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第4話 決着 消えかかる命

夜のレイグラスに、鮮血と絶叫がこだまする。

 鉤爪の刃が風間隼人の腹を貫き、深々と突き抜ける。


 ──ズシャッ。


 肉が裂ける音。

身体が傾き、膝が崩れ、重力に従って静かに倒れ込む。

血が、地面に染みるように広がっていった。


 その様子を見て、カレンは言葉を失い、

ビャッコは悲痛な声で叫ぶ。


「師匠~~っ!!!」


 ナヤナは羽音との戦闘を終えたばかりだった。

だが──その瞬間、すべてが崩れた。


 隼人の苦しみ、痛み、彼が遺した「ナヤナを守る」という声、

その想いの全てが、ナヤナの中へ雪崩れ込むように流れ込む。


 時間が止まったかのように、ナヤナはただ立ち尽くす。

音が遠のき、世界から切り離されたような感覚。

鼓動だけが、胸を内側から叩いていた。


 ……そして、その鼓動が、ある一点で激しく弾けた。


 怒り。

 悲しみ。

 喪失感。

 無力感。

 自分の力で隼人を救えなかったという自己否定。


 ──あああああああああぁぁぁ!!


 叫びとも嗚咽ともつかない声が、魂の奥底から響き渡る。

その声は、周囲にいる全員の胸を凍らせた。


 ナヤナの瞳から、ぼたぼたと大粒の涙が溢れる。

そして彼女の全身から、暴風のような念動力が噴き出した。


 鉤爪と針──生き残っていた二人は、その力によって空中へと押し上げられる。

地面から三十センチ浮かび、大の字に拘束される。


 メリメリメリ……ッ!!


 不気味な音を立てながら、四肢の付け根から筋肉と骨が軋む。


 「ぐあああっ……! な……何だこれは……!」


 鉤爪の悲鳴が夜を裂く。


 「動けん……手が、足が……!!」


 四影の二人は、破壊されようとしていた。


 その時だった──


 ナヤナの視界に、よろよろと動く影が入る。 

その姿に、ナヤナは一瞬、夢を見ているのかと思った。


 「……ッ……」


 血を滴らせながら、隼人が立ち上がっていた。

左手で腹の傷を押さえ、ぐらつく足を踏みしめるように、彼は確かにそこにいた。


 はっと、ナヤナの瞳が揺れる。

絶望の底に、一筋の光が差し込んだようだった。


 全身を包んでいた念動の力が、一瞬だけ静かになった。

しかし拘束は解けず、鉤爪と針は空中に浮いたまま、わずかに身を捩らせていた。


 カレンとビャッコが駆け寄る。

だが隼人は、ナヤナだけをまっすぐ見て、微笑んだ。


 「……ナヤナ、もう……いい。 これ以上、君の力を使うな。

 君の念動は、誰かを壊すためのものじゃない……」


 その声は、掠れていたが、確かに優しかった。


 「トドメは……俺がやる。 君には、綺麗な心のままで……いてほしいんだ」


 隼人は拳銃を抜き、鉤爪と針に歩み寄る。

念動で動けない彼らの前に立ち、鉤爪の額へ銃口を当てた。


 ──パンッ!!


 乾いた音が響く。

鉤爪の額に撃ち込まれた弾丸が、脳を砕いた。

その身体から、力が抜けるように弛緩して崩れ落ちる。


 続いて針にも、同じように銃弾が撃ち込まれた。

針もまた、瞳の光を失い、念動の力から垂れるように沈んでいった。


 これで、王国が放った四影は、完全に全滅した。


 カレン、ビャッコ、そしてザラが隼人のもとへ駆け寄る。

だが、最初に抱きついたのはナヤナだった。


 「隼人っ……! 死なないで!  駄目よ……! まだ……まだ言いたいことがあるの!

 だから、死んじゃイヤ……いやよぉぉ!!」


 彼女の涙が、隼人の肩を濡らす。


 カレンが隼人の腹に手を当て、魔力を込める。

しかし、血の流れは止まらない。


「ダメだ……あたしの魔法じゃ足りない……血が止まらない……!」


 ザラが顔を上げ、きつく唇を噛んで言った。


 「私がやる……だから、力を貸して……!」


 彼女の決意の声が、夜の空気を震わせる。


 ──戦いは終わった。

 だが、まだ守るべき命がここにある。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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