表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/14

第5話 命の精霊輝く

 激戦の夜が明ける前、一行は瀕死の隼人をナヤナの念動で浮かせ、町外れの納屋へと飛び込んだ。


 中はひっそりと薄暗く、外の喧騒が嘘のように遠のく。

埃っぽい空気と、乾いた土の匂いが鼻をつく。

納屋の片隅に積まれた藁束の上に、隼人を横たえる。


 その場で、治療が始まった。


 カレンの回復魔法──

ビャッコの持っていたポーション──

だが、どれも効果は薄い。


 「ダメ……全然足りない……」


 カレンの顔は青ざめていた。

隼人の呼吸は浅く、身体は冷え始め、脈もほとんど感じられない。


 火が消えるように、隼人の命は確実に削られていた。


 そのとき──


 「みんな、聞いて!」


 ザラの声が納屋に響いた。


 「今から命の精霊を呼び起こして、隼人を治療する。 でも……それだけじゃ、たぶん足りない。

 だから──お願い、力を貸して!」


 ザラの顔には、張り詰めた決意と、わずかな焦りが浮かんでいた。


 「わかった! どうすればいいの!?」


 カレンが即座に応じる。


 ナヤナは隼人にしがみつき、涙を止められずにいた。


 「ナヤナ!」


 ザラが彼女に近づき、頬を軽く叩く。


 「しっかりして! あなたの力が必要なの!」


 その言葉に、ナヤナの青い瞳に光が戻る。


 「……言って、なんでもする!」


 ザラは素早く指示を飛ばした。


 「カレン、隼人の服を裂いて。傷口を確認して、清潔な布で止血を! 軽回復でいい!」


 「了解! ビャッコ、手伝って!」


 「うん! 師匠、死なないでよ……!」


 「ナヤナ、君は隼人の身体からまだ失われていない“清浄な血”を、念動で丁寧に集めて。

 地面や衣服に触れていない血液だけをね。  ある程度溜まったら、

 それを傷口に少しずつ戻すの。集中して……。 これ以上血を失ったら、間に合わない!」


 「やるわ!」


 ナヤナは震える指で涙を拭い、隼人の命を繋ぐというただ一点に、全身の意識を集中させるかのように、指先をゆっくりとかざした。

隼人の胸から、赤く澄んだ雫が浮かび上がり、空中に静かに集まり始める。


 そして──ザラは静かに、自らの身体に眠る精霊に呼びかけた。


 「来て、命の精霊──」


 命の精霊──それは、新たな命を宿し、育む女性の身体に秘められた存在。

極めて高位の精霊であり、その力を使役するには、術者自身の命を代償にする危険がある。


 空気が震え、微かな光の粒がザラの周囲に集まる。

その中心に、ふわりと浮かび上がるように姿を現す、柔らかな光を纏う女性の精霊。


「……これを使えば、私も死ぬかもしれない。 でも、今はそれでも構わない──」


 ザラの心に浮かんだ想いは誰にも語られない。

けれど、その想いの深さは、彼女の瞳に灯る光がすべてを語っていた。


 精霊の光が隼人の身体へと注ぎ込まれる。


 ザラの美しい顔が苦痛に歪み、額から吹き出す汗。

歯を食いしばり、全身を震わせながら、命の精霊の力を隼人に注ぎ込む。


 少しずつ──


 隼人の身体の傷が塞がっていく。

血が止まり、皮膚が戻り、内臓までも再生を始めているのが分かった。


 一度、血の塊を吐き出した後──隼人の呼吸が、安定する。


 同時に、ナヤナの念動による“輸血”も終わり、隼人の頬にうっすらと血色が戻る。


 ふわりと漂っていた精霊の光が、やがて粒子となって霧散していく。


 ザラが最後の力を振り絞り、ぐらりとその場に膝をついた。

呼吸は荒く、意識はかすかに揺れていた。


 「……もう、大丈夫……だと思う。 ……間に合った……ありがとう、みんな……」


 その声を最後に、ザラは意識を手放す。


 続いてナヤナも、念動の集中の糸が切れ、そのまま倒れ込む。


「毛布! ビャッコ、毛布持ってきて!」


 カレンが叫ぶ。


「わかった!」


「今はこの三人──寝かせておこう。 今夜は二人で見張りだよ」


「カレン姉ちゃんもケガしてるだろ。 治療しておくれよ。見張りはおいらがやるからさ」


カレンは、力なく微笑んだ。


「……ありがとう、いい子だね」


---夜が明け、やわらかな陽光が納屋に差し込む。


「……っ……ん……」


隼人が目を覚ました。 視界の端に──膝枕。


「……ええぇ?」


 カレンが微笑んでいた。


「おはよう。よかったよ、目が覚めて」


 隼人が左右を見ると、ナヤナとザラが、静かに隣で眠っていた。


「……そうか……みんなが……助けてくれたのか……」


「うん。ザラがね……命を張って、回復してくれたんだ」


「ザラ……ありがとうな……」


 隼人の声はまだかすれていたが、そこには確かに、生の力が戻っていた。


 目を覚ましたザラが、静かにうなずいた。


 隼人の声を聞いたナヤナも、ゆっくりと瞳を開ける。


「……隼人……っ!」


 次の瞬間、彼女は隼人に抱きつき、子供のように泣きじゃくった。

顔を隠すこともなく、声を上げて涙を流すナヤナ。その小さな身体が震えていた。

ザラも、穏やかな笑みを浮かべながら、そっと隼人の手に触れる。


「生きててくれて、よかった……」


こうして一行は、新たな仲間──ザラを加え、

隼人の回復を待ってから、国境の町レイグラスを出るのだった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。


もし「面白い!」と思っていただけたら、評価(☆)をぽちっと押していただけると励みになります。

星は何個でも構いません!(むしろ盛ってもらえると作者が元気になります)


そしてよろしければ、ブックマーク登録もお願いします。

更新時に通知が届くので、続きもすぐ追えます!


今後の展開にもどうぞご期待ください。 感想も大歓迎です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ