第24話「アーサー視点・オーブ争奪戦①」
俺は浅峰。
またの名をWorld Canvas Onlineの真の勇者、アーサーという。
俺のレベルは世界最高の75。
サーバーで最もレベルの高い者にのみ与えられる称号【世界に自由を描く者】を保持する俺は、自他共に認めるこの世界のトッププレイヤーだ。
しかし最近、面白くないことが続いている。
創世一周年記念祭で【創世のオーブ】の争奪戦が始まって以来、俺たち栄光騎士団は他のプレイヤーたちに後れを取っているのだ。
アメリカや中国のトップクラン。
そして、どこの馬の骨とも知れない……マオとかいう謎のプレイヤー。
どいつもこいつも、ただのマグレ当たりのくせに、調子に乗ってイキがってやがる。
……残るオーブは、三つ。
なんとしても我ら栄光騎士団が手に入れ、この世界のトップが誰なのかを思い知らせてやる。
「──アーサーさん。例の噂、やはり間違いなさそうです」
ギルドホールでの作戦会議中、副団長のエルドが、険しい顔で報告してきた。
「……青龍の出現条件か?」
「はい。イベントアイテム【青の追憶の欠片】を777個集め、指定エリアの祭壇に捧げることで青龍が出現する。そしてその青龍が【創世のオーブ】を保持している可能性が極めて高い、と」
「そうか……!」
(やはり、俺の読み通りだぜ)
エルドが続けて報告する。
「……アメリカのトップクラン《Zodiac Heros》ですが、彼らは既に700個以上の【青の追憶の欠片】を確保しているようです」
「なにっ!? 俺たちは今いくつなんだ?」
「……432個です。このままでは、また彼らに出し抜かれます……!」
エルドの悔しそうな声に、俺はギリッ、と奥歯を噛み締めた。
(……また、海外勢から後れを取るだと?)
冗談じゃない。そんなことは、俺のプライドが許さない。
「……よし。俺に良い考えがある」
俺がそう言うと、エルドが怪訝そうな顔でこちらを見た。
「アーサーさん……? 何か妙案でも?」
「ああ。すこぶるスマートな案がな」
俺はエルドの問いにはそれ以上答えず、席を立った。
◇
俺が単身向かった先は、静寂に包まれた竹林の奥。
そこには、月光を反射して鈍く輝く瓦屋根を持つ、巨大な和風の道場──日本のナンバー2クラン【月詠神楽】の本拠地が、静かに佇んでいた。
俺がその門を潜ると、中にいた団員たちが一斉に殺気立った。
「貴様は、栄光騎士団のアーサー!」
「ここはテメェの来る場所じゃねえぞ、とっとと出ていけ!」
道場の至る所から、モブどもがキャンキャンと吠えてくる。
だが俺はそんな雑魚どもの威嚇など華麗にスルーして、道場の奥へ向かう。
俺の用事は、ただ一人。
道場の最も奥。掛け軸の前に正座し、静かに刀の手入れをしていた男。
このゲームのランキング2位にして、月詠神楽のリーダー、【侍・マサムネ】だ。
「……自称真の勇者様が、こんな所に何の用だ?」
俺の存在に気づいたマサムネが、顔も上げずに冷たい声で言った。
「そうピリピリするなよ、マサムネ。今日はお前にとって“良い話”を持ってきたんだ」
俺の言葉に、マサムネがようやく顔を上げた。
その鋭い目が、怪訝そうに俺を射抜く。
「……良い話、だと?」
俺は、アメリカのクランが『青の追憶の欠片』を700個以上集めているという事実を、マサムネに伝えた。
「──そんなことは、我々も把握している」
「だろうな。……だから提案がある。ここは一丁、共同戦線といこうじゃねえか」
「……共同戦線だと?」
マサムネの視線が、さらに強まる。
「ああ。俺たちは今、欠片を432個持っている。お前たち月詠神楽はいくつだ?」
「……350ほどだ」
「ほらな。俺たちが力を合わせれば777個を超える。アメリカより先に、俺たち日本のクランが青龍に挑戦できるんだ」
マサムネは黙って俺の言葉を聞いている。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……お前たちのことは、信用できん」
「ハッ、そりゃお互いさまだ。だけどそんなこと言ってる場合じゃないだろ? このままだと、海外勢に全て持っていかれるぞ。日本のトップとしての誇りがあるなら、ここは協力すべきじゃないのか?」
俺の言葉にマサムネは沈黙する。
(よし、これはもう一押しだな)
「……俺は、日本のために戦いたいんだよ。下心なんてない……この聖剣に誓うよ」
俺は聖剣を掲げて、マサムネを説得する。
(……これでどうだ?)
そして、長い沈黙の後。マサムネはついに折れた。
「……分かった。……今回だけだぞ」
(よし、かかった! くくっ……相変わらずバカ正直なやつだぜ……)
◇
「──善は急げ、だ」
俺の栄光騎士団と、マサムネ率いる月詠神楽。
日本の二大クランによる共同戦線契約の締結と、【創世のオーブ】獲得への挑戦は、その日のうちに実行された。
トッププレイヤーとは、すなわち廃人だ。いついかなる時でもメンバーは揃っている。
俺たちの目的地は、世界の東にそびえ立つ、S級危険地帯『雷鳴山』。
その名の通りに山全体が永劫の雷雲に覆われ、絶え間なく稲妻が降り注ぐ、生ける者全てを拒絶する魔境だ。
その天を突く頂に存在する、嵐の中心『雷雲の頂』に、俺たちはなんとか辿り着いた。
レベル70オーバーの精鋭を多く集めた、日本の二大クランの夢の共同戦線。
総勢70名近い大部隊だったはずが、道中のあまりの過酷さに、その数を半分以下にまで減らしていた。
残ったのは、わずか30名程度。
やっとの思いで辿り着いた『雷雲の頂』は、嘘のように静かだった。
巨大な嵐の目の中。
黒く変質した岩肌が剥き出しになった、広大な円形のフィールド。
──その奥に、古代の祭壇だけがポツンと佇んでいる。
俺とマサムネは無言で視線を交わし、祭壇の前へと進み出た。
そして、777個の【青の追憶の欠片】を祭壇へと捧げる。
──瞬間。世界が咆哮を上げた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
凄まじい雷鳴が轟き、大気が……いや、この雷鳴山そのものが激しく震える。
祭壇から吹き荒れた暴風に、俺たちはまとめてエリアの入り口近くまで吹き飛ばされた。
「ぐっ……! 全員、体勢を立て直せ!」
俺はすぐに指示を出し、顔を上げる。
──すると、エリアの中央。
それまで静かだった空間に、空中の全ての雷雲が一点に向かって、渦を巻きながら集まってきていた。
やがてそれは、一つのひときわ巨大な雷の塊となる。
そしてその中からゆっくりと──神々しい蒼き龍が現れた。
天まで届くかのような、どこまでも長く、しなやかな胴体。
湖の底よりも深い、瑠璃色の鱗。
鹿のごとき角と、雷光そのものを編み上げたかのような白銀の鬣。
翼もないのに、その巨体は悠々と宙に浮いている。
──SSS級モンスター【青龍】だ。
その神々しい姿に見惚れていた、まさにその時。
先ほど追憶の欠片を捧げたエリア奥の祭壇に、天から一条の光が降り注いでいくのが見えた。
青龍はその祭壇を守るように、俺たちとの間、エリアの中央に陣取っている。
(……間違いない。あの祭壇に【創世のオーブ】がある!)
◇
すぐさま、戦闘が始まった。
天を衝くほどの巨体。世界そのものを揺るがすほどの咆哮。
──青龍の力は、圧倒的だった。
俺たちは、青龍の天候を操る暴力的な力の前に防戦一方で、少しずつ削られていく。
(やっぱり、正面からは勝てねえな……)
俺はマサムネに声をかけた。
「マサムネ、このままじゃジリ貧だ! 俺たちが青龍の背後に回り込むまでの少しの間でいい、持ちこたえてくれ! 挟み撃ちにする!」
マサムネは俺の言葉に強く頷いた。
「よし、お前ら行くぞ! 裏手に回る! クライヴ、盾になれっ!」
「はいっ!」
聖騎士クライヴの鉄壁の盾に隠れながら、俺たちはなんとか青龍の背後を取ることに成功した。
「よし、アーサーさん! ここから挟み撃ちですね!」
クライヴのその期待に満ちた声を俺は──ガン無視した。




