第6話 賞金首を狩る者たち
──四影との死闘から三日後。
町外れの廃屋で身を潜めていた一行は、隼人の回復を確認し、ついに国境の町レイグラスを後にすることを決めた。
レイグラスの町並みが背後で小さくなっていく。
乾いた風が草を揺らし、空はどこまでも青かった。
安堵と疲労を背中に背負いながらも、一行の顔にはどこか次の旅路への希望が滲んでいた。
──だがその背後には、静かに影が迫っていた。
騎乗する三人の若者──王国で急成長中の賞金稼ぎユニット、《トリニティ・クラウン》。
失敗続きの王国が隼人たちにかけた懸賞金は、ついに破格の額へと跳ね上がった。
賞金首の噂は広まり、腕利きの狩人たちを呼び寄せる。
その中でも、半年間でランキング2位以下を寄せつけなかった天才三人組が──今、牙を剥く。
水場近くで休息する一行を、丘の上から視認したステイが、マックとクインに目で合図を送る。
彼らはすぐさま馬を降り、無言のまま手配書を確認しながら距離を詰めていく。
やがて、手配書を手にしたステイが一行の前に立ちふさがった。
「よう、あんたら──この手配書に見覚えないか?」
リーダー格の少年・ステイがにやりと笑い、紙を広げる。
「似てるって話を聞いてね、追いかけてきたのさ」
マックが手綱を引きながら続き、
「ふーん……やっぱりそっくりだよねぇ?」
紅一点クインが、じっとナヤナを見つめた。
隼人は腕を組み、深くため息をついた。
「……賞金稼ぎか。いくつだ、お前ら。まだ子供じゃないか。
親御さんのところに帰るって選択肢はないのかね?」
「──俺たちは孤児なんだよっ!」
ステイが噛みつくように言った。
「ええーい、説教なんか聞きたくねえ! 勝負だ!!」
──戦闘開始。
三人の戦闘服は、異世界の剣士や魔法使いとも違う、どこか未来的な構造だった。
マントの下に潜むのは、身体にぴたりと密着する戦闘スーツ。
手袋、ベルト、ブーツの各所に魔石が埋め込まれ、青白く光を放つ。
「──魔装変身!!」 三人を包む光。
肉体が光に包まれ、まるで構造そのものが再構築されるかのように、装甲が生成されていく。
目映い閃光が収まったとき──そこには、より機能的でシャープなスーツ姿の三人が立っていた。
その姿は、この世界の魔法使いとは一線を画す、無駄のない洗練されたものだった。
「この世界にも変身ヒーローがいるのか……ちょっとカッコいいぞ」
隼人が呟いた。
「うるさーいっ! 俺たちの力、見て驚け!」
ステイとマックが叫び、クインが手を掲げる。 空間に魔法陣が走り、光が凝縮。
生成された武器は、それぞれの手に吸い寄せられるように収まった。
ステイは長剣を。 マックには巨大なハンマー。 そしてクインは弓矢を構えた。
「いっくぜー! 賞金、もらったぁ!!」
***
──そして10分後。
「……すみませんでした」
隼人の前に、正座してうなだれる三人の若者がいた。
戦闘は一方的だった。 ザラの土の精霊で足を取られて転倒。
カレンの鞭にしばかれ、ナヤナの静滅波で気絶。
彼らの自慢の魔法武器は、まるで玩具のように無力だった。
目を覚ますと、隼人の鉄拳が待っていた。
「それじゃあ、職務質問するぞ。名前、年齢、住所、所属……順番に言ってみな」
「へへぇ、命まではお助けを~……」
情けない声で答えるステイたち。
「返答しだいだなぁ。……ですよね、ジェシカ(カレン)姐さん?」
隼人がカレンへ視線を送る。
「そうだねぇ」
ニコリと笑ったカレンは、静かに鞭を巻き戻す。
「私らに挑んだんだから、指の二三本は覚悟してもらおうかな?」
普段は明るい彼女からは想像もつかない悪女の笑み。
三人は本気で震え上がった。
だが、隼人は真面目な顔になって──説教を始める。
「お前らなぁ……14とか15でこんなことやってるんじゃないよ。もっと学べ、考えろ。
力は人を守るためにあるんだ」
「手配書に書いてあることだけが真実じゃないんだ。 勉強は、誰かに
騙されない大人になるために必要なんだ。 自分も誰かも守れる本物に
なりたいだろ?」
その言葉は、ステイ達にはかつて聞いたことのない響きだった。
(大人たちはいつも、俺たちの力を金儲けの道具としか見ていなかった。
強くなれ、稼げ、それだけだ。 どうせすぐ野垂れ死ぬさ、なんて奴らばかりだった。
こんな風に、俺たちの行く末を案じてくれる大人なんて……初めてだ。)
マックとクインも、隼人の真剣な眼差しから目を逸らせなかった。
彼らの人生で、こんなにも真っ直ぐに自分たちと向き合ってくれた大人は、いなかったのだから。
三人は黙って正座したまま、隼人の話に耳を傾け続けた。
やがて、カレンがぽつりと言う。
「自由都市にある魔導師学園でも入れたら? 真っ当な才能なら、伸ばせる場所もあるよ」
「下手な真似しなきゃ、連れてってやるぞ」
隼人が顎をさすりながら促す。
「──どうする?」
ステイは顔を上げ、拳を握る。 マック、クインとも目配せをして口を開く。
「……わかりました、兄貴についていきます!」
こうして、《トリニティ・クラウン》は、隼人たちの“舎弟”となった──。
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