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第11話 クラウスとの対面

 死地を脱した一行を乗せた小型の魔導浮力船が、夜闇に紛れるように音もなく、

自由都市同盟の中心都市国家──ノヴァンティスの郊外に静かに着陸した。

窓の外には、星明かりに浮かぶ荘厳な建物のシルエットが、

まるで異国の古城のように黒い影絵となって広がっていた。

連絡艇のハッチが開き、冷たい夜風と共に緊張の余韻が吹き込む。


 降り立った隼人たちは皆、フェルゼンシュタットでの激戦の傷と

疲労を体と表情に色濃く滲ませていた。まるで抜け殻のように、

誰もが言葉少なに佇んでいた。


 政庁までは、手配された馬車で向かうことに。硬い革張りの座席、微かな揺れ。

静寂の中に、蹄の音だけが一定のリズムで響く。

あらゆる感覚が鈍るほどの疲労が、一行を包んでいた。


 ノヴァンティス政庁に到着すると、すぐさまクラウスの手配した医療チームが

彼らを迎えた。清潔な診療室、手際の良い応急処置、そして出された温かいスープ。


「やっと生き返った感じだな」

 隼人はスプーンを口に運びながら、ゆっくりと息を吐いた。


 その隣で、ナヤナは食器に手を伸ばせずにいた。フェルゼンシュタットで見た、

レオの変貌。その記憶が、まるで冷たい鎖のように、彼女の体と心を縛っていた。

隼人はそっと彼女の手を握り、優しく肩を抱く。


「落ち着いて、ゆっくり呼吸するんだ。今は休もう。食事はできそうか?」


 ナヤナは、震えながらも頷いた。

「ええ……ありがとう、隼人。落ち着きました。もう大丈夫です」


 少しずつスープを口に運ぶ彼女の姿を見て、カレンとビャッコはホッと胸を撫で下ろす。

少し離れた場所では、ザラがその光景を静かに見守っていた。

かつて氷のようだった瞳に、今は確かな温もりが宿っていた。


 トリニティ・クラウンの三人も、魔力が失われた戦場を生き延びた達成感を

噛み締めるように、言葉なく互いに頷き合っていた。彼らの胸には、

ライジング・ギア──世界最強の冒険者たちの姿が、刺激として強く刻まれていた。


 ──そして翌朝。


 すっかり夜が明けきらぬ薄明の時間、一行は再び政庁へと招集され、クラウスの執務室へ通された。


「初めてお目にかかる。 私が自由都市同盟評議会議長、クラウス・オライオンだ」


 クラウスは落ち着いた声で語りかけてきた。その姿には威厳と品格が宿り、

しかし心の底からの誠意もまた、にじみ出ていた。


「まだ疲れが残っておるだろう。だが、事は急を要する。

 君たちに、心より助力を乞いたい!」


 深々と頭を下げたクラウスに、隼人はその場で直感する。この男は信じられる、と。


『隼人。この方は信頼に足る人です。この難局に誠心誠意対応する、

 その思いで溢れておられます』

ナヤナの念話が、そっと隼人の意識に語りかけてきた。


「クラウス殿、どうぞ顔をお上げください。こちらこそ、貴方を頼ろうと

 ここまで来ました。是非、一緒に王国の宰相を撃退しましょう。

 微力ながら、尽力いたしますので」


 その言葉にクラウスは顔を上げ、目に感謝と静かな闘志を浮かべた。


「かたじけない。君らの力と知恵が頼りだ」


 場所を会議室へ移し、クラウスと共に同盟の議員たちとの情報交換が始まった。

ジークとエリスが語る、魔導戦艦墜落の全貌と、王国軍による“魔法無力化戦法”の真実。

議会の空気が一変する。怒り、驚き、そして恐怖。


そんな空気を切り裂くように、ナヤナの念話が一同の脳裏に直接届く。


『皆様にお話があります。とても重要なことです。よく聞いて下さい』


ナヤナの声は柔らかく、しかし決して揺るがぬ意思に満ちていた。


『魔球において、魔力の源たるマナを失うことがいかに恐ろしいか、

 私たちはその現場を目撃しました。そして、私はそのマナ消失の原因を

 遠視の力で確認し、その人物の魂にも触れてきました──マナを消失させるもの、

 それは……私や隼人と同じ、転生者の力です』


 ざわめきが広がる中、ジークが苦い顔で呟く。

「あいつか……宰相の側にいた男」


『そうです、ジークさん。でも、あの姿は本当の姿ではありません。彼は人間。

 転生者は彼に憑依した状態にあり、彼を通して宰相に支配されています』


 クラウスが驚きの声を上げた。 「なんだと!?」


 その事実に、ザラもまた黙って拳を握りしめていた。


『支配の力は強固ですが、そう長くはもたないようでした。

 たぶん、今はまた弱まった支配の力を再び強固にするための準備期間……

 条件が整えば、また侵攻して来ると思います』


 クラウスが鋭く一同を見渡す。

「対抗策はあるのか?」


 沈黙の後、隼人が答えた。

「奴に魔法攻撃やマジックアイテムは恐らく通用しない。

 倒せるとしたら、俺とナヤナでやるしかない」


『その通りです。私たちが悪魔と対峙できるよう、協力をお願い致します。

 彼を倒せば、あとは皆さんの魔法が通じるようになるでしょう』


 ジークが腕を組み、作戦案を口にする。

「自由都市同盟の魔導戦艦を、墜落しない程度で近づけ、

 あとは高速連絡艇を墜落覚悟で飛ばし白兵戦を挑むか……だが」


 ケインがすぐに異を唱える。

「どうでしょう? あまりに無謀な作戦です」


 しかしクラウスは、冷静な分析を忘れていなかった。

「そうとも限らん。こちらは複数の魔導戦艦を出せる。何隻かで距離を

 取りつつ陽動すれば、隙ができる可能性もある」


 隼人が力強く言う。

「乗り込めば、勝機はあると思う」


『はい。私たちの力を信じていただけるのなら』

 ナヤナもまた、静かに補足する。


 その時、カレンが声を上げた。

「その作戦、私も乗り込んでいいんだよね?」


 ザラが頷く。

「駄目と言っても、私はついて行く」


 ビャッコも言った。

「おいらも行くぜ!」


 隼人が一瞬、躊躇したが──ナヤナの念話が割り込む。


『いいえ、隼人。ビャッコはもう、その辺の戦士よりも頼りになります。

 彼は、ここでは死なない。私が保証します』


「見たのか……未来を?」

 隼人が問う。 


ナヤナは、静かに頷いた。


 ──こうして、自由都市同盟と隼人たちによる最終決戦を挑むべく、作戦は定まった。

動員令により同盟各都市の魔導戦艦たちは、次々と戦いの空へ舞い上がる。 

一路、ノヴァンティスを目指して。 決戦の火蓋が切られようとしていた。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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