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第2話 暗殺者たち

 夜の帳が落ち、レイグラスの空に星が散るころ。

静まり返った宿屋の外で、火球が炸裂した。

炎と煙が馬小屋を包み、焦げた木の匂いと焼けた藁の臭気が鼻を突く。

夜風が赤く揺れ、戦いの幕が静かに──だが確実に、上がる。


 鏡の火球が炸裂した直後、次に動いたのは針だった。

にやにやと笑いながら、ゆらりと隼人へ歩を進める。

その笑みは、皮膚の裏に別の何かがうごめいているような気味の悪さを帯びていた。


「なんだい、その構え? 銃で僕を止めるつもりかい?」


 隼人は冷静に構え、針の四肢を狙って引き金を引いた。

ニューナンブM60が放つ銃声が夜気を鋭く貫き、耳を打つ。

銃口から閃光が迸り、火薬の匂いが鼻腔に広がる。

銃弾は空を裂いて針へ向かう──が、


 その刹那──  「っ……!」


 針の身体が“爆ぜた”。

体中の関節や皮膚の割れ目から、10センチほどの鋭い金属針が無数に射出される。

光を反射し、まるで銀色の殺意の雨。


(避けきれない──!)


 だが、その瞬間。 空気が軋み、見えざる力場が形を取る。


 ──バチィィィ……ッ!


 全方位から迫る金属針の群れが、ナヤナの周囲で急停止した。

淡く青白い波紋が空間に広がり、針は無音のまま地に落ちる。


「ナヤナ……!」


 彼女の瞳は閉じられたまま、額に薄く汗を浮かべ、両手をわずかに掲げていた。

その指先から空間が微かに脈動し、まるで意志を持った障壁のように揺れている。


「……あれぇ? おかしいな。僕の針が届かないなんて、あっちゃならないだろうがぁ!!」


 再び、針が全身から金属針を放つ。 だがそのたびに、ナヤナの念動が空間を押し返す。

針が触れた瞬間、まるで水に落ちた石のように力を失い、音もなく落下していく。


 その一方──

 

鏡の火球はカレンとビャッコを執拗に追い詰めていた。


「っつ、こっちはこっちで忙しいねぇ……!」


 カレンはしなやかな体勢で身を翻し、魔力を帯びた鞭を振るう。

空気を裂く鋭い音が耳をつんざく。 風を切る鞭の軌道が、燃え盛る火球の進路を切り裂いた。


「ビャッコ! 後ろに下がってな! あんたは目も耳もいい。

よく見て、よく聞いて──みんなのピンチには知らせてちょうだい。

それが一番助かる。下手に動いてケガしないでね」


「うん、わかったよ。他の2人の動きも見ておくから!」


「いい子だねぇ。あとでなでなでしてあげるからね~」


「子ども扱いするのは止めてよー!」


 鏡が楽しげに口を開いた。


「なかなか素早いねぇ。じゃあ、こんなのはどうかな?」


 大きく息を吸い込み、肺を満たす音が聞こえるほどに溜めを作る。

喉奥が軋む音すら、異様に耳に残る。 次の瞬間、鏡の口から放たれたのは、三倍以上の火球。


「──ッ!」


 地を這うような轟音と共に爆発。 爆風が一帯を巻き込み、土埃が巻き上がる。

 

カレンは爆風に吹き飛ばされ、地に転がる。


 だが──  


 「……っそ、やるじゃない……でも、こっちだって──!」


 鞭が地を跳ね、蛇のようにしなやかに鏡の首へ巻きつく。

絡みついた瞬間、鞭がぎゅっと締まり、鏡の首筋に圧をかける。

鏡が怒りに目を見開き、鞭を引き剥がそうと両手で引く。


 攻防は一進一退の膠着状態に入る。


 その隙に、鉤爪が動いた。


「──……」


 無言のまま、隼人へと接近。

その拳から、獣の鉤爪のような鋭い刃が伸びる。


「来るか──!」


 隼人は素早くホルスターから銃を抜き、反射のように構える。

銃口が閃き、二発の銃弾が連続して発射される。


 ──ズバン! ズバン!


 一発は足首へ、もう一発は手首を正確に撃ち抜く。

だが、鉤爪は止まらない。金属のような肉体は、人間のそれではなかった。


(……こいつ、やっぱり化け物か!)


 さらに、針が両手に50センチ以上の長い針を生成。

二人が連携し、挟み込むように隼人へと襲いかかる。


「その銃、残り3発か。……それだけで我らを止められるか?」


「くっ……!」


 ──その瞬間、屋根の上から羽音が滑空してくる。


「ナヤナ姉ちゃん、上から来るよ!!」


 ビャッコの声に、ナヤナが反応する。

空中から、ムササビのように羽を広げた羽音が迫る。


 肩から指先にかけて、剃刀のような刃が浮かび上がっていた。

その光が、冷たく夜気に鈍く光る。


(……あれが当たれば、大木だって両断される……!)


 ナヤナは静かに青い瞳を開いた。

その瞬間、足元から空気が波紋のように広がる。


 一瞬、世界が止まった。 森の虫すら鳴き止み、風も止む。

気配そのものが凍りついたかのような静寂。 指先がゆっくりと羽音へ向けられる。

空気が軋み、目には見えぬ“何か”が弾けた──


 静滅波。


 光も熱もない。ただ存在の輪郭ごと押し潰すような精神圧。

羽音の動きが一瞬、硬直する。 しかし、そのまま止まることはなかった。


 ナヤナはすぐさま念動へと切り替え、羽音の体を空中で無理矢理逸らす。

大地に食い込んだ風の刃が地面をえぐる。


(……間一髪)


「……みんな、この人達は心がない。だから静滅波では止められない。

 念動で援護するから、私に合わせて!」


「ナヤナ、無理するな! 俺にもしものことがあったら、君らだけでも逃げてくれ……!」


「いやよ。絶対に逃げない! みんなで生き延びるから!」


 その言葉に、隼人が目を見開いた。


「……そうだな。こんな場所じゃ──死ねないな」


 ──戦いは、まだ終わらない。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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