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第13話 裂かれる空

 リミュエール王国による反攻の報せは、宰相ヴァルター・グランディアの

元にも届いていた。だが彼は、まるで風の音ほどにも気に留めず、

悠然とノヴァンティスの空を見据えていた。その瞳には、自信というより確信に

近いものが宿り、もはや狂気と紙一重の傲慢ささえ漂わせていた。


 ──この世界を手にする力も手段も、未だ己の手中にある。


 王国の威信は失墜し、今や貴族も官僚も騎士も、次々とヴァルターの

旗の下へと靡いていた。自由都市の富と技術までもが手に入れば、もはや覇道を

阻む者など誰一人いない──それが彼の目論見であり、現実になろうとしていた。


 ヴァルターが座す王国の魔導戦艦は、今まさに自由都市の中心都市・ノヴァンティスへと

迫りつつあった。 そして、それに続く王国主力艦隊の魔導戦艦5隻。 

威風堂々と隊列を組み進む、その艦影は空を裂く巨大な影となり、

その下の大地を怯えさせていた。


「レオの再調整に少し手間取ったな」


 艦内、ヴァルターは軽く眉をひそめながら呟いた。


「はっ。レオ様の抵抗は予想以上に強く、抑え込みに時間を要しましたが、

 今や支配率は100%。以後、ほぼ無限にマナを吸収し、敵戦力を無力化いたします」


 側近ゼノが恭しく頭を下げる。


「もはや誰にも、閣下を止めることなど叶いません」


「四影が当たっていた風間隼人一行は? 暗殺は果たされたのか」


「残念ながら、報告は潜入以降途絶えております。失敗と見て間違いないかと」


 ヴァルターの顔に、苛立ちの色がにじむ。


「あの四影が失敗するとは……まあよい。ノヴァンティスを蹂躙すれば、

 どこかで炙り出される。次こそ確実に葬るのだ」


「お任せください」


 ゼノが目配せすると、周囲に控えていたホムンクルス兵が

 無言で動き出し、静かに配置についた。


 一方そのころ──ノヴァンティス。

魔導戦艦の艦橋では、風間隼人たちが最終決戦への準備を進めていた。

戦艦間の正面衝突では勝ち目がない。だからこそ、選ばれし少数精鋭を

敵艦に送り込む作戦が立てられていた。

その要となる連絡艇は改造が進められ、マナの干渉を考慮して

高度からの滑空降下が計画された。


「万が一、墜落した場合に備えて……落下傘のような装備も用意しよう。

 落下速度を抑えれば、浮遊魔法発動の時間が稼げる」


 隼人は冷静に提案する。


「死ぬのを前提にする作戦は、俺は絶対に認めない。命があれば、再起できる」


 その言葉に、作業員たちも気を引き締めた。

艇の底には、着地の衝撃を和らげる魔導緩衝材が追加されていく。


 自由都市の魔導戦艦──その数、九隻。

銀色に輝く魚のような艦体が空を埋め尽くす光景は、まさに壮観だった。

クラウス・オライオンは旗艦の艦橋に立ち、魔法通信で各都市の

代表者たちと連絡を取っていた。


「各都市より参集してくれた皆に、心より感謝を」


「われら皆、古の盟約に従い、自由都市を守らん!」


「クラウス殿、ご心配めさるな。我らの力、存分に見せてやりましょうぞ!」


「何なりとお申し付けを! 腕が鳴りますぞ!」


 それぞれの思いを胸に、各艦の魔導師たちは頷いた。


「戦艦同士の撃ち合いにはならん。我々の目的はただ一つ──

 決死の者たちを敵艦に送り込むこと。距離を保ち、マナ数値に最大限の警戒を。

 あのマナ喰いに、一瞬の隙も与えてはならない」


「心得た!」


 クラウスの号令と共に、戦艦群は陣形を組み直し、緩やかに空を進む。


 遂に、王国艦隊との接触──魔導戦艦同士が互いに視認し、その距離を詰めていく。

クラウスは長距離魔法砲塔の展開を命じ、第一射が放たれた。

紅の閃光が空を裂く──が、王国艦に届くより前に、光は霧散する。


「……やはり、魔法が届かないか」


 ヴァルター艦に張られたマナ遮断領域が、あらゆる魔法をかき消している。


「各艦へ。距離を保ちつつ攻撃を開始せよ! 手数で奴らを幻惑するのだ。

 こちらが撃ち続けている限り、マナを喰う者はその対処に追われるはずだ。

 風間隼人らが乗り込むまで、撃って撃って撃ちまくれ!」


 同盟の魔導戦艦から無数の魔法陣が展開され、空に色とりどりの光線が交錯する。

だがその多くは、王国艦隊に届く前に消え、ただ空を飾る花火のように見えるだけだった。


 ──その最中。 遥か上空、魔導ボートが滑るように現れる。


 操船はジーク。乗っているのは隼人、ナヤナ、カレン、ビャッコ、ザラ。

そして、ライジング・ギアのエリス、シャナ、ケイン。

さらにその後方に、少し緊張した面持ちの三人──《トリニティ・クラウン》の

ステイ、マック、クインの姿があった。


「ビャッコが行くのに、俺たちが留守番なんてまっぴらだぜ!」


「魔法が使えれば、俺らだって強いんだ!」


「足手まといにはならないから、お願い!」


 ──三人は隼人に同行を願い出たが、拒否され続け、最終的にジークの

計らいで“ボートの見張り”として搭乗が許された。


「お前らにこれを預ける。いざという時、これを使え」


 ジークは彼らに魔法結晶を手渡した。


「マナが薄くなっても、これがあれば10分は戦える」


「任せてくれよ、あんたの期待には応えるぜ!」


 ステイがにやりと笑う。


 ジークは、そんな彼らの顔を見ながら思った。

(あいつら、10年前の俺たちにそっくりだ。生意気なガキどもだが、目は死んでねぇ)


 魔導ボートは徐々に高度を下げ、マナ消失の干渉で浮力を失いながらも王国艦に接近していく。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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