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魔物の世界の通訳さん 〜特殊スキル『魔物通訳』でモンスターの悩み相談承ります〜  作者: 役所星彗


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第21話「世界樹の賢者」

 新しく届いた依頼書を読み終わると、コンが僕に言った。


「とっても困ってるみたいだね、マオ」

「そうだね。依頼主の所に行って、話を聞いてみよう」


 僕たちは依頼書を手に、お城の外に出た。


 目的地は「森の図書館」。

 地図を見ると、世界樹せかいじゅと呼ばれる大きい木が、そのまま図書館になっているみたいだ。


 ちょっと距離があるな……と考えている僕に向かって、コンが言った。


「マオ、私の背中に乗りなよ! もうマオくらいなら乗せたまま走れるから!」


 コンが得意げに胸を張る。


 僕はお言葉に甘えて、その純白じゅんぱくの背中にそっとまたがった。


「コン、お願いします」

「うん、じゃあいくよっ!」


 と、コンが言った次の瞬間──周囲の景色がすっ飛んだ。


(わっ、速い!)


 コンの走りは、風そのものだ。森の中をものすごいスピードで駆け抜けていく。

 そしてそのフカフカの毛並みは、どんな高級な乗り物よりも気持ちがいい。


(これは、超爽快ちょうそうかいだ……!)




 あっという間に、僕たちは目的地にたどり着いた。


 そして目の前の光景に、息をむ。


 天を突きやぶり、そのいただきが雲の中に消えるほど巨大な一本の木。

 葉の一枚一枚が太陽の光を浴びて、あわい金色に輝いている。


(なんて存在感なんだ。これが世界樹せかいじゅか……!)


 ……だけどその神々しい木の根元には、なんだか本のようなものが散乱さんらんしていて、少し散らかっているみたいだ。


「──お前たちは、何者じゃ? この聖域せいいきへの侵入者しんにゅうしゃか?」


 不意ふい頭上ずじょうから、威厳いげんのある声がした。


 見上げると、世界樹せかいじゅの太い枝に一羽の巨大なフクロウが止まっていた。


 月のように輝く金色の瞳に、森の土のように深い茶色の羽。

賢者けんじゃ』と呼ぶにふさわしい風格ふうかくだ。


「こんにちは。僕たちは図書館の管理人さんからご依頼をいただいた『魔物の通訳さん』です」

「おお、お主たちが通訳さんか! ワシが依頼をしたソロモンじゃ。よくぞ来てくれた。さあ中へ入ってくれ」


 ソロモンと名乗った大きなフクロウは、その大きな翼を広げて僕たちを世界樹せかいじゅの中へと案内してくれた。


 世界樹せかいじゅの中には広いスペースがあって、壁一面に無数の書物が収められている巨大な図書館になっていた。


(とても広くて立派だな。……だけどやっぱり、あちこちに本が山積みになっていて散らかっているな)


 僕たちは沢山たくさんの書物が置かれたテーブルの椅子いすに、チョコンと座る。


「何も出せずにすまんのう。ワシは本を集めることしかできんでな。お茶の葉がどこにあるかすら、正直分からんのじゃ」

「いえ、おかまいなく。それで、依頼書にあった『一族』というのは?」


 僕がそう尋ねると、ソロモンさんはその金色の瞳を少しだけさびしそうに伏せた。


「……オークの一族のことじゃ。大昔にワシが彼らの里を救って以来、彼らはずっとワシの仕事を手伝ってくれていた。言葉は通じなくとも、彼らはかけがえのない友人であり、助手だった」


 ソロモンさんはそこで一度言葉を止め、悲しそうな表情で続ける。


「……しかし数日前から、パッタリと誰も来てくれなくなってしまってのう。理由もさっぱりわからんのじゃ」


(なるほど、それで今回の依頼ってことか。でもどうして急に来なくなったんだろう……?)


「年老いたワシだけでは、とても管理しきれん。……どうか彼らに、また戻ってきてもらえるよう伝えてはもらえないだろうか」


 ソロモンさんが切実せつじつな願いを語った、その時。


 僕以外の世界の時間がピタリと止まり、目の前にウィンドウが現れた。


《特殊クエスト【森の賢者けんじゃの困りごと】が発生しました。受注しますか?》


【受注する】 / 【受注しない】


 答えはもう決まっている。

 僕が迷わず【受注する】を選ぶと、再び世界がゆっくりと動き出した。


(よし、クエストスタートだ!)


「話はわかりました。まず僕たちがオークさんたちのところに行って、話を聞いてきたいと思います」


 賢者けんじゃソロモンにそう告げて、僕は再びコンの背中に乗って森を駆け出した。




 オークたちの集落は、世界樹せかいじゅから見て谷を一つ越えただけの、割と近くにあった。


 そこは巨大な木々を組み上げて作られた、屈強くっきょうとりでのような集落だった。


 僕たちが入り口に近づくと、見張りをしていた巨大なオークがおのかまえて、僕たちの前に立ちはだかった。


「何者だ? ここはオークが治める聖なる地だぞ!」

「怪しいものではございません! 僕たちは『魔物の通訳さん』です。世界樹せかいじゅのソロモンさんからご伝言を預かってきました!」


 僕があわててそう言うと、オークの態度が一変した。


「なに、賢者けんじゃ様からっ!? ……わかった、少し待っていてくれ。すぐに“おかしら”に確認してくる!」


 見張りのオークは、慌てた様子で集落の中へと消えていった。


 しばらく待っていると見張りが戻ってきて、僕たちをおかしらがいる場所へと案内してくれた。


 集落で最も大きな建物の玉座ぎょくざに座る、巨大なオーク。


 ゴブリンの父ちゃんと同じくらい……いや、それ以上に大きいかもしれない。すごい迫力だ。


「お前たちが、『魔物の通訳さん』かい?」

「はい。僕がマオで、こちらは相棒のコンです」


 僕が名乗るとオークのおかしらは、そのするどい目でジッと僕たちを見つめた。


 そして、なぜソロモンさんの手伝いをやめてしまったのか。

 その理由を静かに語ってくれた。


「……賢者けんじゃ様が我らの大恩人であることはわかっている。我らの祖先そせんを救ってくれたのは彼だ。だからこそ我らは先祖代々、世界樹せかいじゅ賢者けんじゃ様を守護しゅごして支えることを、一族の“使命しめい”としてきたのだ」


 おかしらは、一度言葉を区切る。


「しかし今の賢者けんじゃ様は、あまりにも……()()()すぎる」

「……はい?」


 予想外の言葉に、つい聞き返してしまった。


(いま、ズボラって言った……?)


 おかしら真面目まじめな表情で話し続ける。


「近年彼は、我らが支えることを当たり前と思っているようだ。集めてきた本はその辺に山積み。片付けは全て任せきり。ご飯も好き嫌いばっかり」


(うわぁ……それは結構ひどいな……)


「……賢者けんじゃ様に恩はあるが、我らは奴隷どれいではない。ほこり高きオークだ。そのことをわかってほしくてな。少しだけ、ボイコットさせてもらっていたのだ」


 なるほど……オークさんたちにも色々な想いがあったんだな。


「分かりました。その気持ち、僕が責任を持ってソロモンさんに伝えます」

「……言葉ではっきりと伝えてもらえるのは、我らにとってもありがたいことだ。我らとしても、賢者けんじゃ様とはこれからも良い関係を続けていきたいからな」


 オークのおかしらはそう言うと、満足そうにうなづいた。


「よし、話は決まったな! お前たち、通訳殿を世界樹せかいじゅまでお送りしろ!」


 おかしらがそう号令ごうれいをかけると、周りにいた屈強くっきょうなオークたちが「「「おう!」」」と一斉に声を上げる。


 こうして僕とコンは、オークの世界樹せかいじゅ担当部隊(総勢50名ほど)という、とんでもなく物々しい護衛ごえいを引き連れて、再び世界樹せかいじゅの下へと向かうことになったのだった──。

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