第20話「新案件スタート!」
月曜日。
僕は会社のデスクで、ひたすらにキーボードを叩いていた。
その背後で、同僚たちの楽しそうな雑談が聞こえてくる。
「おい、掲示板見たか? アメリカに続いて、今度は中国のクランがオーブ見つけたらしいぞ!」
「マジかよ! これで三つ目か。日本のクラン、完全に遅れ取ってるな……」
その声に、ひときわ不機嫌そうな舌打ちが混じる。
「……チッ。どいつもこいつも、マグレのくせにイキがってやがる」
声の主は、もちろん浅峰。
ガチ勢の人たちは、オーブという重要アイテムを探すのに必死になっているみたいだ。
その時。オフィスの入り口が開いて、スーツをパリッと着こなした一人の男性が入ってきた。
フロアの空気が、ピリッと引き締まる。
「エリアマネージャーの高田です。皆さん、少しだけよろしいでしょうか」
高田と名乗ったその人は穏やかな、しかし有無を言わせぬ口調で話し始めた。
近々、会社の今後を左右するかもしれない非常に重要なコンペがあること。
そしてその勝利のため、今までの常識に囚われない新しいアイデアが必要であること。
故に、今回は若手中心のプロジェクトチームを、この部署から選出したいと。
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、浅峰が勢いよく手を挙げた。
「はい! そのプロジェクトリーダー、ぜひ私にやらせてください!」
高田マネージャーは、その自信満々な浅峰の顔を値踏みするように、ジッと見つめる。
「君は……浅峰くんか。これは、我が社の威信がかかった非常に大切なプロジェクトだ。……本当に、君に任せても良いのかい?」
「はい、お任せください! 必ず、成功させてみせます!」
「……そうか、分かった。期待しているよ」
というわけで、結局このプロジェクトはリーダーに立候補した浅峰と、その同期である僕、そして後輩の男女三人。計五人のチームで担当することになった。
◇
──しかし。
チームが結成された、まさにその日の夕方。
定時を告げるチャイムが鳴った途端、浅峰はカバンを手に取ると、残された僕たち四人に向かって言い放った。
「じゃ、お前ら。あとはよろしく」
「えっ……。でもこれは大事なプロジェクトだし、少しは内容の打ち合わせをした方が良いんじゃ……」
「はぁ? タマオお前な……俺はプロジェクトリーダーだぞ? ここでは俺は上司。お前たちは部下なの。立場わかってるか?」
浅峰は、絶句する僕に向かって続ける。
「俺はお前らと違って、“世界”を救う使命があってな。忙しいんだよ。……というわけでよろしくな、タマオくん」
そう言い残して、彼はさっさと帰ってしまった。
残されたのは僕と、呆然と立ち尽くす後輩たち。
「ど、どうしましょう田凪さん……。こんなの、僕たちだけじゃ……」
「中間プレゼンまで二週間しかないのに……」
パニックになる後輩たち。
……僕がここで弱気になるわけにはいかないな。
「……大丈夫だよ。一つずつ、できることから進めていこう」
僕がそう言うと、不安そうな顔の後輩たちが、少しだけ顔を上げた。
そしてそれから僕たちの、早朝から深夜まで働き続ける地獄の日々が始まったのだった……。
◇
……地獄の一週間だった。土曜日も浅峰以外の四人で、休日出勤。
そして、日曜日の朝。
僕たちは「さすがに今日は休もう」と満場一致で決めた。
目が覚めた僕は、自宅のカーテンを開ける。
窓の外には、雲一つない気持ちの良い青空が広がっていた。
どこからか鳥のさえずりも聞こえる。最高の日曜日だ。
しばらく空を見てボーッとする。
(……ワーキャン、したいな)
「よし。今日は一日、ワーキャンでリフレッシュだ!」
僕はヘッドギアを手に取り、ベッドに横たわる。
──LINK TO WORLD.
その文字列が、まるで天国への扉のように見えた。
◇
次に目を開いた時、視界いっぱいに広がっていたのは、黄金色の瞳だった。
「あっ、やっぱり起きると思った! おはよう、マオ!」
「うわっ……! お、おはよう、コン」
僕が目を覚ましたのを認識した途端、目の前にいたコンがその大きな体で僕に抱きついてくる。
ログインから、わずか二秒。
なんて無駄のない、効率的なもふもふなんだ……!
僕はしばらくベッドに寝っ転がったまま、コンの体を心ゆくまで撫で回した。
ああ、このフカフカの毛並み……。
溜まりきった疲れが、ゆっくりと溶けていく気がする……。
しばらくして起き上がり、僕は改めて驚いた。
(コン、また大きくなったな……)
もう僕の身長とほとんど変わらないくらい大きくなっている。
神獣の成長速度、恐るべし。
「マオ、ちょうど良かった! 新しい相談が来てるよ!」
僕が感心していると、コンが嬉しそうに、依頼の書かれた一枚の葉っぱを見せてくれた。
「お、どれどれ……」
僕たち『魔物の通訳さん』の新しい依頼だ。
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【依頼書】
拝啓 魔物の通訳様
はじめまして。ワシは、この森の図書館の主をしておる者じゃ。
我が図書館には、毎日世界中から本が集まってくる。
しかし、問題があってな。
先祖代々ワシの仕事を手伝ってくれていた心優しき一族が、急に仕事を手伝ってくれなくなってしまったのじゃ。
そのせいで新しく集めた本は、整理されないまま山積みになる一方……。
正直、非常に困っておる。
どうか彼らへ、ワシがとても困っていること。そして、できればまた仕事を手伝ってほしいことを、伝えてはくれんだろうか。
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