第16話 救援の王国騎士団
王国艦隊旗艦。甲板上の戦いは、隼人がマナを喰らう悪魔・《グロウズ=オメガ》を
打ち取ったことで、状況は一変するかに思われた。
だが、それまで不安定ながらも保たれていたマナの制御が完全に失われたことで、
魔法の力は再び世界に解き放たれた。
封じられていた魔法陣が息を吹き返す。王国製魔導戦艦は浮力を取り戻し、
推進魔法陣がうなりを上げる。王国艦隊との合流を果たすべく、
滑るように動き出した。その様子を見た自由都市同盟艦隊は、
グロウズ=オメガの完全な消滅をまだ確認できず、踏み込むには至らずにいた。
甲板ではなおも激戦が続く。ゼノ配下の親衛隊騎士たちは、
再びホムンクルス兵を組織して攻勢に出た。しかも今度は、魔法の力を帯びている。
戦艦に搭載された魔法砲台も再稼働し、遮蔽物もない甲板上に高出力の魔法弾が降り注ぐ。
「隼人!このままじゃ全滅だぞ!」
「どうするジーク、一度脱出するか?」
エリスの魔法障壁が防いでいるとはいえ、限界は近い。
彼女の額には汗が滲み、息も絶え絶えだ。状況は極めて危機的だった。
その時――。 「ギィィ……ン」
甲板奥、艦橋付近の巨大な扉が重苦しい音を立てて開いた。
立ち現れたのは、黒き外套に身を包んだ一人の男。宰相ヴァルターだった。
「風間隼人、ナヤナ・ラーティ……貴様らは逃がさん。ここで終わりだ」
低く響く声。瞳には一切の情がない。冷徹そのものの眼差しで
隼人たちを射抜き、彼は部下に命じた。
「レオを回収せよ。マナを喰らう悪魔の本体は失われたが、
依代があれば再召喚は可能だ。だが……特異点どもを処理せねばならん」
そう言い放つや、ヴァルターは右手に握った長剣を振る。漆黒のグレートソード。
先史魔法文明の遺物と呼ばれる国宝級の魔法剣だ。その剣から放たれた炎の刃が、
轟音と共にエリスの障壁を一撃で粉砕した。
「え?一瞬……!?どれだけの魔力量なのよ!?」
エリスの目が大きく見開かれる。
「ヤバいな。あいつも魔法剣士か……しかもあの力、魔導師としても超一流だ」
ジークは拳を握りしめる。
「隼人!あいつが最強の敵だと思う。やるぜ!」
「わかった。だが御覧のとおり銃弾もない。トドメはお前に任す」
「そうだな。この世界の始末は、この世界の俺が着けよう」
ジークがバスタードソードを構える。 隼人も剣を構えた。
シャナはすかさず背後から援護の構えを取り、ナヤナもその瞳に覚悟を灯す。
宰相の剣撃と魔法は、まさに嵐の如し。右手で魔法長剣を振るいながら、
左手では火球、水刃、光弾、氷礫など多種多様な魔法攻撃を放つ。
その練度は人類最強クラス。 隼人はその刃を受け止めることすらできない。
まともに受ければ自らの剣ごと両断される──そんなビジョンが頭に浮かぶ。
ジークの持つ魔力付与されたバスタードソードでかろうじて受け止めるが、
刃がぶつかるたびにマナの火花が飛び散り、ジークの剣が削られていく。
隼人は何とか接近しようとするも、剣を一閃され――
「カァーン!」
鋼鉄の音が鳴り響く。隼人の剣が、真っ二つに断たれた。
「くっ!なんて切れ味なんだ……!」
絶体絶命――そのとき、背後から飛来する影。
「隼人!これを!」
ケインの叫びと共に、戦槍が投げ渡される。隼人はその槍を受け取り、
咄嗟に構えて宰相の剣を受け止めた。ケインの槍はSランク冒険者御用達の業物。
なんとか押し返す。
***
激しい攻防のさなか、王国艦隊後方より、新たな魔導戦艦一隻が姿を現した。
王国艦隊の各艦より一回り大きいその威容は、
王国騎士団長ライラ・バイエラルライン率いる国王派の救援軍だった。
彼女は、最愛の者を失った悲しみを胸に、仇敵であるヴァルターへの怒りを燃やしていた。
「戦況はまだ膠着状態に見える。マナ喰いの脅威を考えて距離を取りつつ砲撃を!」
その命令が響くと同時に、ライラ艦は魔力を込めて砲門を開いた。
その姿を見たナヤナの中で、微かな閃きが灯る。全身の力が抜ける寸前。
だが、彼女は最後の力を込めて、声に想いを乗せた。
『この場におられる全ての方に申し上げます。マナを喰らう悪魔は、
風間隼人が既に倒しました。もう魔力が消失することはございません。
王国の侵略者は切り札を失っています!』
念波が空を駆けた。ナヤナの身体がその場に崩れ落ちる。
「ナヤナ!よくやった!」
カレンが叫び、彼女を抱き留める。
「みんなに伝わったよ……!」
ライラ艦の艦橋。その声が騎士団長の耳に届いた瞬間、彼女の瞳に火が灯る。
「そうか……やってくれたか!ならば存分にやれる!自由都市同盟艦隊と呼応して、
全力で宰相派の艦隊を叩くぞ!全砲門開け!」
同じ頃、自由都市艦隊でも同盟軍を率いるクラウスがナヤナの声を受け取っていた。
「よし!やったか風間隼人!各艦に通達!
これより全力で敵艦隊を攻撃する!敵を包囲殲滅せよ!」
自由都市艦隊の9隻の魔導戦艦が王国艦隊との距離を縮め、
高出力の魔法弾を撃ち込んでくる。魔法弾は外れることなく
敵艦の魔法障壁にぶち当たる。 そのたびに巨艦が震える。
戦艦同士のノーガードの殴り合いだ。この戦いが続けば、
数と性能で劣る王国艦隊が崩壊するのは間違いない。
「ここまでか……」
ヴァルターは、誰にも聞こえぬほどの声で呟いた。
「今は引くしかない……者ども、撤退の用意を!」
宰相ヴァルター。その表情に焦りはなかった。
まだ彼には、何か余裕が残されているように見えた――。
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