第3話 人造人間との死闘
夜のレイグラスに、血と炎の気配が満ちていた。
宿屋裏の馬小屋跡地はもはや戦場。
瓦礫、黒煙、焦げた木の匂いが空気を焦がす。
足元に積もる灰が、夜風に巻き上げられ視界を濁す。
鉤爪と針の連携攻撃が激しさを増す。
隼人は防戦一方。拳銃の弾数は残り僅か。
下手に撃てば、次はない──。
彼は銃をホルスターへ戻し、代わりに腰のブロードソードを引き抜いた。
刃が月光を弾き、低く構える。
その身に纏うのは、魔力で強化された斬鉄の気配。
迫る鉤爪の突き──鋭く、空気を裂く一撃。
隼人は一歩下がり、ブロードソードで受け流す。
針が背後に回り込み、目の奥がぎらりと光る。
その顔には、もはや人間の仮面はなかった。
肌は乾いたゴムのようにぬめり、口元は笑ったまま裂け、
白目を剥いた眼が不気味に揺れている。
──妖怪めいた“本性”が顔を覗かせていた。
2対1。 波状攻撃。
隼人は左手で特殊警棒を引き抜いた。
──二刀流。
彼は生まれつきの両利き。
かつて少年剣道時代、恩師に認められたその才能は、戦場で今こそ活きる。
右手に大太刀。 左手に小太刀。
大小の刃が交差し、連なる。
防御と攻撃を瞬時に切り替える、実戦のための剣。
フェイント、受け、返し、打ち下ろし……戦場の舞踏のように剣が舞う。
ビャッコが目を丸くして、息を呑む。
「すげぇや、師匠……!」
鉤爪が舌打ちしながら言う。
「埒が明かん……針よ、隼人を押さえろ。俺は影になる」
「奴の動きは読めているのだろうな?」
「数日観察してきたのだ。しくじらん」
鉤爪は音もなく後退。
その姿がにじむように黒く変色し、全身が保護色のように闇に溶ける。
皮膚がぬるりと動き、目すら見えなくなる──
「っ……気配が、消えた……」
隼人が息を呑む。
***
その頃。
宿の近くで隼人たちを追っていたザラが、空に上がる火球の光に目を見開いた。
夜風になびく軽装のフード付きロングマント。 探索者用のレザーアーマーに、
小型ポーチを多数下げた軽装備。
──いつの間にか、彼女は本格的な冒険者の格好になっていた。
「……行くわよ、風よ──」
ザラは低く詠唱し、足元に風の魔方陣を展開。
──ゴウッ!
風の精霊が姿を現し、ザラの指示と共に鏡へ突撃する。
「なっ──!?」
鏡は突風と共に斬撃を浴び、顔が裂ける。
ギザギザの歯が並び、目が奇妙に横長に伸びる。
唇のない口が、ぎぃ、と軋むように開いた。
「……っ気持ち悪ぃ顔だな……」カレンが一歩引く。
「ザラ! 助かったよ!」
カレンが叫びながら鏡の脚を引っ掛け、地面へ倒す。
「まだだ──もう一発」
ザラの声に熱が乗る。
炎の精霊が召喚され、鏡の全身を炎が包む。
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁっ!!」
燃えながらのたうつ鏡。 内部の液体か気体か──
可燃物が引火し、爆ぜるように炎柱を生む。
──鏡、沈黙。
***
一方、ナヤナ。
浮遊しながら羽音と対峙。
羽音は両腕を開き、刃の翼を広げながらムササビのように滑空する。
肌は青白く、目は焦点が合っていない。
──人ではない。
「……っ」
ナヤナは無言で空中を回避する。
軌道を逸らす。 だが、決定打がない。
そのとき、ビャッコが腰に差していた小さな銃を取り、ナヤナに投げた。
「姉ちゃん! これ──っ!」
それはギルド工房の試作銃。 小型、低精度。 だが、至近距離なら……。
ナヤナはその銃を念動で静止。 目を閉じたまま、手のひらを上に。
空中でカチリと鳴る。 安全装置が外れ、撃鉄が起こされる。
羽音が屋根から屋根へと跳び移る。 次の狩りを見定めている。
その口がわずかに開き──音波が放たれた。
──ブゥゥゥン……!
空気が震え、耳がおかしくなる。浮遊していたナヤナの身体が揺らぐ。
それを見た羽音が、猛禽のように高く舞い、そして落ちる。
急降下。
その目の前に、銃が浮かんだ。
「な……に……?」
宙に浮く銃。 その引き金を、ナヤナが“念動の指”で──
──パンッ!!
銃声。 至近距離。 羽音の腹に、命中。
体勢を崩し、頭から地面に叩きつけられる羽音。
首が折れたのか、ピクリとも動かない。
***
その頃、隼人は針との戦いの真っ最中。
二刀が火花を散らし、ついに右の刃が針の肩を裂いた。
「っぐ……!」 針が膝をつく。
だが──
ザクッ──!
闇から伸びた鉤爪の刃が、隼人の背中を貫いた。
皮膚を裂き、背骨を穿ち、腹を抜けて突き出た爪は、三本。
「が……ぁ……っ」
血が、口から滴る。
隼人の身体が、崩れ落ちた。
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