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魔物の世界の通訳さん 〜特殊スキル『魔物通訳』でモンスターの悩み相談承ります〜  作者: 役所星彗


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第35話「再ログイン」

 コンが記憶を取り戻して紫色のオーブを見つけた、その次の日の月曜日。

 今日は部長と課長への中間プレゼンの日だ。


 浅峰あさみねが先頭に立って会議室の重い扉を開けると、すでに部長と課長が真剣な表情で席についていた。


 そして始まった、中間プレゼン。


 浅峰あさみねはまるで自分が作成した資料であるかのように、流暢りゅうちょうな口調でプレゼンを進めていく。


 僕たちは浅峰あさみねの隣に控え、緊張しながらその様子を見守っていた。


 プレゼンが終わり、真剣な目で話を聞いていた課長が口を開いた。


浅峰あさみねくん。ここの数値について、根拠こんきょを詳しく説明してくれるかい?」


 課長の質問に浅峰あさみねが即答した。


「はい。その部分については田凪たなぎより説明いたします」


(えっ、僕っ!?)


 資料の詳しい根拠こんきょ、つまり最も専門的な部分の話になった途端に無茶むちゃ振りをしてきた。

 直前まで「俺が全部やってやるからお前たちは黙って見てろ」と言っていたのに……。


「は、はい。えーとですね……」


 僕は動揺どうようしながらも必死に言葉をつむぎ出す。慣れない状況に冷や汗をかきながらも、なんとか説明を終えた。


 僕の説明が終わると、部長と課長が何やら小声で話し始めた。


 会議室には重い空気がただよい、僕たちはただ黙って彼らの言葉を待つしかなかった。


 数分後、部長が静かにフィードバックを始めた。


「……悪くはない。ただし一週間後の役員プレゼンのために、ブラッシュアップが必要だ。課長からいくつか修正点を伝えるから、より良いものを作り上げてくれ」


 部長の言葉に浅峰あさみねは「はいかしこまりました!」と元気よく返事をした。


 部長は表情をくずさず、その鋭い目で僕たちをじっと見据みすえている。


「……みんな疲れがまっているようだな。悪いが、もうあと一週間踏ん張ってくれ。良い出来を期待しているよ」

「はい誠心誠意せいしんせいいがんばります!」


 部長の言葉にまたしても浅峰あさみねがハキハキと答えた。


 彼は全く残業をしていないのだが、その目には徹夜てつやでもしているかのような深いクマができていた。


 それから部長は何も言わずに退席し、課長から修正点が伝えられた。


 部長は「いくつか」と言ってはいたが、その内容は想像以上に多岐たきにわたり、修正の量は相当なものだった。




 そしてその日の定時間際、プロジェクトチームに与えられた別室でのこと。


「じゃ、追加のタスクよろしくな」


 浅峰あさみねのその言葉に、僕と後輩たち三人は沈黙ちんもくした。

 浅峰あさみねは僕たちの反応を気にする様子もなく、すでに帰宅の準備を整えている。


(まぁ、そんな気はしてたけど……)


 僕はため息を押し殺しながら、その行動をなかば諦めて見ていた。

 その沈黙ちんもくやぶったのは、後輩の男の子であるタケル君だった。


「あの……さすがに今週は皆でやった方が良いんじゃ……」

「はぁ? なに甘ったれたこと言ってんだよタケル。もう道筋みちすじは決まってるんだから大丈夫だろ? 俺は忙しいんだよ」


 浅峰あさみねが冷やかすように笑いながら言い放つ。タケルくんは数秒黙った後、意を決したように問いかけた。


「……なんで、そんなに忙しいんですか……?」

「……あ?」


 浅峰あさみねの視線がするどくなる。タケルくんは小さく震えながらも、引き下がらない。


「もしかして……またゲームなんじゃ……」


 その言葉に浅峰あさみねの表情が変わった。


「お前、チームから外すぞ?」

「えっ……」


 タケルくんは浅峰あさみねのまさかのおどしにたじろいだ。


「前にも言ったよな? 立場をわきまえろ。チームから外されたいのか?」


 当然、浅峰あさみねにそこまでの権限はないし、これは単なる脅しだ。

 だけどこの言葉はあまりにも一方的すぎる。同期としてここで黙っているわけにはいかない。


浅峰あさみね、それはさすがに言い過ぎだよ」

「ああん!?」


 浅峰あさみねは僕を恫喝どうかつするようににらんだあと、口角こうかくをあげてニタリと笑った。


「……なんだよタマオ? お前、後輩たちの頼れるリーダーでも気取きどってんのか? ずいぶんとエラくなったなぁ?」

「いやそういうわけじゃなくてさ……」


 僕の返答に、浅峰あさみねまったく聞く耳を持たない。


「いいかタマオ? お前は特に発言に気をつけろ。今の俺は()()って名前を思い出すだけで、そいつをぶち殺したくなるんだよ……」


(えぇ……なんでだよ……)

 

「チッ……出来の悪い部下たちを持つと苦労するぜ……。タマオ、ちゃんとやっとけよ?」


 そう捨て台詞ゼリフを残して、浅峰あさみねは本当に帰ってしまった。

 彼の足音が遠ざかると、会議室には重い沈黙ちんもくが残された。


田凪たなぎさん。これはさすがに酷すぎますよ……」


 タケルくんが、悔しそうに顔をゆがませながら言った。


「うん。ごめんね……」


 僕は謝ることしかできなかった。


田凪たなぎさんは謝ることないじゃないですか!」

「そうですよ! こんなに頑張がんばってやってくれてるのに!」


 後輩たちの純粋じゅんすいな言葉に、胸が締め付けられる。


「ありがとう……。でもとにかく時間がないから、浅峰あさみねのことは一旦置いておいて、指示された修正はしっかりとやろう。……皆、協力してくれる?」


 後輩たち三人も思うところがあるようで、数秒の沈黙ちんもくが流れる。


 だけどやがて、決心したように三人揃って力強くうなづいてくれた。

 その目に宿やどる光が、僕にとって何よりも心強かった。




 それからの数日間。


 浅峰あさみねは「身内の不幸」というなんとも深入りしづらい理由で火曜と水曜を休み、木曜に出てきたと思えば──急にスイッチが入ったかのようにあれやこれやと資料の修正や追加の指示をした上で、当然のように定時帰りした。


 僕たちはそれに散々振り回されながらも、「今はプレゼンの成功だけに集中しよう」と声を掛け合い──やっとの思いで資料を完成させた。


 あとは、月曜日の役員への最終プレゼンが上手くいくことを願うだけだ。


 ……というわけで、いつの間にかまた日曜日の朝だ。


(また一週間空いちゃったな。……コン、オーブをくれたお姉さんから連絡来たのかな?)


 僕は朝ごはんを食べ終えて顔を洗うと、ソワソワとした気持ちでいつものフルダイブ型ヘッドギアを手に取る。

 

 ヘッドギアを装着そうちゃく。視界が闇に閉ざされる中、僕は意識を集中させた。


 ──LINK TO WORLD.


 いつもの、体がフワッと浮き上がるような感覚。そして世界が真っ白な光にり潰される──。




 真っ白い光が晴れて視界が戻った僕の目に映ったのは──真っ白い景色だった。


(あれ、白いままだ……。ゲーム壊れちゃった……?)


 僕はほんの一瞬、ゲームの故障こしょううたがう。しかしすぐに故障ではないことに気が付いた。


(……いや違うぞ! この全身を包み込むような、暖かくてもふもふしたいやされる感覚。そしてこのいとおしい重みと僕を抱きしめるような感触は……!)


「マオ、おはよっ。もうすぐ起きるってわかってたよっ!」

「コン! おはよう……!」


 僕の視界を白くめ上げていたのは、コンのやわらかな毛並みだった。


 大きな九尾きゅうびきつねのコンが、僕を優しく抱きかかえるようにして寝転がっていたのだ。


 その胸元にすっぽりと収まった僕は、まさにコンの毛の中に埋もれている状態だ。


 コンの温かい毛が僕の顔に触れ、視界は一面の白におおわれていたのだった。


 僕のログインに気が付いたコンが嬉しそうに、僕を抱きしめる前足に少しだけ力を込める。


(ログイン0秒でもふもふ。これは新記録だ……!)


 僕は思わずほおを緩ませ、そのまましばらく一週間ぶりのもふもふを心ゆくまで楽しんだ。


 コンの体から伝わる温もりとどこまでも柔らかな毛の感触が、僕の心を優しく解きほぐしていく。


 僕はコンの白い毛並みに顔を埋めながら、首筋や耳の裏あたりを撫でてやった。

 コンは気持ちよさそうに目を閉じ、小さなうなり声をらす。


「ああ落ち着く……。コン、ありがとね」

「えへへー♡ 会いたかったよ、マオっ!」


 コンは僕の言葉に甘えるように、その頭を僕のそばにり寄せてくる。


「ホッホ、相変わらず仲良しじゃのう」


 聞き慣れた声がして視線を向けると、ソロモンさんが温かい眼差まなざしでこちらを見ていた。


「あっソロモンさん。おはようございます」

「ホッホ、おはよう」


(なんか……皆いつも通りだな?)


 僕はコンの柔らかい毛に顔を埋めたまま、気になっていたことをたずねた。


「そういえばコン、オーブをくれたお姉さんから連絡あったの?」

「それがまだ無いんだよね。……のんびり待っていれば、その内に来ると思うよ」


 コンはそう言いながら、自身の首元に目をやった。

 そこには以前見つけた紫色のオーブが、ひもに通されてネックレスのように揺れている。


 ソロモンさんの首に下げられたオーブと、色違いのおおそろいだ。


「ホッホ、あやつはマイペースな性格じゃからの。気長に待っていれば良いのよ」




 それから僕たちは何をするでもなく、ただゴロゴロともふもふを続けていた。

 コンのぬくもりに包まれていると、時間があっという間に過ぎていく。


 しばらく経った頃、寝室のドアがガチャリと音を立てて開いた。


「おーい、邪魔するぜ。……あっ、マオも起きてるのか!」


 そう言って入ってきたのは、僕と同じくらいの身長のゴブリンだった。首には青いスカーフを巻いている。


 その風貌はミチオさんに似ているが……ミチオさんほどのクールさはない。


(この見覚えのある、どこか可愛かわいげのある顔立ちは……)


「君はもしかして……ゴブオ!?」


 僕は思わず叫んだ。以前会った時よりも、明らかに大きく成長している。


「そうだぜ? なんだよ、ちょっと見ない内に忘れちゃったのか?」


 ゴブオはからかうように、僕の顔をのぞき込んだ。


「いや……すごく大きくなってるから、一瞬わからなかったよ」

「ああ……そうかもな? 人間って身長伸びないもんな。俺、結構エラくなったんだぜ?」


 ゴブオは、青いスカーフのはしを指でいじりながら自慢気じまんげに言う。

 確かに前よりも体つきががっしりとして、顔つきもどこか凛々しくなっている。


「そうなんだね……! それで、今日はどうしたの?」


 僕がたずねると、ゴブオは途端とたんに真剣な顔つきになった。

 その表情からは先ほどまでの明るい雰囲気は消え失せ、重々しい空気がただよっている。


「ああ……今日は皆に、最期さいご挨拶あいさつを言いたくて来たんだ」

「えっ、最期さいご……?」


 突然の言葉に、僕は思わず聞き返してしまった。


「ああ……最期さいごだ。多分俺は、もう皆には会えない──」



あとがき


皆さま。長い間、浅峰の大暴れにお付き合いいただきましてありがとうございましたm(__)m


しかしそれもここまで!

もう彼のターンはありません。

ゲームでも現実でも一気に結末まで進みますので、引き続き応援よろしくお願いします!!

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