第27話「ユニークスキル・妖狐変化!」
日曜日。
ソロモンさんの図書館を皆で掃除してから、また一週間が経った。
今週も朝から晩まで、皆でプレゼンの準備に追われる日々だった……。
浅峰は相変わらず「俺は上司だから」とか言ってふんぞり返っているだけで、ほとんど手伝ってくれなかった。
僕一応、同期なんだけどね……。
しかも最近はワーキャンのイベントの大事な時期だとかで、毎日定時ピッタリに帰ってしまった。
明日の月曜日は部長や課長への中間プレゼン。そして来週は高田マネージャーをはじめとする役員への最終プレゼンだ。
(このままで大丈夫かな……)
正直、心配は尽きない。
……いや、今日は一週間ぶりの休みだ。今日は仕事のことは忘れよう。
(こんな日はやっぱり、ワーキャンだよね)
コンと会ってのんびりもふもふして、リフレッシュしよう!
僕は朝ごはんを急いで食べ終えて顔を洗うと、ベッド脇に置いたフルダイブ型ヘッドギアを手に取った。
ヘッドギアを装着すると、視界が深い闇に閉ざされる。
僕はベッドに横たわり、意識を集中させた。
――LINK TO WORLD.
フワリと、体が浮き上がるような感覚。瞬間、世界が真っ白な光に塗り潰される――。
◇
「あっマオ、おはよー!」
まばゆい光が収束して見慣れた寝室の景色が広がった瞬間、目の前にいたコンが嬉しそうに出迎えてくれた。
その純粋な笑顔に、僕の心も自然と和む。
「おはよう、コン」
僕は、もう僕よりも大きくなったコンを抱き締め、一週間ぶりのもふもふを堪能する。
(ああ、癒されるなぁ……)
ふわふわで柔らかくて、暖かい体毛に顔を埋める感触は、何度体験しても最高だ。
「ホッホ、目が覚めたようじゃの」
コンとは違う、深みのある声が聞こえた。
振り向くと、ソファにゆったりと腰掛けていた人間大の巨大なフクロウ――ソロモンさんが、穏やかな表情でこちらを見ていた。
「ソロモンさん! どうしてここに?」
思わず尋ねると、コンが楽しそうに答えた。
「ソロモンさんはね、このお家が気に入ったみたい!」
「うむ。この家はスタイリッシュで最高じゃ。コンに頼んで、しばらく住まわせてもらっとるのじゃ」
ソロモンさんが満足げに頷く。
確かにこの家はシンプルながらも機能的で、洗練されたデザインだ。あとめちゃくちゃ大きい。
「なるほど……図書館は良いんですか?」
僕が尋ねると、ソロモンさんは胸の羽毛の中に隠れていた水色のオーブを見せて言った。
「図書館には、このオーブですぐに行けるからの。最近読んだ本に『職場と家は分けるべき』と書いてあるのが多かったから、丁度新しい家を探しておったのじゃ」
(そんな知識まで取り入れているのか。さすが森の賢者……!)
そしてソロモンさんは僕に、改めてお願いの視線を向けた。
「できればしばらくの間住まわせてもらいたいのじゃが、どうじゃろうか?」
「はい。コンが良いなら、僕は全然構いませんよ」
僕がそう言うと、コンは「やったー!」と嬉しそうな声を上げた。
「私は大歓迎だよ! ソロモンさんってなんでも知ってて、とっても面白いの!」
(そういえば、コンはずっとこのお城みたいに広い家で一人だったもんな)
こうして僕たちの家(お城?)に、新しいもふもふの住人が増えたのだった。
コンにも良い話し相手ができたみたいで、僕も嬉しい。
コンの笑顔は、僕にとって最高の癒しだ。
と、そんなことを考えていると、突然コンがキラキラと目を輝かせながら僕に尋ねてきた。
「ねぇマオ! "お団子"って食べ物知ってる?」
「お団子? 知ってるよ、おいしいよね」
僕が答えると、コンは目を丸くした。
「えっ、マオ食べたことあるの!? ソロモンさんからすごく美味しいって教えてもらって、私も食べてみたいのっ!」
お団子か。他ならぬコンのお願いだ。できれば叶えてあげたい。
「……お団子って、どこで買えるのかな?」
僕が呟くと、ソロモンさんがその質問に答えてくれた。
「ホッホ、美味いお団子を食べたいなら【ヒノモト城下町】に行くべきじゃぞ」
「ヒノモト城下町? ですか」
「うむ。世界の東の方にあって、侍と呼ばれる剣士が多く住む街じゃ。ワシのオーブでそこまで飛ばしてやろう」
(侍の街でお団子か! なんだかすごく面白そう!)
……でも、一つだけ気がかりなことがある。
「コンって神獣だよね? 冒険者が沢山いる所に行ったらすごく目立っちゃうけど、大丈夫かな?」
僕の疑問に、コンはキラリと目を輝かせた。まるで何か面白い企みを思いついたかのように、得意げな表情を浮かべる。
「マオ、私に良い考えがあるよ!」
「良い考え?」
僕が問い返すと、コンは満面の笑みで胸を張った。
「うん、私のスキル『妖狐変化』を使うの!」
「妖狐変化?」
聞き慣れない言葉に、僕は首を傾げた。
コンがいくつかスキルを持っていることは知っていたけれど、それを詳しく聞いたことはなかった。
「うんっ、マオにはまだ見せたことなかったね? ちょっと見ててよ!」
そういうとコンは嬉しそうに目を閉じて、なにか深く集中し始めた。
――すると、フワリとコンの白い体が淡い光に包まれ、その光が段々と強くなっていく。
僕が息を呑んで見守る中、その光が弾けるように「ポンッ」と可愛らしい音を立て、コンが真っ白な煙に包まれた。
煙がゆっくりと晴れると、僕の知っているモフモフのコンは、そこにはいなくなっていた。
代わりに立っていたのは──艶やかに流れ落ちた漆黒の髪に、透き通るような白い肌。
巫女の衣装に身を包んだ、超絶美人な女の子だった──。




