第30話「お団子食べるおまじない」
「お団子が美味しくなる"おまじない"それは──『おいしくなーれ、ニンニン、キュン♡』だ」
(おいおいホントかぁっ!?)
にわかには信じがたい情報を、エイプリルフーラーさんは真面目な顔で話し続ける。
「この"おまじない"で、お団子は完成する。とても大切な役割だ。……コンちゃん、お願いできるかい?」
エイプリルフーラーさんがコンにお願いする。
いくら純粋なコンとはいえ、これはさすがに……
「わかった、私がんばるねっ! おいしくなーれ、ニンニン、キュン!」
(迷わずやるんかいッ)
僕の心のツッコミをよそに、コンはお団子のために全力で"おまじない"を唱えた。
これが本当かどうかは置いといて、その様子はとても可愛かった。
キツネ耳美少女巫女さんの、一生懸命なおまじない。
それは間違いなく見るものの心を鷲掴みにするだろう。
だけど……。
「ハァ……コンちゃん、そんなんじゃ全っ然ダメだ」
エイプリルフーラーさんは大きなため息をつくと、深刻な顔でダメ出しをした。
「えっ……ダメだった……? お団子、取り上げられちゃう……?」
コンはショックを受けたように、キツネ耳をペタリと垂らしている。
(……なにがダメなんだ? 僕から見たら、すごく良かったけどな……)
そこから、エイプリルフーラーさんの鬼のような指導(?)が始まった。
「そんなんじゃお団子さんは美味しくなってくれないぞ? もっと"お願い"してる感じで恥ずかしそうに、全力で可愛い声で言うんだ! ニンニンの手は忍者、キュンはハート! マオの目を見ながら言ってみろっ!!」
(ちょっ、なんで僕の目を見てなんだよっ!?)
「は、はいっ! やってみます!」
しかし、せっかくのお団子が取り上げられるかもしれないと焦ったコンは、その指示を一切疑わない。
キツネ耳を垂らした巫女コンが、頬をほんのり赤らめて、ウルウルした上目遣いで僕を見ながら、とびっきりに甘えた声で"おまじない"を唱えた。
「……お、おいしくなぁれ、ニンニン、キュン……?」
……………………………………。
「グハァッ!!!」
「ちょっ、マオ鼻血っ!? どうしたのっ!?」
薄れゆく視界の端でコンが、急に鼻血を噴き出した僕を見てアタフタしている。
(……あ、ありがとうエイプリルフーラーさん……もう悔いはありません……)
エイプリルフーラーさんの方を見ると、彼はとても男前な表情でウンウンと何度も頷きながら、静かに鼻血を垂らしていた……。
◇
「よし、良いだろう。それじゃあ食べようか」
そんなこんなで、やっとエイプリルフーラーさんのGOサインが出た。
コンは「やったぁ! いただきまーす!」と元気よく声を上げた。
コンがお団子をパクっと食べる。
その瞬間、それまで垂れていたキツネ耳がピンッと立った。
「おいっしいー!!!」
コンはキラキラした瞳で、とても幸せそうにお団子をパクパク食べ始めた。
(しかし、ホントに美味しそうに食べるなぁ)
純粋に喜ぶコンを見ているだけで、僕の心がいつの間にか癒されていくような気がした。
僕も鼻血を拭いながら、お団子をいただく。三人で食べるお団子は、甘くてとてもおいしかった。
◇
「いやぁ、とても良いものを見せてもらったよ」
エイプリルフーラーさんは満足そうに言って、お団子の代金を奢ってくれた。
「ごちそうさまでした」
「エイプリルフーラーさん、ありがとうっ!」
僕とコンがお礼を言うと、彼はニコニコしながら頷いた。
「良いんだよ、お礼を言いたいのはこちらの方さ。また新しい町に行く時があれば声を掛けてくれ。いつでも案内してあげよう」
そして僕は、エイプリルフーラーさんとフレンド登録をした。
まさかフレンドができるとは。ゲームを始めた頃は想像すらしていなかった。
偶然とはいえ、なんだか少し嬉しいな。
登録を終えると、エイプリルフーラーさんは僕の腕をギュッと掴んでいるコンの様子を見て可笑しそうに笑った。
「しかしコンちゃんは、マオのことが本当に好きなんだな」
「うんっ、大好きだよっ!」
コンは一切の躊躇もなく、キラキラした瞳で答えた。
こんなに迷いなく言ってくれるとは……嬉しいような恥ずかしいような、なんだか不思議な気持ちだ。
「そうか。それなら良いことを教えてあげよう」
エイプリルフーラーさんの言葉に、コンは目を輝かせた。
「良いこと? なになに?」
エイプリルフーラーさんは人差し指を立てて、内緒話をするかのように僕たちに語りかけた。
「ここを真っ直ぐ行ったところにある【ヒノモト神社】でね、夕日を見ながらキスをした男女は、永遠に仲良しでいられるみたいだよ」
(いやいやいや、キスって流石にそれはおかしいだろ……!)
僕はエイプリルフーラーさんの突拍子もない言葉に、思わず心の中でツッコミを入れた。
しかしそんな僕の動揺をよそに、コンはとても真剣な瞳で僕を見つめて言った。
「マオ、今すぐその神社に行こう!」
僕は「いやいや」と首を振り、あーでもないこーでもないと、何とか誤魔化そうと言葉を重ねた。
しかし、喋っている途中でハッとする。
──見ると、コンがキツネ耳をペタンと倒して、とても悲しそうな顔で僕を見上げていた。
その大きな瞳が、今にも涙が溢れ出しそうなほどウルウルと揺れている。
「私、マオとずっと仲良しでいたかったけど……やっぱりダメだよね……」
「いんや全然ダメじゃないでs──」
僕がまたしても即答しかけた、その時だった。
──僕の声を遮るように、町中にけたたましい鐘の音が響き渡った。
カンカン、と警戒を知らせるような不穏な音色。
「キャー!」という叫び声とともに、町民たちがすごい勢いで何かから逃げるように走りだした。
「……え? なにこれ……?」




