第22話「賢者様へ物申す!」
僕とコン、そして屈強なオークたちの一団は、再び世界樹へと向かって進んでいた。
これだけ強そうなのに、オークたちの会話はどこか自信なさげだ。
「賢者様、ちゃんと分かってくれるかな……」
「だよな……。恩知らずだって怒ったらどうしよう……」
「賢者様、怒るとマジで怖いからな……」
どうやら彼らにとっても、今回のストライキは相当な覚悟のいる行動だったらしい。
そして僕たちは再び、巨大な世界樹の根元へと到着した。
枝の上で僕たちを待っていた巨大なフクロウ──賢者ソロモンは、オークたちの姿を見ると、パァッと顔を輝かせた。
「おお! 戻ってきてくれたか、オークたちよ。ワシは信じておったぞ!」
ソロモンさんが嬉しそうに枝から降りてくる。
僕はオークの"お頭"から預かった彼らの気持ちを伝えようと、一歩前に出た。
「あの、ソロモンさん。オークさんたちがどうして来なくなってしまったのか、その理由なのですが──」
「うむ。皆まで言うな、マオよ。もう良いのじゃ」
ソロモンさんは、僕の言葉を大きな翼でやんわりと遮った。
戸惑う僕をよそに、彼はキリッとした賢者顔で威厳たっぷりに話し続ける。
「長年仕えていれば、少しくらいサボりたくなる時もある。しかしもう過ぎたことじゃ、いつまでもネチネチと言うつもりはない。……ワシは、お前たちを許そう!」
(……ソロモンさん。すごく良いこと言ってるけど、誤解なんだよな……)
僕がどうしようかと頭を抱えていると、隣にいたコンが僕の服の袖をクイッと引っ張った。
そして「マオ、がんばれっ!」と、小さな声で応援してくれる。
(……そうだ。ここは僕が、ちゃんと言わないと)
「さあオークたちよ! 気を取り直して仕事じゃ! あの山のようになった本を、今日中に──」
「あのっ!!」
僕は思わず大きな声で、ソロモンさんの言葉を遮っていた。
「……ん? なんじゃ、マオよ。話の途中で」
「すみません、でもどうしても伝えないといけないことがあるんです!」
僕はオークたちの切実な想いを代弁する。
「オークさんたちは、サボっていたわけじゃありません。彼らが戻ってこなかった理由は、ただ一つ!」
「……ソロモンさんが……ズボラすぎるんです!!」
僕がそう言い切った瞬間。
ソロモンさんは、フクロウが豆鉄砲を喰らったような顔でピシリと固まった。
その金色の大きな瞳が、まん丸に見開かれている。
「ズ、ボラ……? この、ワシが……?」
賢者ソロモンが、驚愕に染まった声で呟く。
それから僕は、オークのお頭から預かった言葉を一つ一つ丁寧に伝えた。
「はい。オークさんたちは、ソロモンさんへの恩義をとても大切に思っています。でも……最近のソロモンさんは、掃除も整理整頓もせず、野菜も残す。何もかもをオークさんたちに任せるのが、当たり前になっているんじゃないか、と……」
僕の言葉を、ソロモンさんはただ黙って聞いていた。
その金色の瞳が何かを考えるように、深く深く沈んでいく。
重い沈黙。僕の後ろで、オークたちがゴクリと喉を鳴らすのが聞こえた。
「……なるほど。そういうことじゃったか」
やがて、ポツリと。
全てを悟ったかのような声で、ソロモンは深く頷いた。
「……確かに。いつの間にか何もかもを任せきりにして、それが当たり前だと思っておった。お主の言うことは……グウの音も出んくらいにその通りじゃ。これでは、良き友人とは言えんのう……」
(ホッ……。良かった、ちゃんとわかってくれたみたいだ)
ソロモンさんはゆっくりと、僕の後ろにいるオークたちに向き直った。
そしてその頭を、深く下げた。
「オークたちよ……すまなかったな」
僕はソロモンさんの心からの謝罪の言葉を、緊張した様子で固まっているオークたちに、そっと伝える。
すると、彼らの強張っていた顔が、みるみるうちに安堵の表情に変わっていった。
「ワシはお前たちの支えがなければ、ここを守ることはできん。ワシには、お前たちの力が必要じゃ。……もし、よければ。良き友人として、これからも力を貸してはくれんか?」
ソロモンさんの、今度は心からのお願いの言葉。
僕がそれを伝えると、オークたちは一瞬、顔を見合わせた。
そして、次の瞬間。
満面の笑みで、森中に響き渡るほどの声を上げた。
「「「喜んでっ!!!」」」
その様子を見て、ソロモンさんも、そして僕とコンも心からホッとした。
(良かった。無事に仲直りできたみたいだ……)
◇
それからは皆で力を合わせて、図書館の大掃除が始まった。
屈強なオークたちが山のように積まれた本を軽々と運び、棚のホコリを払っていく。
たった数日分(?)の汚れは、それはもう凄まじいものだった。
そしてしばらくして。
皆で汗を流して働いたおかげで、図書館は見違えるように綺麗になった。
ただ一箇所だけ、まだ片付いていない本の山があった。
表紙が不思議な金属でできていたり、文字が淡く光っていたりする、いかにも重要そうな本たちだ。
「ソロモンさん。この本はどこにしまえばいいんですか?」
「おおそれか。それは特に貴重な『魔導書』じゃから、ここではなく特別室にしまうことになっておるのじゃ」
ソロモンさんはそう言うと、満足そうに頷いた。
「よし、マオとコンよ。お前たちには借りがある。礼として、特別室まで案内してやろう」




