた属性”を持っているということも理解できる。


「分からねぇだ?――そういうことか。じゃあ、そこら辺の奴と打ち合ってみろ」

「え、あの僕はまだ属性が使いこなせなくて……」

「知らねぇよ。俺は痛みを伴わねぇものは訓練にならねぇと考える人間だ。弱いなら痛みを負う覚悟もしておけ。その痛みから何も学ばねぇなら弱いままってだけだ」


 弦さんは近くにいた子供たちの中で小さい子を手招きで呼ぶと僕に木剣を渡す。


「決めごとは作らねぇ好きなように戦え。ここにいるガキどもは、そんじゃそこらの軍人より強ぇぞ」


 弦さんは椅子の上で腕組をして静かにそのときを待っている。

 周囲で打ち込みをしていた子供たちが静かになったかと思えば全員が僕と相手の子供を囲んでいた。

 

 木剣を手に持ち少し振ってみる。

 愛刀より軽く、しかし”気”を纏っていても当たれば痛いぐらいには硬さがある。

 相手は訓練をしていると言っても幼い子供それに普段打ち合いをしているのも周りの子供達なのだろう。

 対して僕は曲がりなりにも9年間士官学校で訓練され、見習いとはいえ特選部隊に推薦されている軍人。


 軍人より強いという言葉も、子供たちに自信をつけさせるための激励だろう。

 最初は打ち合いを避けて、なるべく受けに回るか……。


「――行くよ?」

 

 そう呟いた正面の子供は、全く力の入っていない構えから一息で距離を詰めてくる。

 これは……『縮地』!?

 杜若さんが出来ていたのは特選部隊なら当然かと思っていたが、まさか子供たち全員が出来るのか!?


 距離を詰められ、そこまで迫る木剣に僕は全力で合わせに行く。


「なんて強さだ!」


 距離を詰める技術にも驚いたが、それ以上に驚いたのは剣の”重さ”。

 体重が乗っているだけではない。”気”を練る精度が士官学校の生徒より高い。

 身体に巡る”気”を練る。ふわふわと柔らかいものでも圧力を増し練りに練れば固くなるように。

 身体をただ巡る”気”を太い縄のように練り上げ身体に纏わせることで重厚な鎧よりも固く重いものとなる。


 士官学校の生徒なら多少の緩みが出たり発揮できても身体能力を多少向上させる程度だった。

 属性攻撃を使えなかった僕は”気”を練る精度を重点的に修行したが、この子の精度はもしかしたら僕以上かもしれない。


 まるで子供と打ち合っているとは思えない轟音が打ち合った木剣から響き、僕は力任せに強引に弾く。


 今の一合で分かった。

 気を引き締めたほうがいい。

 目の前にいるのは子供じゃなく、訓練を積んだ歴戦の軍人であると考えろ。

 

「ようやく分かったか?さっきも言ったがガキだからと侮るな」


 息を吐いて一瞬で汗ばんだ手に刀を握り直していた僕へ弦さんは忠告するように言う。

 その通りだ。気を抜いたら負けるとかではない。集中力を極限まで上げないと、普通に負けるぞ。

 何より相手はまだ”属性”すら使っていない。


 そこから時間にして数分だっただろうか、”気”を纏っただけの勝負となったが勝負の決着はつかなかった。

 ”気”を練る技術はもちろん試合における戦術や身長差を生かした低い姿勢からの攻撃に惑わされる僕だったが。

 長年の訓練で会得している正統派の剣術はもちろん多様な流派を使う攻撃で互角の勝負に持ち込んでいた。


(……このままでは勝敗がつかない)

 

 冷静に相手を見ながら木剣を腰に下げて姿勢を低くする。

 縮地を使うのであれば正面に構えていても捉えきれない、ならいっそ一撃にかけた方が良い。

 ”気”を練り”属性”攻撃をするため身体へ練った気を巡らせる。


 自身最速の剣技である抜刀に杜若さんを驚かせたという加速を乗せる。

 そのためにイメージするのは”雷”の『自己加速』。

 身体の筋肉1つ1つ、筋繊維の1本にまで電流を流し、人間に捉えきれる速度を上回る。

 

 僕と同じことを思ったのか正面の相手はすでに攻撃準備を完了させていた。

 木剣に風を纏わせ周囲には嵐を想像させるような暴風が起こり草原を巻き上げている。


 ――合図はなかった。


「「――っし!」」

 

 口から零れるような鋭い呼吸のあと、僕は相手の風へ飛び込むようにして間合いを詰める。

 風が吹き荒れる中、僕は”属性”を使うことが――できなかった。


 風に飲まれ動きを封じられた僕に何ができるわけでも無く、荒れ狂う暴風の中で呼吸すらままならず。

 次第に体の自由が利かなくなっていったところで風圧の塊を胴に叩き込まれたことで僕は草原の上で転がっていた。

 

「――負けました」

「……”気”の練りは問題無し。剣技も士官学校で鍛えられたんだろう十分な領域にいる。だが、素直すぎる”剣”と使えない”属性”のせいで剣士としてはまだまだってところか」

 

 子供たちは勝った子を祝福するように集まり、その端で倒れていた僕に弦さんはそう言った。

 ゆっくりと上体を起こし、風に当てられ傷のついた木剣を眺める。


 剣技は磨いてきた自信がある。士官学校でも他の生徒達が属性攻撃を磨いていた時間も僕は剣技だけを磨いてきたから。

 でも当然上には上がいる。それに型はあっても実戦による駆け引きが僕には無い。


「お前がどんな学生生活だったのかは瑠璃に聞いたが、それを弱さの理由にするなら軍人なんて辞めちまえ。どうせ戦場で日和る。戦えない軍人ほど戦場で邪魔な存在はねぇ」


 弦さんは何か思いつめるように僕へそう告げた。

 僕はその言葉を飲み込み覚悟するように深呼吸を1つ挟む。

 

「……辞めません。僕には僕の目指す目標がある。そのためなら、どんなことでもしてみせる」


 原点である母さんを殺した奴への復讐。それを叶え、母さんと父さんに誇れる自分であり続けるために。

 僕は戦うと決めたのだ。


「そうか。ならお前の修行は1つ。ここにいるガキども全員に”勝て”」

「――はい」


 こうして僕にとって本当の”修行”が始まった。


 孤児院での生活はそこまで困窮したものではなかった。

 そもそも教会の管理を受けている孤児院では大抵の生活必需品が教会より支給されているのだ。

 紅上之国で陽光聖教と呼ばれる最大の宗教団体が運営する孤児院は、教会が派遣する”シスター”もしくは司教が運営している。


 最初に挨拶していただいたシスターも陽光聖教に派遣された方で毎日早朝に子供たちとお祈りをしている。

 その時間に僕は洗濯や食事の準備を粗方済ませ、お祈りを済ませたシスターや子供たちと一緒に朝食を食べる。

 弦さんは近くに住んでいるらしく朝食が済んで外に出たタイミングで現れる。


 もし時間が合わなくて弦さんがいてもいなくても子供達はそれぞれで木剣を倉庫から取り打ち合うので彼の役割は見守ることだけなのかもしれない。

 数日の間、何人かと打ち合いながら感じたことは、全員の練度が高いこと。

 もしかしたら初日に戦った子は一番強い子だったのでは?なんて考えることもあったが。


 見るに小さい子供達も木剣で遊びながら上の子を見習って技を盗んでいた。

 上の子たちは自分の技が他の子どもたちに当たらないように気を付けながら小さい子が危険な技を試さないように周りを見ている。

 あれで周辺視野が鍛えられているのだろう。


 周辺視野を鍛えれば試合でも剣だけを、見るのではなく相手の身体全体を見ることで動きを予測しやすくする。

 小さい頃は徹底して技を盗み、成長とともに実戦的なものを取り入れる。

 その流れで軍人にも負けないような剣士が生まれているのだ。


「――はぁっ!!」

「――しっ!」

「……甘い!」


 練度の高い子供たちの中で一際目立つ動きをしている”3人”。

 一番大きい声を張り上げながら炎の属性を纏わせた剣で戦う少女。彼女は確か僕が孤児院にやってきたとき、最初に”下僕”と呼んだ子。

 戦い方はまさに”パワータイプ”、威力で押し切りパワーで圧倒する型。あんなに属性攻撃を派手に使っても、まるで消耗している様子が無い。どれだけ内包する”気”が多いのだろう。


 次は細かい”呼気”を挟みながら剣と身体に纏わせた風の属性で相手の攻撃をいなすように戦う少年。彼は僕が戦った少年だが本来パワーよりではなく技術(テクニック)で戦うタイプのようだ。

 剣を振るときに息を吐くことで鋭さを増したり、歩法や剣を持つ位置など細かい調整をしながら相手の技を見極めている。

 縮地などの難易度の高い技も平然と使っているあたり天才と言えるだろう。


 最後の少年は孤児院最年長の少年。他二人も周囲の子供たちに比べれば圧倒的な強さを誇っているが、彼はまた別次元である。

 属性は水だが本来不利となる風属性が相手であろうと圧倒できる”力”と”技術”。おそらく訓練だからだろうか力で押してくる相手には力で対抗し、技術で切り抜けようとしてくる相手には技術で返している。

 おそらく現状でも実力的には3等級以上のはず、現状の僕が技術でも力でも対抗できる相手ではないが……とある理由があって彼とはまだ一度も話せていない。


 少年の強さの理由を聞くために何度も話しかけようと近づいてはみたが、必ず逃げられるか無視されるか。

 その理由を少女、(りゅう)に聞いてみた。


「しょうがないよ。(そう)は私たちの中で唯一、”親を自分の目の前で亡くしてる”から。だから親を助けてくれなかった軍人が嫌いで、将来は軍人には絶対にならないって決めてるらしいから」


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