表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物の世界の通訳さん 〜特殊スキル『魔物通訳』でモンスターの悩み相談承ります〜  作者: 役所星彗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/45

第2話「サラリーマン、ゲームを買う」

 ――さかのぼること、数カ月前。


 無機質むきしつ蛍光灯けいこうとうが照らすオフィスで、僕はただひたすらにパソコンと向かい合っていた。

 響くのは自分のキーボードを叩く音と、時折ときおり聞こえるサーバーの低いうなり声だけ。


 ――いや、もう一つあった。


 仕事をサボっている同僚たちの、楽しそうな雑談ざつだんの声だ。


「いやー、ワーキャンまじでおもしれーわ」

「昨日のレイド、最高でしたね! ギリギリだったけど!」


 ワーキャン。


 今、全世界で大流行中のフルダイブ型VRMMO World(ワールド・) Canvasキャンバス・ Onlineオンライン略称りゃくしょうだ。


 僕の職場でも例外れいがいなく、雑談ざつだんの話題はいつもこれだった。


「なぁ、祥子も一緒にやろうぜー。まじで楽しいから!」

「えー、でも私、戦いとか苦手だし……」

「戦いだけじゃないぜ!  景色けしき見なから散歩するだけでもいいし、自分の家を建てて、のんびりペットと暮らすことだってできるんだ」


 そう。ワーキャンは『魔法の世界で、自由をえがけ』というキャッチコピーの通り、とても自由度の高いゲームらしい。


「しかも浅峰あさみねさんがいるから一気に強くなれるぜ。なんたって、浅峰あさみねさんのギルドは日本のトップクランだからな!」

「えー、浅峰あさみねさんってそんなにすごいんですか?」


 その声に、ひときわ大きな声が得意げに割り込んできた。


「まぁな。このゲームで俺の右に出る者はいないぜ」


 浅峰あさみね。僕の同期で、自他共に認めるゲーマー。

 その世界では《勇者アーサー》として、トッププレイヤーに君臨くんりんしているらしい。


 現実世界でも、その自信満々な態度は変わらない。ホントはもうちょっと働いてほしいんだけど……なんて、僕に言えるはずもなかった。


 定時を告げるチャイムが鳴った瞬間、それまで談笑だんしょうしていた浅峰あさみねが待ってましたとばかりに立ち上がった。

 そして、急に僕に声をかけてくる。


「あ、もう終わりか……なあ、タマオ!」


 タマオ。僕の田凪真央たなぎまおという名前をちぢめた、彼が僕につけたあだ名だ。

 誰も注意しないから、いつの間にか定着してしまった。


「……どうしたの?」


 振り返った僕に、浅峰あさみねは悪びれもなく数枚の書類を押し付けた。


「悪いけどこの仕事、やっといてくんね?  俺ちょっと忙しくてさ」

「え……」


 それは、どう見ても彼が今日一日サボっていた分の仕事だった。でもここで断れるほど、僕に勇気はない。


「……まぁ、このくらいならすぐ終わるし。わかったよ」

「サンキュー!  いつも悪いな、タマオ!」


 口先だけの感謝を背中で受けながら、僕は再びパソコンに向き直った。


 同僚たちの「アーサーさんお疲れ様です!」「よーし、今夜はボス狩りだ!」という弾んだ声が遠ざかっていく。


 静かになったオフィスで、僕はそっとため息をついた。




 数時間後。


 オフィスの壁にかけられた時計の秒針が、カチリと音を立てた。


「はぁ……やっと終わった……」


 今週もなんとか乗り切った。最後のエンターキーを押した指にはもうほとんど感覚がない。

 ふと時計を見上げると、短い針はてっぺんを少しだけ過ぎていた。


「……帰ろう」


 誰に言うでもなくつぶやき、重い体を椅子から引きがした。


 帰り道。空っぽの胃を満たすため、僕はいつものようにコンビニの自動ドアをくぐった。

 とりあえず今夜を乗り切るための缶ビールと、適当な夜食をカゴに入れる。

 おつまみでも探そうかと棚の間をフラフラと歩いていた、その時だった。


 ――あ。


 プリペイドカードが並ぶ一角に、それはあった。


 剣をかまえた騎士と雄叫おたけびをあげるドラゴンが描かれた、あざやかなパッケージ。


 Worldワールド・ Canvasキャンバス・ Onlineオンラインのダウンロードカードだ。


(……そんなに、楽しいのかな)


 昼間の、同僚たちの楽しそうな声が頭の中で反響はんきょうする。


 僕の現実は、ただ疲れて一人でビールを飲むだけ。


 でも、あのカードの向こうには、違う世界が広がっている。


 気づけば僕の右手は、自然とカードに伸びていた。




 冷たい鍵を開けて、誰もいない自宅に入る。


 レンジで温めただけの夜食と、ぬるくなったビールを一人で胃に流し込む。


 美味しくも不味まずくもない。ただのエネルギー補給だ。


 空になった缶をテーブルに置いて、僕はダウンロードカードを手に取った。

 明日は休みだ。時間はある。


「よし、やってみようか」


 この現実じゃない、どこかへ。


 誰にも気兼きがねなく、誰とも比べず、自分のペースでいられる場所へ。


 目的は、スローライフ!  のんびり異世界を楽しむぞ!!


 僕は決意を固めると、ベッドの脇に置きっぱなしにしていた箱を開けた。

 中から現れたのは、少し前に流行に乗って買ったきり一度も使っていなかった、最新のフルダイブ型ヘッドギアだ。


 流線形りゅうせんけいなめらかなボディを手に取って、僕はベッドに横たわる。

 後頭部こうとうぶにひんやりとした感触。視界がヘルメットにおおわれ、外界の光が完全に遮断しゃだんされた。


 スイッチを入れると、かすかな起動音と共に、脳が直接システムに接続されていく不思議な感覚が訪れる。

 手足の重みが消え、自分の体がどこか遠くへ行ってしまったようだ。

 まぶたの裏に、シンプルな文字列もじれつが浮かび上がる。


 ――LINK TO WORLD.


 僕は心の準備をすると、そっとその文字列もじれつを肯定した。


 瞬間、意識が真っ白な光にり潰される。


 次に目を開いた時。僕はどこまでも広がる純白じゅんぱくの空間に、一人ポツンと浮かんでいた。


 上下も左右も分からない。音もなければ重力もない。まるで世界の始まる前、あるいは終わった後のような静寂せいじゃくがそこにあった。


 ――と、その時。


 純白じゅんぱくころもまとった絶世ぜっせいの美女――女神が現れて、神々(こうごう)しい声で語りかけてきた。


『ようこそ、冒険者よ。あなたの物語を描く、真っ白な世界へ』


(キャラクタークリエイトへ続く)



※同期の浅峰あさみねと1話に出ていた勇者アーサーは同一人物です。

マオとアーサー、二人の行方にもご注目ください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ええ、いくら物語とは言え社会人としてありえないでしょ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ