第29話「嘘つきガイドツアー」
お団子屋さんの場所がわからずに困っている僕とコンに声を掛けてくれたのは、『エイプリルフーラー』という侍姿のイケオジだった。
「エイプリルフーラーさん。僕はマオです、よろしくお願いします」
「私はコンだよっ!」
僕たちが名乗ると、エイプリルフーラーさんは僕の頭上をジッと見つめ、何やらブツブツと呟き始めた。
「君、《《マオ》》っていうのか。……レベル66……いや、ジョブが侍だし名前が同じだけか……?」
(……もしかして、僕のステータスを見てるのかな? コンの妖狐変化の効果で、ジョブの表記が侍になっているみたいだ。《《人間には見破れない》》っていうのは、こういうことだったのか)
「あの……僕のステータスがどうかしましたか?」
僕が尋ねると、エイプリルフーラーさんはハッとしたように顔を上げ、すぐに元の人懐っこい笑顔を浮かべた。
「いやいや! なんでもないよ。それより、何を探していたんだい?」
彼の問いかけに、コンが元気よく答えた。
「私たち、お団子屋さんを探しているのっ!」
「おお、元気が良い子だねぇ。……しかしなるほど、お団子屋さんか……」
そう言うとエイプリルフーラーさんは、途端に難しい顔になった。
まるで何か深刻な問題でもあるかのように腕を組んで、ウンウンと唸っている。
「……実はこの町では、お団子を食べるのはとても難しいことなんだよ」
「えっ、そうなの!?」
コンが驚いた表情でエイプリルフーラーさんの顔を見る。
「ああ。美味しいお団子を食べるためにはいくつかクリアしなければならない条件があってな。……まず、語尾には必ず『ござる』をつけて喋る必要がある」
「「ご、ござる??」」
僕とコンの声が重なった。
まさかのルールに、僕たちは戸惑いを隠せない。
「ああ……そうなのでござる。この話し方じゃないとお団子屋さんには決して辿り着けないし、お団子も食べさせてもらえないでござるよ……」
(えぇ……ホントかな……?)
思わず少し疑ってしまったが、エイプリルフーラーさんは至って真面目な表情で、まっすぐに僕たちを見つめている。
「わ、わかったでござる……」
巫女姿のコンがキツネ耳をピンッと立てて、真剣な表情で答えた。
その姿が、なんだかすごく可愛い。
「うむ……マオも良いでござるか?」
エイプリルフーラーさんはキリッとした真剣な表情で、今度は僕に質問してきた。
「わ、わかりました……でござる」
僕は観念して、そう彼に返事する。
「……よし。それではさっそくお団子屋さんに行くでござるよ。拙者についてくるでござる!」
「はいでござる!」
エイプリルフーラーさんの言葉にコンが元気よく返事をした。
そうして僕たち三人は、お団子屋さんを目指して歩き始めた。
イケオジ侍のエイプリルフーラーさんを先頭に、後ろに腕を組んだ僕とコンが続いていく。
──そして、ものの二分後。
角をいくつか曲がったところで、エイプリルフーラーさんがピタリと足を止めて言った。
「ここでござるよ」
「わあ! すっごく美味しそうでござる!」
目の前には確かに、湯気を立てるお団子屋さんがあった。
コンはやっと辿り着いたお団子屋さんを見て、とても嬉しそうにはしゃいでいる。
(結構近かったな。……これってもしかして、『ござる』をつけなくても来れたんじゃないか……?)
そんな疑問が頭をよぎるが、コンが嬉しそうに目を輝かせているのを見ると、段々とそんなことはどうでもよくなってしまった。
(まぁコンが嬉しそうだから、ヨシとするか……)
◇
エイプリルフーラーさんが案内してくれたのは、古民家のような趣のあるお団子屋さんだった。
さっそく暖簾をくぐり、店内へと足を踏み入れる。
「お団子を沢山くださいでござる!」
コンが元気よく、大きな声で注文する。
するとお店の人は一瞬「ご、ござる……?」と驚いた顔をしたものの、「はい、わかったよ」と慣れた様子で頷いた。
(やっぱりこれ、もしかしなくても『ござる』は要らないんじゃないか……?)
僕の疑問をよそに、エイプリルフーラーさんは至ってキリッとした男前な表情のままである。
しばらくすると、ホカホカのお団子と温かいお茶が運ばれてきた。
甘い醤油の香りが食欲をそそる。
「わあ! いただきま──」
コンが目の前のお団子に手を伸ばそうとした、その時だった。
「──ちょっと待ってくれ」
エイプリルフーラーさんが真剣な顔で、コンを止めた。
「まだ食べてはいけない。このお団子はある"おまじない"を唱えてからじゃないと、その美味しさが半分以下になってしまうんだ」
「えっ……そうなの? ……どんなおまじない?」
コンは目を丸くして、エイプリルフーラーさんの言葉に真剣に耳を傾けている。
「あぁ。これが上手に言えなければ、お団子を取り上げられる可能性だってある……!」
「ヒッ……! そ、そんな……」
コンは目を見開き、絶望の表情を浮かべている。
「よく聞きな。その重要な"おまじない"とは……」
「"おまじない"とは……?」
コンがゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた。店内に緊張が走る。
「その"おまじない"は──『おいしくなーれ、ニンニン、キュン♡』だ」
(おいおいホントかぁっ!?)




