第7話 自由都市の招待状
海に面して開かれた自由都市同盟の中心都市国家──ノヴァンティス。
その都市は風光明媚な港湾都市でありながら、同時に堅牢な要塞でもあった。
王国に面する陸地側には、その巨大さに圧倒されるほどの分厚い城壁がそびえ立つ。
ノヴァンティスを訪れた旅人は、まず空を見上げて立ち止まる。
街の海側の上空には常に一隻の宙を泳ぐ巨大な“魚”──魔導戦艦が浮かび、その威容を誇示していた。
この魔導戦艦こそが、この魔球星における最高戦力のひとつ。
全長二五〇メートルにも及ぶ流線形のフォルムは、まるで巨大な魚が空を滑るかのようだ。
胴体から突き出た多数のオール状ヒレがゆっくりと動き、推進機関の役割を果たす。
腹部と側面には大小の魔法陣が刻み込まれており、それぞれが強力な砲塔となっている。
一発の極大魔法は、小さな村ひとつを容易く吹き飛ばす破壊力を持っていた。
圧倒的な領土を持つ王国や帝国に対し、自由都市同盟が対等に渡り合える理由
──それは、各都市が一隻ずつ保有するこの魔導戦艦の存在だ。
数において他国を圧倒する艦隊こそが、自由都市の抑止力であり、その自由を守る鋼鉄の象徴だった。
都市は明るく、活気に満ちていた。整備された街路を人々が行き交い、
市場では商人たちの活気ある声が響く。政治の安定、経済の自由、
そして強大な武力によって保たれる平和が、ノヴァンティスの空気に満ちていた。
町を見下ろす高台に、政庁があった。そこに身を置くのは、自由都市同盟を統べる男
──クラウス・オライオン。 彼の元には、王国内の不穏な動きが複数報告されていた。
その中でも特に異質な一件。 かつて王国の最強パーティと謳われた《ライジング・ギア》
──その彼らからもたらされた情報に、クラウスは警戒心を強めていた。
平和は、力で守るしかない──それが、彼の信念だった。
だが報告は、その均衡が崩れる予兆を示しているようにも思えた。
その日。彼の執務室に、十年ぶりに離れたある男が戻ってきた。
不良息子、ジーク・ライアンこと──ジークフリード・オライオン。
そして、王国随一の冒険者と称される仲間たち。
《ライジング・ギア》の四人が顔を揃えていた。
「久しぶりだな、親父」
ジークが軽薄な笑みを浮かべて言った。
「ご無沙汰しております、閣下」
大柄な戦士、ケインが真摯に頭を下げる。
「クラウスおじ様。お久しぶりにお会いできて嬉しいです」
緊張を隠せぬ表情で、魔法使いのエリスが続いた。
「閣下。今までの陰ながらのご援助、感謝いたします」
パーティーの姐さん、シャナが口元に笑みを浮かべる。
「援助ってなんだよ、シャナ?」
ジークが眉をひそめる。
「それは内緒でーす」
シャナはいたずらっぽく笑った。
クラウスは椅子から立ち上がり、わずかに目元を緩める。
「よく来てくれた。相変わらず仲が良くて結構だ。……いつもバカ息子のサポート、感謝している」
ジークはさらに不満げに眉を寄せるが、何も言い返せない。
クラウスは再び椅子に腰を下ろし、机上の書類に視線を落とす。
「……さて。手紙の続きは、口で聞かせてもらおうか。転生者の件だな?」
ジークの顔が引き締まる。
「風間隼人とナヤナ・ラーティ──この二人を保護してやってほしい」
「二人とも、この世界に強い影響を与える存在だ。いまはまだ誰の手にも落ちてないが、
悪意ある連中に利用されたら、大ごとになるかもしれない」
ケインも重々しく頷いた。
「閣下……我々は彼らと拳を交えました。異質な力と思想を持っていますが、
それは決して悪ではない。むしろ、いまの世界に必要な視点です」
「ですが王国は、彼らの存在を抑え込もうとしている。おそらく、宰相が裏で動いています」
クラウスは渋い表情のまま、わずかに口元を歪めた。
「十年ぶりに戻ってきたと思ったら、いきなりそんな話か?
父親を悩ませる癖は変わっていないな」
「今回は私情じゃない。……本気だ、親父」
ジークの声には珍しく熱がこもっていた。
「王国の暗部は動き始めてる。奴らが何かおっぱじめたとき、隼人たちは──この世界にとっての防波堤になりうる」
エリスがそっと一歩、前に出た。
「クラウスおじ様。彼らの魔法とは異なる力……それは私にも理解しきれないものでした」
「特に、風間隼人の銃──あれが再現される未来を想像すると、正直、怖いです」
「魔導戦艦ですら無力化される可能性があります。いまの“均衡”を壊す力……
それが転生者・風間隼人の持つ技術です」
クラウスが目を細めた。
「……ほう。エリスちゃんがそこまで言うとはね」
最後に、シャナが静かに言った。
「閣下のご命令があれば、すぐにでも迎えに行けます。彼らを、正しい側に導くために」
クラウスは椅子に深くもたれ、静かに息を吐く。
「ジークはともかく……エリスちゃんが言うなら、信じようか」
「おい! クソ親父! 俺の意見も聞けよ!」
ジークが机に身を乗り出して叫ぶ。
ケインが肩を叩いた。
「行こう、ジーク。彼らはもう国境近くまで来ているはずだ」
クラウスは笑いを浮かべ、エリスへと目を向けた。
「エリスちゃん、息子を頼んだよ」
「はい、お任せください──クラウスおじ様!」
エリスが力強く頷く。
「……なんでお前らそんなに仲いいんだよ!?
親父に俺より信頼されてるとか、納得いかねぇ!」
ジークの声が響く中、シャナが笑いながら背中を叩いた。
「いいじゃない。行くわよ、ジーク」
こうして《ライジング・ギア》は、自由都市同盟からの正式な任務を受け──
風間隼人とナヤナ・ラーティの保護のために、再び走り出した。
だが、彼らが追いつくその時までに──
何も起きなければよいが、とクラウスは静かに胸中で呟いた。
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