第34話「サーバールームの二人」
◇◆◇World Canvas Onlineサーバールーム
薄暗い照明の中、無数のサーバーが音を立てて稼働するWorld Canvas Onlineのサーバールーム。
運営スタッフの橋本は相変わらず、仕事もほどほどに自身のPC端末で掲示板を眺めていた。
謎のキツネ巫女や混沌の魔王出現の話題で盛り上がるスレッドを指でスクロールしながら、軽やかな声で呟く。
「あらあらエイプリルフーラーくん。今日は嘘ついてないのに、オオカミ少年だねー」
いつもは慌ただしくタスクをこなしている松久も、今日は珍しく一緒になって掲示板を見ている。
その表情はどこか楽しげだ。
「やっぱり、嘘ばっかりつくのはいけないよねー」
松久が真面目な口調で相槌を打つ。
「うんうん……って松久くん。そんなにのんびりしているヒマはあるのかい? オーブはもう全部見つかっちゃいましたよ?」
橋本がニヤニヤしながら尋ねると、松久は自慢気に答えた。
「うん。叡智のオーブは九尾が鍵だったし、通訳さんがすぐに見つけると思ってたからね。事前に色々と終わらせておいたんだ」
「おお! さっすがデキる男は違うねぃ!」
橋本は感心したように、松久の肩をバンバンと叩いた。
「橋本さんももうちょっと手伝ってくれると助かるんだけどね……?」
そう言いながらも松久は満更でもない様子で、口元が少し緩んでいる。
「通訳さん、このまま混沌の魔王とも仲良くなっちゃったりして……?」
橋本が冗談めかして言うと松久は腕を組み、真剣な表情で首を傾げた。
「いやぁそれはどうかな? さすがに厳しいと思うけどねー」
橋本が再び端末に視線を戻し、興味深そうに尋ねる。
「そういえばワールドクエストの説明文ってどんな感じなんだっけ?」
「説明文は……これだね」
松久はそう言って、自身のPC端末の画面を橋本に見せた。
その画面には、これから始まろうとしているワールドクエストの詳細が記されていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ワールドクエスト
【黒蝕の胎動、自由を紡ぐ剣】
【ワールドクエスト目標】
・混沌の魔王との戦いを終末の平原にて終息させよ。
・創世のオーブの全てが魔王に集結するのを阻止せよ。
【クエスト概要】
・七つ目の《混沌のオーブ》を持つ《混沌の魔王リリスヴェル》が、終末の平原に顕現した。
・魔王に呼応し、世界各地のモンスターが《創世のオーブ》を魔王へ捧げるべく、順次進攻を開始する。
・全てのオーブが魔王に集結すると魔王は本来の力を取り戻し、世界は黒く塗り潰されるだろう……。
【重要ポイント】
・魔王のステータスは、モンスター側が所持するオーブの数に比例して変動する。冒険者たちの協力によるオーブの確保がポイント。
・冒険者が所持するオーブは魔王の配下モンスターの標的となり、オーブの死守は世界防衛の鍵となる。
・その他、多数の配下モンスターが世界中に出現! 初心者でもクエストに参加できます!
【全冒険者への呼びかけ】
このままでは我々の世界が、黒一色に蝕まれる。
今こそ団結し、見事この戦いを終息させて、世界の自由を守り抜け!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふむふむ。これは良い出来ですなぁ松久さん!」
「ありがとう。褒めても何も出ないからね?」
橋本が感嘆の声を上げると、松久はわずかに口元を緩めながら応じた。
「ちなみに、クリアまではどんくらいかかるんだろね?」
橋本の問いに松久は腕を組み、考え込むように天井を見上げた。
「オーブの所持数によって魔王が強くなったり弱くなったりする、綱引きみたいなクエストだからね。終わりの見込みが難しいんだよねー」
そう前置きし、松久は具体的な数字を口にした。
「今アメリカと中国が一つずつオーブを持ってるでしょ? 全部で四個くらいは冒険者が保持しないと倒せないから、一ヶ月はかかるんじゃないかな? もしかしたらもっとかかるかも」
「はえー、壮大なクエストだねー」
橋本は目を丸くして感心する。
「ま、我らがワーキャンの一周年記念フェスの大トリですからね。簡単にクリアされちゃ困りますよ」
松久が胸を張り、誇らしげに答える。
彼はあくまでも管理人からのタスクをこなす運営スタッフであり、このクエストの構造を考えたのは"謎の管理人"なのだが、その点については橋本もツッコまない。
壮大なワールドクエストに感心しつつも、橋本は先程のスレッドで盛り上がっていた話題を思い出したように、再び松久に問いかけた。
「そういえばさ、九尾のコンちゃんの【破邪の天光】? あれ強すぎない?」
「あー、あれは神獣のユニークスキルで、今のところは九尾だけが使える技だね」
松久は腕を組み、専門的な説明を始めた。
「隠しステータスの『善性』を参照してダメージ計算してるから、善性がマイナスの鬼たちには効果絶大ってワケ」
「なるほど。じゃあ掲示板の聖属性攻撃って予想もあながち間違いじゃないんだね」
橋本はポンと手を叩き、納得した様子だ。
「そうだね。そのめちゃくちゃ強い版かな?」
松久は少し得意げに頷いた。橋本が質問を重ねる。
「ちなみにプレイヤーにも善性ってあるの?」
「もちろんあるよー」
松久は即答する。
「まぁ大体みんな同じくらいに落ち着くんだけどね。ちなみにトッププレイヤーの中で群を抜いて善性が低いのが……」
松久の言葉の続きを、橋本が身を乗り出して重ねた。
「「真の勇者アーサー」」
二人の声が完璧に揃う。橋本と松久は顔を見合わせ、イタズラが成功したかのようにニヤリと笑い合うのだった──。
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